杉田玄白

杉田玄白/wikipediaより引用

江戸時代 べらぼう

人体の腑分けに驚いた杉田玄白~如何にして『解体新書』の翻訳出版に至ったのか

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多くの弟子たちに蘭学への道を残す

無名の医師であった杉田玄白の名は、世に広まりました。

そのことを嫉妬し、非難する漢方医もいて、玄白は反論しています。

一方で、玄白を慕い、師事する後進の者たちもおりました。

中でも大槻玄沢は、杉田玄白と大野良沢から名をとった新進気鋭の一人。

彼ならば翻訳を任せられると、玄白は大いに期待を寄せ、玄沢もまたそれに応えています。

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玄白は家庭的にも恵まれ、穏やかで順調な生涯を過ごしています。

一方で友人の平賀源内は、殺人により逮捕され、獄中死を遂げるという不幸に見舞われました。このとき、玄白は精一杯の弔いを行い、墓碑銘を手掛けています。

いくら非常の才を持つからといって、死に方まで非常でなくともよいだろうに――玄白はそう嘆いたものです。

さらに享和3年10月17日(1803年11月30日)には、一回り年長である前野良沢も没してしまいましたが、玄白への評価は高まるばかり。

2年後の文化2年(1805年)には、11代将軍・徳川家斉に拝謁し、良薬を献上しました。

そしてその2年後の文化4年(1807年)、家督を養子の杉田伯元に譲って、隠居するのです。

医者である玄白は長く生きました。

最晩年には回想録『蘭学事始』を執筆し、大槻玄沢に校訂を託し、文化14年(1817年)、息を引き取ります。

享年83でした。

大槻玄沢ら多くの弟子たちに、蘭学は引き継がれてゆきます。

玄白は幸運な世を生きた人物といえるのかもしれません。

彼の生涯は家斉の治世のうちに終わり、それは後世の人々が「天下泰平の世であった」と回想する時代でした。

江戸幕府の諸制度が限界を迎えてきたとはいえ、深刻には表面化していない、いわば最後のきらめきがあったのです。

 

最後の蘭学者『蘭学事始』を世に出す

杉田玄白の回想録は『蘭学事始』といいます。

蘭学がまさに本格的に学ばれ始めた時代――玄白たちの青年時代は前述の通りまだ幕府も安泰であり、幸せな時代といえました。

しかしその後、大槻玄沢の世代を経て、新たな時代を迎えると、西から様々な脅威が押し寄せます。

玄白が亡くなったころ、ヨーロッパでは【ナポレオン戦争】が終結。

西洋列強は東に目を向け、日本にも迫ってきました。そんな状況の中で、国防の重要性を説く蘭学者たちは、むしろ迫害されるという受難の時代が訪れたのです。

さらに時代がくだると、蘭学者たちは嘆きます。

オランダは西洋列強の中ではあまりに小さすぎる。ナポレオンのフランスに学ぶべきではないか? いや、ナポレオンを倒したイギリスか?

ともかく蘭語だけの時代はもう終わった。英語やフランス語を学ばねばならない。

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そうして見識を広げ、色々な限界を感じていく者の一人に、中津藩士である福沢諭吉がおりました。

幕臣として咸臨丸に乗りアメリカにまで渡った福沢は、幕府が崩壊する様を目撃します。

迎えた明治の世では、攘夷だのなんだの騒いでテロ行為も辞さなかった薩長の連中が大手を振ってのし歩く――福沢にとっては不愉快極まりない状況が待ち受けていました。

あいつらだけが西洋に目を向けていたのか?

いやいや、そんなわけはあるまい!

そう考えた福沢諭吉は、同郷の先人である前野良沢を顕彰し、『蘭学事始』を刊行します。

今の明治の世があるのは、蘭学に目を向けた先人あってのことである――そう世に知らしめたのです。

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福沢は実用性から英語を学び、アメリカで大いに見聞を広めました。

しかし彼も、もとはといえば蘭学者です。

オランダを第二の故郷と慕うほど、蘭学に思い入れがあった。

かくして、最後の蘭学者・福沢諭吉の手によって、その道のパイオニアである杉田玄白たちの業績は世に広められたのでした。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
片桐一男『人物叢書 杉田玄白』(→amazon
杉田玄白/片桐一男『蘭学事始』(→amazon
大久保健晴『今を生きる思想 福沢諭吉 最後の蘭学者』(→amazon

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