「美南見十二候 六月 品川の夏(座敷の遊興)」

「美南見十二候 六月 品川の夏(座敷の遊興)」/wikipediaより引用

江戸時代 べらぼう

鳥居清長は歌麿のライバル~美人画で一世を風靡した絵師は今まさに注目を浴びる時

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鳥居清長
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寛政の挫折を経て、堅実な画風へ

天明5年(1785年)、師である鳥居清満が没しました。

鳥居清長は、鳥居派本来の仕事である歌舞伎の看板絵、番付といった仕事を手掛けます。

本業で名を馳せる鳥居派も、他派の台頭に苦慮している、そんな最中に本来の仕事をしっかりとこなすことで、着実に派を守る誠意がありました。

次の鳥居派は、師匠の孫である庄之助と決まっています。清長はその中継ぎとして、家業を絶やさぬようつとめたのです。

鳥居派は庄之助改二代目鳥居清満へ、無事引き継がれることとなったのでした。

ただし、この路線変更には他の意味合いもありました。

田沼意次の重商政策は、江戸をのびやかな街にしました。

贈収賄への批判、経済格差への不満はあれど、活気があった――天明年間の清長の絵は、そんな世相を反映していたともいえます。

それが松平定信の時代となると【寛政の改革】が始まります。

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庶民の娯楽に対して厳しい取り締まりが始まり、クリエイターも庶民も、規制の目をかいくぐる息苦しい時代。

それでも喜多川歌麿は手を変え品を変え幕府の目を掻い潜り、斬新な【美人画】を世に送り出し、売上をますます伸ばしていく。

そんな寛政4年から6年(1792年から1794年)にかけて、清長は【美人画】『十体画風俗』を発表します。

一枚の絵に女性が登場し、様々なポーズを取る作品です。のびやかな肢体の美女は、定番の技法であるといえます。

このシリーズは、喜多川歌麿『婦人相学十躰』のヒットを受け、同じテーマで挑んだ作品とみなせます。様々なポーズを見せる美女という点で一致しているのです。

歌麿のこのシリーズは、「“相学”である(人相学である)」だとしてトボけながら、女性の姿を描いたものです。

清長が八頭身の全身を入れるのに対し、歌麿得意の【大首絵】、つまりバストアップでした。

『浮気之相』では、湯屋あがりで胸をはだけた女性が、しどけなく振り返る様を描き、生々しさやリアリティのある歌麿に、江戸っ子たちは軍配をあげました。

そんな歌麿の作品が人気を博して話題をさらう中、清長の作品は一向に売れません。

結果、10枚シリーズの予定が、5枚で打ち切りになってしまい、清長は【美人画】から手を引くことにしました。

同世代の絵師が、同じジャンルで、一致するテーマで売りだす――その大勝負での敗北は、清長の心を折ってしまったのかもしれません。

 

幕府の目を掻い潜ってまで歌麿には勝てぬ?

晩年になっても、清長は絵筆を執り続けます。

得意とする【美人画】ではないジャンルであがいていました。

【寛政の改革】以降、ますます厳しくなる幕府の規制――その目を掻い潜って絵を描いていても、歌麿を圧倒することはできぬと清長も悟っていたのかもしれません。

しかし、その歌麿ですら、最晩年は過去のヒット作を焼き直しするような苦境に陥っていきました。

「画狂人」と消された葛飾北斎のように、ひたすら己の画業を貫くだけの我の強さがあるわけでもない。

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版元、顧客、鳥居派のこと、つまり商売も考える、そんな常識的な人物であったのでしょう。

そして文化12年(1815年)5月21日に死没。

享年64。

文化3年(1806年)に没した歌麿からほぼ10年後のことでした。

清長と歌麿は同世代であるものの、画風は清長が一世代前とされます。

鈴木春信と鳥居清長の間に位置する美人画の巨匠・喜多川歌麿は前述の通り「六大浮世絵師」の一人に数えられます。

『べらぼう』での鳥居清長は、蔦屋と歌麿のコンビが挑むライバルとして描かれることでしょう。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから(→link

【参考文献】
近藤史人『歌麿 抵抗の美人画』(→amazon
田辺昌子『もっと知りたい 喜多川歌麿』(→amazon
小林忠『浮世絵師列伝』(→amazon

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