べらぼう感想あらすじレビュー

背景は葛飾応為『吉原格子先之図』/wikipediaより引用

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『べらぼう』感想あらすじレビュー第17回乱れ咲き往来の桜~不吉な天明年間へ

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『べらぼう』感想あらすじレビュー第17回乱れ咲き往来の桜
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神隠しのあと、新之助と“ふく”はどうなったか

耕書堂に笠を被った客がきました。

なんと新之助ではないですか! 次郎兵衛が驚いて名前を呼ぼうとして、留四郎から阻止されます。

ったく、あぶねえヤツだ。戦国幕末大河ならとっくにお陀仏だよ。

蔦重は新さんと話し合います。

なんでも彼は源内に手を合わせに来たのに、墓もなくて困っているようで……これも悲しい話ですね。新さんがそばにいれば弥七が源内に近寄ることなく、エレキテルであれだけ揉めなかったかもしれません。

その新さんは今、源内のツテがあった村で百姓をしているそうです。

総髪から百姓の髷になりました。

「駆け落ち者の落ち着き先としてはまっとうだ」と蔦重が驚いています。

しかし、近年は事情も変わっているようで、百姓たちも一山当ててやると気張って江戸に出る者が増えていて、村は人手不足なんだそうです。そのため厳しく身元を詮索されることもなかったそうで。

新さんは謙虚なので伏せているのかもしれませんが、こんなに賢い人物だったらむしろ大歓迎。引く手あまたじゃねぇか?

読み書きができる武家出身となれば、実に重宝されるんです。

新さんのような武家出身者は礼儀正しく律儀だとされることも多いですし。

こんな好人物が「二男以下というだけであぶれてしまう」そんな身分社会がおかしいのでしょう。

彼のような旗本御家人の二男以下は「冷や飯食い」(家督を継いだ兄と同居するもの)になるしかなく、浪人してでもその日暮らしで生きていける江戸は受け皿になっておりました。

江戸という大都市は、行き場のない男たちを吸い寄せる近世都市なのです。

そして女房の「おふく」も、百姓の暮らしが性に合って楽しそうにしているんだってよ。

そう、「うつせみ」は「ふく」に戻りました。

江戸時代の一般的な女性名は大半が二音節です。『光る君へ』の「まひろ」や「ききょう」のような、三音節以上の名前は珍しい。

禿として「あざみ」や「かをり」とされた時点で、客は取らずとも吉原の女です。

花魁としての「うつせみ」「はなのい」「たがそで」という名前も吉原女郎ならではの名乗りです。大奥の「たかおか」や「つるこ」も特殊な名前ですね。

なお、漢字表記となると当時は決定的なものでもないので「福」でも「富久」でも、どちらでもよいと思います。

つまり、この二音節の「ふく」という名前は、足抜け完了の証なんです。

吉原女郎は、歌舞音曲をこなす天女とも喩えられます。

そんな天女が地に足をつけ、幸福な女になった証がこの名――呼ぶだけで、呼ばれるだけで、二人はきっと幸せでしょうね。

 


往来物の可能性

顛末を聞いた蔦重が「恋女房に江戸土産を求めているのか?」と聞くと、そこまでゆとりはないと新さん。

村の者から本を買ってくるよう頼まれ、蔦重のものもついでに買っていきたいと思ったのだとか。律儀ですねぇ。

蔦重は、新さんが買った本を見せてもらいます。

「往来物」でした。

初級教科書であり、手紙という往来する書物の形式で構成された書物です。文面だけでなく、購読層にあわせた単語や固有名詞が学べる。

新さんは暇なおりに、読み書き算盤を教えているそうです。

学がないと商人や役人にしてやられるそうで、これは歴史知識のアップデート案件ですね。

かつて江戸時代の農民は従うしかできず、搾取されっぱなしというイメージがありました。

実はそうでもなく、文書も読みこなし、掟を作り、訴訟も頻繁に起こしていたことが明らかになっています。本当は、なかなか言うことを聞かない存在だったんですよ。

話を聞いた蔦重はニヤリ。

新さんたちはどうやって本を入手しているのか――本の流通経路を聞きだします。

聞けば、在庫は小間物屋に置いてあるようで、普段は行商に頼んだり、市場に古本が出たり、貸本もたまにあるのだとか。

江戸の本屋とは異なるルートがある。それを蔦重が察知しやしたぜ。

蔦重が親父様たちに提案すると、はいそうですか、と理解はされませんでした。

往来物なんてどこの本屋だってある。

今さらそんなもん作る意図がわからねえ。

だいたい色里の本屋でそんな手習物を置くというのもミスマッチだろう。

そんな意見はごもっとも。蔦重は、青本や洒落本と違い、往来物は一度版を作れば何度でも使えると言い出します。

これは鱗形屋の二男坊・万次郎も似たような発想をしておりましたね。書物問屋で扱うような節用集は手堅く売れると。

この場面で気になるのが、大文字屋が苦しそうにしているところですかね。痛みをこらえつつ、「今更作っても売るところがねえだろ」と反論します。

売れねえと冷たい親父殿に、蔦重は「勝ち筋がある」と自信満々の表情を浮かべます。

ただしそれには、親父様たちの協力が必須だそうで。

 


地方に文人文化が生まれる江戸時代

蔦重の頼みを聞いた駿河屋が、越後の長谷川様という庄屋の客を紹介します。

地方の文人で、金もあるし、顔も広い。江戸で遊んでいることを自慢したいタイプだそうですぜ。

こういう人は書物も買うし、浮世絵も土産にするから、押さえておいて損はねえ。

長谷川は富本の稽古本を受け取り、目を細めています。

そして蔦重は、往来物を出すうえで「米のいろはに詳しい旦那様の意見を伺いたい」と切り出しました。

蔦重が地方向けにカスタマイズした往来物の需要を見込んだのは実にうまい。その土地の固有名詞や特産品を学べる方が実用的なんですね。

海沿いだったら魚介類の名前。

商人だったら商品名。

そうカスタマイズしたもののほうが実用的なのです。

すると長谷川はしみじみと、

「ずっと、思ってたんだがや……」

と、切り出します。

ここで彼はしみじみと、越後の雪の多さについて熱心に語り始めました。

雪の結晶図/『北越雪譜』初編巻之上/wikipediaより引用

蓑を身に着け、かんじきを履いた男性『北越雪譜』の挿絵/wikipediaより引用

二人目は信濃の豪商・熊野屋。

株仲間の頭をやっているよ」と松葉屋が説明します。

株仲間とは江戸期の同業者組織ですね。実は書物問屋は株さえ買えば仲間に入れるのですが、地本問屋はそういう明確なルールがまだ無く、蔦重は手打ちするしかない状態なんですね。

さてこの熊野屋も、往来の添削を頼まれると、身を乗り出してやる気を出し、商売について熱く語り出します。

田沼政治が見えてきますね。こういう津々浦々の商人を熱くしているんですな。

つるべ蕎麦には、西村屋の忠七と小泉忠五郎がいました。

店の奥には吉原の女郎や禿に手習をさせている師匠がいて、そこへ蔦重がやって来ます。

慌てて顔を背ける二人。蔦重はこの師匠にも意見を伺っております。

そして四五六のもとへやってくる蔦重。すかさず往来物の原稿を差し出すのでした。

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