嘉承元年(1106年)7月、源義家が没しました(命日は4日とも15日ともあり不明)。
八幡太郎の名でも知られ、後の子孫からは鎌倉幕府の源頼朝や室町幕府の足利尊氏を輩出。
まさに“武士のシンボル”とも言える存在なのですが、実際、義家とはどんな人物でどんな事績があったのか?
『梁塵秘抄』には、こんな今様が収録されています。
鷲のすむ深山(みやま)には なべての鳥は棲(す)むものか
おなじき源氏と申せども 八幡太郎はおそろしや
鷲のいる深い山には、普通の鳥は住まないよ。
同じ源氏といっても、八幡太郎は恐ろしい!
「おそろしや」という言葉には、単なる恐怖だけでなく、畏敬の念も漂っているようで、智勇に優れ、正義感にあふれた八幡太郎義家はまさに伝説の勇者と言ったところでしょうか。
本記事で、源義家の生涯を振り返ってみましょう。
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清和源氏のうち河内源氏に生まれ
源義家の生年は諸説あり、その中で最有力とされているのが長暦3年(1039年)です。
父は源頼義、母は平直方の娘。
生まれた場所は河内国南部で、現在だと大阪府羽曳野市にあたりますね。
出生に際しては、父の頼義が八幡宮に参拝したとき、夢に一振りの宝剣が出てきて、「夢を見た月に、妻が懐妊を告げた」という逸話が残されています。
では、なぜ“八幡太郎”と呼ばれるのか?
源義家生誕の地で調べると、京都府京都市下京区が「八幡太郎源義家誕生地」として表示され、彼が7歳の春に石清水八幡宮で元服し、「八幡太郎」と称したことが由来となっています。
弟の源義綱と源義光は、それぞれ賀茂二郎、新羅三郎と称していて、元服した神社と生まれ順からの名乗りと推察できます。
ゆえに八幡太郎なんですね。
なお、清和源氏の男子として河内で生まれた源義家の血統は「河内源氏」と称されます。
この家系は後に錚々たる人物を輩出したため、最初から名門のように思われがちですが、義家の誕生時点では源氏の一系統に過ぎません。
要は、義家とその子孫が河内源氏を特別な血統にしていったのです。
義家が生まれた当時の武士は、政治的にはまだまだか弱い存在。
京都では藤原摂関家に仕え、治安維持や盗賊の逮捕を任務としていました。
そして地方で大規模な反乱があれば鎮圧に向かう、朝廷からの命令で動く存在だったのです。
しかし、確実に時代は動き始めていました。
気候や荘園経営の変化など、様々な条件により、権力構造も変化します。
源義家の父・源頼義の時代になると、藤原氏の最盛期は過ぎ、摂関政治は衰退しながら、院政期の前段階へ。
地方に目をやると、豪族や山賊、海賊の類が猛威を振るっており、武力行使で生活をするという意味では、武士と賊の境界がまだ薄い時代でもありました。
寺社には僧兵たちもいて、大きな武力を有していました。
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【前九年の役】黄海の戦いに参戦
11世紀の半ば、奥州で戦乱が起こりました。
中央に対する「蝦夷(えみし)」の反発であり、台頭してきたのは奥州の土豪・安倍氏。
彼らを討伐するべく、父・源頼義と共に源義家は戦地へ向かいました。
そしてその後約10年、陸奥で戦うことになり、天喜5年(1057年)11月の【黄海の戦い(きのみのたたかい)】では、厳しい寒さと食糧欠乏の中、大敗を喫してしまいます。
しかし、この戦いで当時19歳の義家は称賛の的となりました。
吹雪の中で馬に跨り、苦戦の中でも敵の白刃をものともせず、強弓で敵将を射抜いてゆく勇姿が称えられたのです。
義家が弓を引き、弓弦が鳴ると敵が倒れる――その武勇は、まるで神が遣わしたかのように思われたのでした。
康平4年(1061年)になると、源頼義の陸奥守任期が満了となります。
朝廷は、後任の高階経重(たかしな の つねしげ)を派遣するも、陸奥の武士たちにそっぽを向かれて、京都へ帰還。
武士を束ねることのできる源頼義が追討を続行することになります。
現場から離れたところで、実態に即さない人事判断を下す朝廷。
朝廷の意に背いてでも軍を動かす武士たち。
そんな構図が見えてきますね。
日本が政治システムを参考にしていた中国では、軍の跋扈により朝廷が脅かされた苦い教訓をふまえ、文民統制(シビリアンコントロール)が徹底されていました。
しかし日本はそうではなかった――そんな歴史の分岐点が、この頃から見てとれます。
源頼義や源義家らの官軍は、中央に頼ることなく、出羽国・清原氏の援軍をキッカケに膠着していた戦線を打破し、安倍氏を撃破します。
頼義は、東国における武士たちの信頼、財力、名声を手にし、そしてその嫡子たる義家も、輝かしい青年武将として成長していったのです。
かくして康平6年(1063年)、義家は従五位下出羽守に叙任されたのでした。
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