てい(蔦屋重三郎の妻)

楊洲周延『真美人 眼鏡』

江戸時代 べらぼう

『べらぼう』橋本愛演じる“てい”は勝ち気な地女~蔦重とはどう結ばれるのか

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蔦重の妻てい
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蔦重は地女からモテるのか?

さて、そんな地女のていからみて、蔦重は魅力的な男性なのでしょうか。

顔がいいことは、吉原随一の二枚目好みの誰袖花魁の反応からみても伺えます。

横浜流星さんは令和でも、江戸でも、美男子であることは確かであり、揺るぎない事実です。

とはいえ、江戸のモテる条件は、今とは異なります。

京都の王朝風美男とも全くちがう。江戸時代が折り返し地点を過ぎたころ『べらぼう』の時代は、江戸っ子たちが自分たちの自信に目覚めた時代でした。

東夷(あずまえびす)と京都から長いこと蔑まれてきたが、俺らの文化こそ粋なんじゃあねぇか?

そう思えるようになったんですね。制度上では、武士が行政を担うとはいえ、文化面では町人が強く、トレンドを生み出すのは江戸っ子でした。

そんな江戸のトレンドにかなうモテ男「江戸の三男」といえば、こんな職業があります。

◆力士

今でいうところのトップアスリートですね。

女性の相撲観戦は危険であるため禁止されていたものの、モテることは確か。

どのへんが魅力的なのか?というと美肌です。

肌を露出するため、力士は美肌に気を使います。

そんな綺麗なもっちり肌が血の気を帯びると、そりゃあもうセクシーでたまりません。江戸女トップクラスのモテモテ枠で、だからこそ浮世絵でも人気の題材となりました。

歌川国芳の相撲絵/wikipediaより引用

◆鳶職

「火事と喧嘩は江戸の華でぇ!」

この決まり文句、皆さんも一度は聞いたことがおありでしょう。

江戸の華につきものの職業は鳶職でした。

鳶は血の気が多い。高いところへ平気で登らねばならない。それには勇気が必要で、江戸っ子が大好きな「鉄火肌」でなければ務まりませんでした。

ゆえにしょっちゅう喧嘩もします。

そして町火消しを兼任することも多い。

火消しいろは組/wikipediaより引用

纏を手にして高所に登っていく火消しの素敵なこと……。町火消しは体重が軽く、身が軽く、勇気があって男っぷりがよくなければならない!

そんな江戸っ子でも選りすぐりの美男たちが、果敢に火災へ立ち向かい、眉毛が焦げて、火傷の跡が残れば、もう江戸の女からするとたまらない存在です。

こうした伝説級の人物として、徳川慶喜にかわいがられた新門辰五郎がいます。

新門辰五郎/wikipediaより引用

慶喜が京都に残してきてしまった馬印を持ち帰った辰五郎は、まさしく伝説の火消しでした。

◆与力

江戸っ子にとって武士は、貧乏たらしく、お固く、野暮な存在です。

その例外枠が与力でした。

奉行のもとで犯罪捜査を担当する。扶持はさほどでなくとも、職業柄、収入は多い。

ゆえにおしゃれもこなし、毎日着替えることができた。

職業柄、町人と距離が近く、町人に偽装できるよう、髷もすぐに結い直せるようにしている。

ダンディな存在だったのです。

こうした江戸っ子の男らしさを持つ男伊達こそ、地女の憧れの的でした。

蔦重は身が軽く、階段落ちも楽にこなしているようには見えますが、どうなのでしょうか。

劇中でモテている男といえば、絵師であり戯作者でもある、北尾政演(山東京伝)も該当しますね。

彼は吉原特化型、遊び人系です。

劇中でさんざん揶揄されているキンキン野郎の最上位版ともいえます。

こうした連中も身なりでわかることは、ドラマを見ていれば理解できることでしょう。

細く気取った髷を結い、活発なイメージとは異なります。

彼は小股でチョコチョコと小走りをするタイプ。ダイナミックに駆け回る蔦重とは異なりますね。

両者ともイケメンではあるものの、タイプは異なります。

歌川国貞『稲瀬川勢揃いの場』/wikipediaより引用

 


美肌を保ち ムダ毛処理をして 下着をチラ

ていが蔦重のファッションにどこまで興味を持つかは不明です。

とはいえ「清潔感」は時代を超えて好感度には不可欠な要素。

江戸男のファッションからその点を考察していきましょう。

まず、なぜ江戸には銭湯文化が根付いたのか?という点。

江戸では関東ローム層から吹きつけてくる砂埃が舞い散り、風呂に入って洗い流さねば大変なことになったのです。

豊かな風呂文化はかくして形成されてゆき、清潔感はモテの第一条件とも言えました。

具体例を挙げておきましょう。

・肌のお手入れ

当事は男女ともに肌は白く、ツヤツヤであればあるほどモテます。糠袋で磨き上げましょう。

・ムダ毛処理

江戸時代は男性の方が露出度が高い。

褌一丁で闊歩し、尻を見せて歩くこともあった。となれば、その下がボーボーだったら話になりません。

モテに気遣うできる男は、ムダ毛をきっちり処理します。湯屋には軽石があり、男性だけが用いてムダ毛処理をしていました。

・見せ褌

褌を見せるとならば、オシャレなものでアピールしたい!

実は当事の褌はなかなか貴重で、つけていない人もいます。古着の褌も出回っていました。

あえて褌を見せつけたいのであれば、新品でオシャレな褌にしたい!

一味違う褌をお披露目できれば、それはもうモテます。

・帯は低く締める

江戸の美男を語る上で、こんな表現が出てきます。

「腰に帯を低く、キリリと締めたいい男」

男ものの帯は女ものとは異なり、低く締めることでビシッと決まる、というわけですね。

なぜか?

それは実際に和装をしてみれば理解できます。町人男性は着流しで、裾がはだけやすいのです。

それを防いで落ち着いた身のこなしをアピールするには、帯は低い位置の方が決まる。

和装に慣れないと、脚を長く見せるためか、高い位置に帯を締めてしまう男性がいますが、低く締めた方がビシッと決まるものですよ。

豊原国周『処女翫浮名横櫛』/wikipediaより引用

・裾のはだけ方

裾をはだけさせるか、させないか――ここもアピールポイントです。

やんちゃな若者は蔦重のようにはだけてもよいでしょう。

しかし、鶴屋のようにクールな知性派であれば、そこは抑えねばならない。北尾政演のようなおぼっちゃまタイプも小走りで抑えておきましょう。

いかがでしょうか。江戸時代男性のムダ毛処理は、ハイレグを着ていた昭和平成のアイドル並に厳しい話ものがあります。

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