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【廃刀令】
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怪しい者はその場で斬り捨てよ
幕末動乱が本格化した嘉永・文久年間。
治安はとりかえしがつかないほど悪化します。
凶悪犯でも【生け捕り】を原則にしていた幕府も、もはや【斬り捨て】を命じるようになりました。
浪士、博徒、やくざ、それに相楽総三のようなフリーランス志士。関東地方はこうした暴力を辞さない者によって溢れていたのです。
文久2年(1862年)の「生麦事件」に際しては、イギリスの報復を恐れた幕府が、関八州の大名・旗本に対し、いつでも合戦に対応できるよう非常宣言を出していました。
そんな雰囲気が町人や百姓にも伝わり、江戸まで騒然としていたのです。
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かくして江戸を含めた関東の治安はどんどん悪化。
文久3年(1863年)には「怪しいものは逮捕しなくてもよい。その場で斬り捨てよ」というお達しまで出されます。
そんな最中、危険も顧みずに江戸の治安維持を担当したのが庄内藩であり、江戸っ子は彼らに惜しみない声援を送っていたのだとか(庄内藩については以下の酒井了恒記事をご参照ください)。
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リアルマッドマックス状態で関東を震え上がらせた事件・集団もおります。
一例を挙げますと。
・水戸を中心とした「天狗党の乱」
・江戸で猛威を振るった「薩摩御用盗」
血で血を洗う争いを前にして、もはや刀はクールなファッションアイテムなんかじゃありません。
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危険極まりない武器。
明治まで生き延びた人々にとって、刀はトラウマの引き金となる恐ろしいものでした。
刀は恐怖の「切り捨て御免」に使われた凶器――そんなイメージは、こうした幕末経験者の経験談が採用されたものなのでしょう。
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いいじゃん、廃刀令♪
そんな刀の時代に終わりを告げた明治。
1876年に施行された「廃刀令」と言いますと、こんなイメージがあるかと思います。
「武士の誇りを奪われたため、不満が募っていった」
確かにそういう側面はあり、佐賀の乱や西南戦争に代表される【不平士族の反乱】を招いた部分もあります。
しかし、それだけではありません。
◆刀=イケてない
以前から、そんな意見が、実はかなりありました。むしろ多数派です。
ましてや明治時代ともなると、洋装が普及し始めます。そうなると日本刀はおかしい。
文明開化だ、西洋文化だ――そういう流れの中で、刀は急速にダサくなっていくのです。
明治時代の黎明期こそ、身分制度として刀を帯びる階層がありましたが、もう段々とついていけない人が続出し始めたのです。
かつては憧れのアイテムだった刀。それが明治になるとこうです。
「まだ帯刀で消耗しているの? 未だに武士の魂を主張とか、ダサすぎ」
ファッションアイテムとしてカッコ悪いとなると「刀って結局、武器だよね」と思われるワケで。
幕末、さんざん流血沙汰を見てきた人々からすれば、単に危険な存在になったのですね。
例えば福沢諭吉は『文明論之概略』でかなり痛烈に帯刀を馬鹿にしております。
本人は、元幕臣という誇りはあり、和服にこだわって刀をさしてみたいなぁ――なんて呟いたりもしていたそうですが、実際に帯刀する人を容赦なくコケにしております。
「戦国武士が帯刀したのは、実用性があるからわかる。
けれども、江戸時代の武士なんて、刀を帯びるだけで、斬り捨てるための剣術を知らない奴が十中八九でしょ。
ただなんとなく惰性で帯刀していただけじゃないですか。
今どき帯刀している人に理由を聞いてみれば、先祖代々だからだとか言いますけど。まともな理由なんてないわけですよ。
さあ言ってみなさいよ、刀を帯びるちゃんとした理由を!」
とまあフルボッコに叩いているワケです。
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マトメましょう。
廃刀令とは、
・明治の人にとっては前時代的なダサい存在
であり、それでも反発する武士については
・もう、そういうのいいから
と呆れられる対象でもありました。
その後、警察官や軍人が帯びることはあったものの、日本刀の地位は急激に低下。
空襲による焼失や海外への流出、GHQによる廃棄と、刀は悲劇的な運命をたどり続けます。
悲運の衰退をたどった伝統
『刀剣乱舞』がブームになってから、かなりの時間が経過しております。
その人気は今なおとどまるところを知りませんが、もしもゲームから興味を持って刀のことを調べた方がいらっしゃいましたら、その悲劇的な末路に愕然としたことはありませんか?
日本の伝統でありながら、悲運の衰退をたどったものは他にも数多くあります。
明治以降に破損された多くの城。
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残念ながら、日本刀もそうしたその一種でしょう。
かつては憧れのものであり、武士以外も帯びていた刀。
その歴史は明治以降変貌し、衰退してゆきました。
また刀を帯びる物騒な時代にしたいとは全く思いません。
しかし、刀そのものは大事に引き継いでゆきたいものです。
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文:小檜山青
【参考文献】
尾脇秀和『刀の明治維新: 「帯刀」は武士の特権か? (歴史文化ライブラリー)』(→amazon)
須田努『幕末の世直し万人の戦争状態 (歴史文化ライブラリー)』(→amazon)