2023年春の朝ドラ『らんまん』が面白い、と話題です。
危なっかしくて目が離せない主人公(神木隆之介さん)だけでなく、骨太な歴史描写が秀逸であり、最近話題になったのが「姉の綾が酒蔵を継ごう!」と宣言したときのこと。
彼女が決意を表明すると、周囲から
「女は穢れているからダメだ!酒が腐ったらどうする!」
と非難されたのです。
いかにも非科学的であり、現代人の皆様なら「そんなバカな」と一笑に付すでしょう。
しかし、これを過去のものと笑い飛ばせるでしょうか。
2018年4月、大相撲の春巡業中に、人命と伝統をめぐって嘆かわしい騒動がありました。
土俵の上で挨拶をしていた多々見良三・舞鶴市長が、その途中に突然卒倒。
複数名の女性が救助に向かったところ「女性は土俵に上がらないでください」とアナウンスが流されたのです。
おいおい、命と伝統どっちが大事なんだよ……そんな風に呆れつつ、同時にこんなことを考えた方もいるかもしれません。
『一体いつから土俵は女人禁制になったのか? なぜダメなのか?』
相撲の歴史は約1500年。
最初の記録は『日本書紀』であり、いわゆる「神事」とされるのも頷けるものではあります。
しかし、種々の疑問を確認してみると、
【女人禁制】
というのが必ずしも合理的でもなく、むしろ長い相撲の歴史の中では
「割と最近できた決まりではないか」
ということが見えてきます。
本稿で、相撲の歴史と女人禁制を振り返ってみましょう。
明治維新で潰れそうになり
長い歴史だけでなく、協会の体質が旧態依然のせいか。
相撲はとにかく「伝統を厳守」してきた競技、あるいは神事と思われがちです。
しかし、そんなコトはありません。
実は、時代に応じた柔軟な変革こそ、相撲の本質であり、これまでも技に制限がかけられたり、経営業態も変化するなど、多くの変遷を伴って継続してきたのです。
特に明治以降は、生き残りをはかるために様々な変革を求められてきました。
なんせ150年前の明治維新で、一度、潰れそうになっているのです(以下は相撲の歴史をまとめた記事です)。
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明治維新で滅びかけた相撲 1500年前に始まり意外の連続だったその歴史
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さて、ここからが問題。
実は女性が土俵にあがることを禁じたのは、この明治以降の流れにあります。
女性が裸体で相撲を取ることは風俗上好ましくない。
相撲の品格向上のために禁止し、そこに「穢れ」という理由をもっともらしく結びつけた――そう考えるのが最も自然です。
意外かもしれませんが、女相撲は古代から存在しています。
雄略天皇が「女官に相撲をとらせた」という記録も残っているほどで、女相撲は興行として続けられ、現在もスポーツとして続けている選手も存在します。
相撲が、歴史や伝統を重んじるとなれば、女性の土俵入りを否定するのはおかしい。
要は矛盾しているのですね。
デタラメな血の穢れ信仰
すると今度は「穢れ」をご指摘されるかもしれません。
救出に向かった女性たちが土俵を下りた後、そこには塩が撒かれたとのことです。
いったい何を考えているのでしょうか。
もしかしたら、女性の穢れを払うため――という理屈かもしれませんが、では、その考え方は正しいのか。
女性の穢れという発想は「血盆経信仰」が由来で、その中身はひどく理不尽なものです。
女性は出産時の出血や月経血で地神を穢し、その穢れを帯びた水で諸聖に茶を煎じ、料理を作り、不浄を重ねてしまう。
すべての女は「血の池」地獄に堕ちるという理屈でして……ハァ? ナンダソリャ? ってなもんですよね。
男だってケガすりゃ流血するでしょうよ。同じ血じゃないんかい。
この『血盆経』とは、10世紀頃中国で作られた「偽教典」です。
本来の仏典には関係ない、世俗化の過程で広まったデタラメ思想にもかかわらず、仏教の広がりとともに、日本中に広まってしまったのです。
要は、単なる差別的なウソなんですね。
ただし、女性の月経を不浄のものとみなす思想は、全世界どこの地域でもあるもので、「穢れ」の発想は、出産、死、月経以外の出血、動物に関してもありました。
現在も、喪服で飲食店に入ったら塩を撒かれた、といった話が時折ありますよね。
しかし、21世紀にまで公然と「穢れ」の概念を持ちだし、女性にだけ適用しているのは、せいぜい相撲界くらいではないでしょうか。
土俵際に医師を常駐させればいいじゃないの
箇条書きにして、歴史的な問題点をまとめてみましょう。
・相撲における女人禁制は古くからの伝統ではなく、明治以降の品格向上のためのものである
・女人を穢れとみなす信仰は、神道ではなく仏教由来なのに「神事」とはおかしい
・仏教だとしても、偽教典由来で根拠なし
とまぁ、歴史的に見ても、根拠はありません。
そもそも伝統と神事と仏教の話がごちゃ混ぜになってるし……。
こうしたことを踏まえて、騒動の問題点を整理してみましょう。
・どうしようもない理由で女性を排除するのは差別である
・観客の誤った認識を優先し、人命を危険にさらした
・救命措置をした人に対して、あるまじき無礼
・そこまで女人禁制をするのであれば、男性医師を待機させておくべき
女人禁制を徹底させたいなら、土俵際に医師を常駐させておけばいいじゃないですか。
女性市長の土俵上あいさつ拒否
兵庫県宝塚市の中川智子市長が、土俵上での挨拶を日本相撲協会から断られておりました。
◆相撲協会:女性市長の土俵上あいさつ拒否 大相撲宝塚巡業(→link)
なんでも「伝統への配慮」を理由に土俵への立ち入りを禁止されたようで。
この対応から
「塩を撒いたのは、悪運を祓うためである」
という説明がかなり苦しくなったのではないでしょうか。
穢れなければ塩をまく必要はなく、逆に塩を撒かなければならない状況があったとすれば、アナウンスで注意されたように女性が入ったからでしょう。
まぁ、誰が見てもそう思う場面ですわな。
「女人禁制」は江戸時代「勧進相撲」からの伝統?
勧進相撲とは、寺社・仏像の建立・修繕などのために寄付を募るための相撲興行です。
しかし、現在の相撲興行は、勧進とまるで無関係であり、スポーツとして行われています。
勧進とは関係がないならば、なぜ「女人禁制」の場所で人々が暮らせるのでしょう。
過去、相撲は観客のニーズやテレビ中継にあわせて、伝統を変えてきました。
それなのに「女人禁制」だけを「勧進相撲の伝統」という理由で残す理由がサッパリわかりません。
本当に伝統を変えていけないのであれば、相撲は現在でも神社境内等で行われているはずでは?
相撲は豊作を祈る神事。土俵に女性をあげると豊穣の女神が嫉妬し、凶作となってしまう、と?
2023年現在も、その理屈を信じなければならない理屈はないでしょう。
それはさておき、相撲型、レスリング型の競技は世界各地にあります。
力比べを行ううちに自然派生してゆくスポーツの一種とみなすのが自然です。
記録に残る最古の相撲取り組みは、垂神天皇のこんな思いつきがきっかけとされています。
「野見宿禰と当麻蹴速って、どっちが強いか試してみない?」
全然神事じゃないんですよね。
要するに、神事というのは後付。
伝統とは、非合理性や差別を正当化するためのものではないはずです。
現在の相撲は、スポーツと神事を都合よく使い分けているように思えてなりません。
近代のスポーツは、差別と戦う一面があったはずです。
自分たちの都合でその理念をねじまげて、それでいながらスポーツであると見なされたいと願うのは、あまりに身勝手ではないでしょうか。
モンゴル相撲では?
ちなみに、女人禁制は日本の相撲だけではなく、モンゴル相撲(ブフ)にもかつてはありました。
選手が自発的に願掛けや縁起担ぎで女性への接触を避けていたものです。
もっともこれは過去の話であり、現在若い力士はこだわりがありません。
また、あくまで力士側の縛りであり、女性の行動に制限を加えるものではありませんでした。
レスリング系競技としては世界最大人口であるブフは、女性にも広く門戸を開いています。
かつては男性の戦士だけに許された装飾品を身につけることも、現在は許されています。
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宝塚の場合はどうなの?
宝塚歌劇団の場合、舞台のメンテナンスや挨拶のために男性が舞台にあがることはあります。
過去には宝塚歌劇団には男性の劇団員もいました。
昭和20年(1945年)からの8年間、「男子部」が存在したのです。
ただし、ファンや女子生徒が「宝塚に男は合わない」と強く反発したため、表舞台に出ることなく廃止されました。
要するにカラーにあわないということで、廃止されているのです。
宝塚歌劇団が男性がいないことと並べて適切なのは、ウィーン少年合唱団あたりでしょう。
相撲の女人禁制と比較することはまったくのナンセンスです。
また、宝塚歌劇団は宝塚の地名を冠しただけの劇団であり、宝塚市が主催するものではなく、公益財団法人でもありません。
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日本で導入された相撲の女人禁制は、本来は品格を向上させるためのものでした。
しかし明治から150年もの時が流れ、このルールはすでに時代遅れでしょう。
理不尽な慣習を残すのは、本末転倒としか言いようがありません。
前述の通り、変革こそ相撲の良き伝統です。
21世紀にあわせて、自分たちが変わってこそ競技も末永く残していけるのではないでしょうか。
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文:小檜山青
【参考】
土屋 喜敬『相撲 (ものと人間の文化史)』(→amazon)
大相撲歴史新聞編纂委員会『大相撲歴史新聞―角界の出来事まるごとスクープ!』(→amazon)


