岡崎義実

源平・鎌倉・室町

広常と大喧嘩した岡崎義実~純朴な坂東武者が頼朝の蜂起に駆けつける

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あの石橋山から一年も経たないうちに、頼朝はこうも皆の心を掴んでいた。

頼朝と馬を並べて戦ったことが、坂東武者にとっては宝のような思い出になりえた。

なお、大物ぶる広常は、この二年後に誅殺されます。

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たかが衣服、されど衣服。

広常の死のフックとして、このしょうもない争いがドラマで描かれても面白かったですよね。

 

仏教に救いを見出す晩年

岡崎義実は頼朝にとってどんな存在だったか?

彼がちょくちょく鎌倉の頼朝邸に行き、宴に参加していたことが『吾妻鏡』には記されています。

酒を飲み、魚や野菜の質素なおかずを食べる。

歌い、踊りまくり、ぺちゃくちゃとおしゃべりを楽しむ。

老齢ゆえ合戦ではそこまで活躍せずとも、宴では気のいいおじいちゃんとして、ありがたがられたのでしょう。

怒らせない限り、義実はとてもよい人だったようです。

酒の席だけでなく、義実は仏教に救いを求めるところも坂東武者らしい人物でした。

石橋山の合戦で息子・義忠の命を奪った長尾定景が読経する様に感動し、頼朝に赦免を願い出ています。

長尾定景はその後、三浦一族に忠誠を誓うのですが、坂東武者の間で、所領を中心とした利害関係だけでなく、信心による許しが武士を結びつける時代が見え始めていくのです。

そして建久4年(1193年)に老齢を理由に出家をすると、建久10年(1199年)には敬愛する頼朝が急死。

同年10月に三浦義村和田義盛が主導した【梶原景時の変】では、景時弾劾連判状に義実入道の名も入っています。

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そして正治2年(1200年)。

死を悟ったのか、北条政子を訪れ義実は困窮を訴えます。

政子はこれに応じ【石橋山の合戦】の功績をねぎらうと、それから三月後、義実は89で世を去ったのでした。

 

素朴な中世人の姿

岡崎義実は老いてから従軍したためか、功績がそこまでありません。

兄・義明や嫡子・義忠と比べると人気があったとは言えないでしょう。

そんな義実が、こうした親族を差し置いてドラマで注目される理由は、彼が典型的な頼朝の家臣だからではないでしょうか。

頼朝から「今まで黙っていて他の奴らには内緒だけど、俺が頼りにしているのはお前だけなんだぞ!」と土肥実平や岡崎義実らが呼びかけられる、序盤の象徴的なシーン。

実は『吾妻鏡』に記載されています。

つまり、その話は外へ漏れていたのです。

あまりに軽薄で単純で、現代人からすれば困惑してしまう――そんな頼朝像を際立たせるために、岡崎義実が選ばれたのであれば納得。

水干をめぐる逸話も、鎌倉の質素な宴ではしゃぐ坂東武者たちを示す事件としてはうってつけです。

同時に、我が子を討った相手であろうと、長尾定景の読経に心うたれて許してしまうところも、素朴な坂東武者らしさがあります。

岡崎義実はド派手な活躍はない。

大河の登場だって実は二度目。

それでも敢えて前面に出されるとすれば、その純朴さが当時の武士として典型的存在だったからかもしれません。

三浦一族には、当時から理解し難かったとされる策士の三浦義村がいる。

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梶原景時にしても、頭脳が坂東武者の平均値を大きく上回ったからこそ弾劾されたともいえる。

そんな突出した人物たちの中で、典型的で素朴な人物として、描かれる義実。

現代人とは全く違う、中世人とはこういうものだったのかも……と思わせてくれる大事な存在だと思うのです。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
細川重男『頼朝の武士団』(→amazon

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