せつ(若狭局)

源平・鎌倉・室町

頼家の嫡男・一幡を産んだ若狭局~ドラマでも史実でも惨すぎる最期

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比企一族の滅亡の中に消える

父・頼朝の死を受け、急遽、二代目鎌倉殿となった頼家。

御家人たちの間で意見は別れました。

比企能員梶原景時からすると、頼家が主体性を持つ政治が望ましい。

しかし、母・北条政子をはじめとする一族や他の御家人は、若い頼家の独裁には反対の姿勢。

結果、政子の意見を反映した【十三人の合議制】のもとで、頼家の政治は始まり、翌年から早くも崩壊が始まります。

正治2年(1200年)1月20日、梶原景時が一族と共に滅亡させられたのです(梶原景時の変)。

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京都とも繋がりがあり、有能な景時を失うことは、頼家体制の動揺を招きました。

そしてこの歳、せつ(若狭局)にとってはライバルに当たるつつじ(辻殿)が男児(公暁)を出産します。

源氏の女性が正室に迎えられ、将来の跡取り候補ともいえそうな男児を産む。

いかにもつつじ(辻殿)と公暁が有利にも見えますが、そもそも源氏の血筋を重視して、彼女を正室とした源頼朝は死んでしまいました。

せつ(若狭局)か、つつじ(辻殿)か――ひいては公暁か、一幡か。

いや、その前に頼朝と政子の息子である千幡だって健在です。

もはや権力闘争の炎は、轟々と燃え盛って止まらない状況。

次なる事件はその3年後のことでした。

 

源頼家が病に倒れ

梶原景時を讒言し滅亡に追い込んだとされるのが、政子の妹である実衣(阿波局)。

実衣(阿波局)の夫である阿野全成が建仁3年(1203年)、謀反を企てたとして誅殺されるのです。

このとき実衣(阿波局)も捕われそうになりながら、姉の政子が守り抜きました。

そんな中、よりにもよって源頼家が病に倒れてしまいます。

次の鎌倉殿はどうなるのか?

頼家の弟・千幡を擁立すべく、真っ先に動いたのが北条一族。

北条時政の指図により、頼家の後ろ盾であった比企能員を謀殺します。

恐慌状態に陥った比企一族は一幡を抱え、屋敷である小御所に立て篭もりますが、時すでに遅し、北条義時が攻めかかり、屋敷に火が放たれました。

吾妻鏡』によると、せつ(若狭局)と一幡はこのとき焼死したと伝わりますが、『愚管抄』では、母に抱かれて一幡は逃げ延び、同年11月3日、義時の放った手の者によって母もろとも刺殺されたとあります。

そして建仁4年(元久元年・1204年)7月――源頼家は、幽閉されていた伊豆修善寺で惨たらしく暗殺されるのでした。

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赤く燃えた一生

比企一族の女性は、感情を露わにし、個性を発揮する人が揃っています。

粛清を繰り返す頼朝の頬をいきなりぶん殴った比企尼

比企能員の尻を叩きまくる、その妻・道。

これまでの作品では静御前の影に隠れがちだった郷御前は、暗殺者を雇ったり、夫・義経に向かって「こんなところに来たくなかった!」とハッキリ意見を告げたり。

義時の妻となった比奈(姫の前)にしても、日頃の言動から、ただ大人しくて可愛い奥さんでないことはわかります。

では、せつ(若狭局)は?

決して儚いだけの女性ではないことが、演じる山谷花純さんのコメントから感じられます。

せつの色は、赤。つつじの色は、青。そう三谷さんがおっしゃっていました。

せつは、比企家の長女として生まれ、高い敷居に囲われた中でも自分の志を曲げず情熱的な愛を貫いた女性です。

頼家の自由さや童心に嫉妬しつつも、それ以上に自分がなりたくてもなれない姿に憧れがあったから、偉大な父を持ち葛藤する彼を受け入れ、味方で在り続けると自分の心に誓ったのだと思います。

不器用で純粋な部分がどこか頼家と似ているなと、観た方々に思っていただけたらうれしいです。

個性的な比企一族の女性にあって、イメージが赤とは、いかにも情熱的な性格が浮かんできますね。

しかも『鎌倉殿の13人』における彼女の最期は焼死ではなく、義時の手の者(善児の弟子・トウ)に討たれるという衝撃の展開。

我が子の命だけは助けようと必死だった姿は、あまりにも悲劇的でした。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
坂井孝一『源氏将軍断絶: なぜ頼朝の血は三代で途絶えたか』(→amazon
野口実『武家の棟梁源氏はなぜ滅んだのか』(→amazon

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