大西郷という虚像

『大西郷という虚像』/amazonより引用

幕末・維新

西郷を一刀両断!書籍『大西郷という虚像』には一体何が書かれているのか

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「密貿易の国」がそもそも攘夷を目指したのか?

筆者は薩摩藩に対し、根源的な問いをつきつけます。

「そもそも密貿易で収益をあげていた国が、攘夷を目指すだろうか?」

ハッとさせられました。

薩摩はむしろ「もっと国を開いて通交しろ!」と幕府に要求するほうが自然かもしれない。

そして次の矢が投げかけられます。

「そもそも薩摩は倒幕を目指していたのか?」

確かにこれは引っかかっていた点です。

西郷や大久保ら倒幕派は藩内で孤立気味で、主流は雄藩による政権樹立が久光の方向性でした。

西郷隆盛と大久保利通/wikipediaより引用

攘夷もない。

倒幕もない。

そうなると薩摩は一体何を目指していたのか。

このあたりをバッサリと「全ては策略好きであった西郷の意図に引きずられた」という結論に持って行きます。

まぁ確かに、薩摩藩というのは、「トップの久光」と「臣下である西郷や大久保ら」の考え方・行動がバラバラだったのは、その通りであるのですけれども。

 


「赤報隊」問題 どうしたってテロは評価できない

本書のテーマからすれば、絶対に避けて通るはずがないのが「赤報隊」問題です。

赤報隊とは、幕末の関東(主に江戸)で、幕府を挑発するために放火や強盗などの破壊活動を行った部隊のことで、西郷が駒として使い、コトが終わったらアッサリと捨てたという経緯があります。

ゆえに西郷について語る時、誰しもこの問題では口が重たくなります。

むろん本書の筆者にそんなことはありません。

テロという手段を評価することはできない、余りに下劣な手段だから。他にもいくらでも手はあったはずだ、と言い切ります。

さらには西郷が良心の持ち主であるかのように思えたとしても、それは人並み程度なのだと言います。

長州の山県有朋井上馨の持つ“良心ゼロどころかむしろマイナス”と比較して、相対的に高く見えるのだと……。

さらに江戸城の「無血開城」もまったく評価しません。

弘化年間(1844年-1848年)改訂江戸図/wikipediaより引用

詳細は本書を読んでいただくとして、そんなものはただの神話だと斬って捨てます。

さらに筆者は、徳川慶喜恭順の時点でもはや大義がないにも関わらず、テロを阻止された私怨で会津に戦争を仕掛けた、と西郷を断罪するのでした。

 


確かにブレない西郷像だが

本書はある意味スッキリとして痛快かもしれません。

著者の持つ西郷像には微塵のブレもなく、とにかく陰険な小人物であると、終始一貫しているからです。

ただし、歴史書であまりに痛快というのは、むしろ警戒すべきでしょう。

本書は何もかも西郷のパーソナリティが原因であると言いすぎているのではないかと感じます。

歴史ファンとしては、本書と他の西郷伝記とあわせて読み、「こういう考え方もあるのだな」と参考にするのがよろしいかと。それであればなかなか面白いとは思います。

西郷ファンには絶対におすすめできませんが……。

ただし、筆者が指摘する「明治維新が無批判に称揚されてきた」という点については、一理あるのではないでしょうか。

ときに批判的に維新を見直す作業も意義がある――そんな風に私も感じています。

「誰かにオススメできる本なのか?」と言われたら即答はできかねますが、かといって「面白くないのか?」と問われたら、そこは「面白い」と思える、なかなか難しい本かもしれません。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考】
原田伊織『大西郷という虚像』(→amazon

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