舞台で何やら芝居が演じられています。
出てくるのは「本重」という蔦屋重三郎をモデルにした人物。
客席の娘たちが噂話をしています。
安永9年(1780年)、蔦重は一気に新作10冊を刊行し、「耕書堂」の人気は急上昇したそうですぜ。
九郎助稲荷も驚く、耕書堂の繁栄
耕書堂が手掛けた新作は地本問屋で取り扱われない。
市中で売られていないことからかえってプレミア感が出て、なかなか繁盛していると九郎助稲荷が説明します。
狐らしく黄色い着物がかわいいねえ。そこは異世界から来た存在なので、スマホでSNSにも投稿しておりやす。

月岡芳年画『風俗三十二相 はづかしさう』/wikipediaより引用
店にかけてある書にもご注目ください。
江戸時代となると楷書体が民間でまで定着しています。早く書くとなるとどうしたって崩字が便利なのですが、かっちりきっちり書く書体も定番になっていくわけですね。
吉原だというのに、女郎ではなく書物目当ての客も増えていて、おじいさんが孫を連れて来客しております。
店は繁盛して、りつや次郎兵衛が接客をこなす程でした。
するとそこへ若い娘がやってきて、ワーキャーしている。
「“細見を急ぎます”と言ってくださ~い」
おっ、芝居で本重を見て追っかけになったんですな。会いに行けるアイドルってやつだ。蔦重がセリフを真似ると「ああ〜っ!」と推しが尊いと悲鳴をあげて駆け去ってゆく娘たち。
これも伏線かもしれねえな。
女郎でなくて茶屋娘を美人画にして売り出したら、追っかけが広めてくれるかもしれねえぜ。新章初回は伏線だらけだ。
ちなみに男にとっての「悪所」は吉原や岡場所をさしますが、女にとっての「悪所」は芝居小屋だそうで。
理由は、推し活にうつつをぬかしてしまうからだってよ。推し団扇も推し色も江戸時代からあったんですぜ。
これほど江戸っ子の推し活心理を熟知しているはずの蔦重が、その目が曇る日が来るのであろうか……ここも重要な点でしょう。
耕書堂には、いねとふじも助っ人としてやってきました。いねが「いい加減人を入れたらどうか……」と言うのですが……。
「いいかげん、戻ってきてくんねえかなって思ってんすけど……」
そうぼやく蔦重。
「誰がだい?」
「唐丸に決まってんじゃねえすか」
「唐丸が生きてるわけないだろ!」
いねがそう否定しても、蔦重は生きていると信じている。唐丸でなく瀬川ではないか?という推察もできるかもしれませんが、果たしてどうでしょう。
誰も西の丸になりたがらない
さて、お城では――。
「次の西の丸を狙う者が怪しい」
松平武元のそんな言葉を田沼意次が探っています。
武士の姿で登場した稲荷ナビが説明しながら話が進んでゆきますが……武元の狙いはどうにも空振りのようで、家治の弟・清水重好は「西の丸になりたくない」と断ってきたそうです。
確かに、後継者教育を受けていないと、将軍職に就くのは大変です。
そのころ一橋治済は自邸で相撲見物をしていました。
隣には、嫡男の豊千代と、薩摩の姫である茂姫。

茂姫(広大院)/wikipediaより引用
この並びの時点で『逆賊の幕臣』に出てくる幕臣たちが「あー……」とため息をつきたくなるほど嫌な絵でもあります。
徳川の血を引く家に、外様からの姫なんて迎えたら危険でしょう。一橋は本当にろくでもない。
それにしても、妙なんですよね。なぜ嫡男がまだこれほど幼いのに、薩摩の姫を許嫁にする必要があるのか。
といっても、これは薩摩にとってもなかなか大変な話になりやすぜ。
徳川と繋がったからには格式をあげたい――島津重豪がそう張り切ったものだから、財政赤字は悪化する。
重豪は斉彬のロールモデルとされ、その名の通り豪快な名君です。
借金体質の薩摩藩、その財政担当者からすれば名前を見ただけで顔が引きつりそうな人物ですな。田沼時代はお殿様も個性派揃い。松前のお殿様にも注目ですぜ。
そしてこの場面では、治済の子が実に多いことも伝わってきます。
彼の子もその傾向が似てくるわけで、江戸時代も半ばを過ぎると、子どもができないか、逆に極端な多産か、貴人たちの間でも極端なまでに性質が分かれてゆきました。
そんな一橋治済が、意次に向かって実に意外なことを言う。
「西の丸にはなりたくない」
「こういう時のための御三卿でしょう!」
意次がそう粘るも、治済は「家治がもうひと頑張りすればよい」と言い出しました。
ここで赤ん坊の鳴き声が入るのも、なんとも生々しい。
江戸時代のスタミナドリンクである生卵を朝から飲んでいたとされるのも納得できる治済の精力ですなァ。

徳川治済(一橋治済)/wikipediaより引用
幕末の徳川斉昭といい、精力絶倫の権力者はその時点で何か恐ろしい。
ともかく意次は困り果ててしまいます。
三浦庄司に「誰もが将軍になりたいと思ったのに……」とぼやくほど。
そして稲葉正明が「御三家には西の丸に養子となれる男子がいない」という驚愕の調査結果をもたらすのでした。
東男の上様、京女の鶴子に惚れる
意次の報告を聞いた徳川家治は、報告を聞いて愕然としています。
「子を作ることが最善の策です」
意次がそう告げると、もう自分は高齢過ぎるだろ!と躊躇しています。
江戸時代のベストセラーに貝原益軒の『養生訓』があります。
健康の秘訣として、歳を取ったら房事は控えよと書かれており、その考えからすれば意次の提案は主君の命を縮めかねない。
それでも心優しい家治は、意次から「家基と松平武元も喜ぶ」と言われると迷ってしまいます。

徳川家治/wikipediaより引用
すでに用意しているとまで言われ、もう女子はよいと困惑するしかない家治。しかし……。
高岳とその隣に「亡き御台様遠縁のもの」だという女性がいました。
鶴子という、その女が顔を上げると、家治は目を留めしげしげと眺める。
驚いて言葉を失うほど、亡き妻に似た女のようで。
この上様と亡き御台所は、まだ幼いうちに許嫁として出会い、そのまま添い遂げた仲睦まじい夫婦でした。
そんな永遠の初恋が蘇ったのか、さしもの家治も動揺しています。
そして新章オープニングへ。
脂の乗った店主へと蔦重はのし上がってゆきます。
それのみならず、ズラリと並ぶ妖怪変化のような髑髏の姿。赤い富士の背景には雷雨が見えます。
天変地異に見舞われた天明年間らしい映像です。
地本問屋と蔦重は対立し続けるが
さて、そんな蔦重ですが、彫師の四五六から「今後仕事はできねえ!」と言われてしまい戸惑っています。
なんでも市中の地本問屋どもが、脅しをかけてきたそうですぜ。
耕書堂を引き受けたら市中の本屋の仕事はなくなるってよ。汚ねえぞ、鶴喜に西与よぉ!
耕書堂が売れてきたから焦っていて、潰しにかかってきているのだと四五六は推察しています。
それでも「こっそりやってもらえねえか?」と頼む蔦重の頭をペチッと叩いて、四五六はこうきました。
「いいかげん、市中と手打ちしやがれ、べらぼうめ!」
まぁ、そうなるわなぁ。

地本問屋の様子/国立国会図書館蔵
吉原に戻ると、次郎兵衛が「彫師なんていくらでもいるから別のところに頼めばいい」と呑気なもんです。
しかし、彫師によって技術の差が相当あるようで、安けりゃいいというわけではない。
彫師の腕が良くねえとせっかくの作品も台無しだと、留四郎がフォローしています。
次郎兵衛はその留四郎に肩を揉ませつつ「市中と手打ちすればいい」と言い出す。なんでおめえは働かねえのに肩凝ってんだよ。
そう簡単に手打ちできないでしょう。蔦重は「この流れでこっちから引くのはうまくねえ、親父様が黙っちゃいねえでしょ」とぼやいています。
これがこのドラマの見せどころってやつで、市中との手打ちを引っ張るんですな。
実はこの地本問屋との対立は、誇張があるようにも思えます。
そりゃなんでか?といやァ、橋本愛さんが演じる“てい”との縁談ですよ。
瀬川との恋は叶っちまうとかえって蔦重が成功する芽が摘まれかねない。一方で本屋の娘と蔦重が恋仲になって、そのまま夫婦となりゃァ、頑固な江戸っ子だって情けにほだされてどうにかなりまさァ。
そういう算段じゃねえすかね。
吉原ロミオと本屋ジュリエットの恋がこれからやってくるぜ。
神隠しのあと、新之助と“ふく”はどうなったか
耕書堂に笠を被った客がきました。
なんと新之助ではないですか! 次郎兵衛が驚いて名前を呼ぼうとして、留四郎から阻止されます。
ったく、あぶねえヤツだ。戦国幕末大河ならとっくにお陀仏だよ。
蔦重は新さんと話し合います。
なんでも彼は源内に手を合わせに来たのに、墓もなくて困っているようで……これも悲しい話ですね。新さんがそばにいれば弥七が源内に近寄ることなく、エレキテルであれだけ揉めなかったかもしれません。
その新さんは今、源内のツテがあった村で百姓をしているそうです。
総髪から百姓の髷になりました。
「駆け落ち者の落ち着き先としてはまっとうだ」と蔦重が驚いています。
しかし、近年は事情も変わっているようで、百姓たちも一山当ててやると気張って江戸に出る者が増えていて、村は人手不足なんだそうです。そのため厳しく身元を詮索されることもなかったそうで。
新さんは謙虚なので伏せているのかもしれませんが、こんなに賢い人物だったらむしろ大歓迎。引く手あまたじゃねぇか?
読み書きができる武家出身となれば、実に重宝されるんです。
新さんのような武家出身者は礼儀正しく律儀だとされることも多いですし。

こんな好人物が「二男以下というだけであぶれてしまう」そんな身分社会がおかしいのでしょう。
彼のような旗本御家人の二男以下は「冷や飯食い」(家督を継いだ兄と同居するもの)になるしかなく、浪人してでもその日暮らしで生きていける江戸は受け皿になっておりました。
江戸という大都市は、行き場のない男たちを吸い寄せる近世都市なのです。
そして女房の「おふく」も、百姓の暮らしが性に合って楽しそうにしているんだってよ。
そう、「うつせみ」は「ふく」に戻りました。
江戸時代の一般的な女性名は大半が二音節です。『光る君へ』の「まひろ」や「ききょう」のような、三音節以上の名前は珍しい。
禿として「あざみ」や「かをり」とされた時点で、客は取らずとも吉原の女です。
花魁としての「うつせみ」「はなのい」「たがそで」という名前も吉原女郎ならではの名乗りです。大奥の「たかおか」や「つるこ」も特殊な名前ですね。
なお、漢字表記となると当時は決定的なものでもないので「福」でも「富久」でも、どちらでもよいと思います。
つまり、この二音節の「ふく」という名前は、足抜け完了の証なんです。
吉原女郎は、歌舞音曲をこなす天女とも喩えられます。
そんな天女が地に足をつけ、幸福な女になった証がこの名――呼ぶだけで、呼ばれるだけで、二人はきっと幸せでしょうね。
往来物の可能性
顛末を聞いた蔦重が「恋女房に江戸土産を求めているのか?」と聞くと、そこまでゆとりはないと新さん。
村の者から本を買ってくるよう頼まれ、蔦重のものもついでに買っていきたいと思ったのだとか。律儀ですねぇ。
蔦重は、新さんが買った本を見せてもらいます。
「往来物」でした。
初級教科書であり、手紙という往来する書物の形式で構成された書物です。文面だけでなく、購読層にあわせた単語や固有名詞が学べる。
新さんは暇なおりに、読み書き算盤を教えているそうです。
学がないと商人や役人にしてやられるそうで、これは歴史知識のアップデート案件ですね。
かつて江戸時代の農民は従うしかできず、搾取されっぱなしというイメージがありました。
実はそうでもなく、文書も読みこなし、掟を作り、訴訟も頻繁に起こしていたことが明らかになっています。本当は、なかなか言うことを聞かない存在だったんですよ。

話を聞いた蔦重はニヤリ。
新さんたちはどうやって本を入手しているのか――本の流通経路を聞きだします。
聞けば、在庫は小間物屋に置いてあるようで、普段は行商に頼んだり、市場に古本が出たり、貸本もたまにあるのだとか。
江戸の本屋とは異なるルートがある。それを蔦重が察知しやしたぜ。
蔦重が親父様たちに提案すると、はいそうですか、と理解はされませんでした。
往来物なんてどこの本屋だってある。
今さらそんなもん作る意図がわからねえ。
だいたい色里の本屋でそんな手習物を置くというのもミスマッチだろう。
そんな意見はごもっとも。蔦重は、青本や洒落本と違い、往来物は一度版を作れば何度でも使えると言い出します。
これは鱗形屋の二男坊・万次郎も似たような発想をしておりましたね。書物問屋で扱うような節用集は手堅く売れると。
この場面で気になるのが、大文字屋が苦しそうにしているところですかね。痛みをこらえつつ、「今更作っても売るところがねえだろ」と反論します。
売れねえと冷たい親父殿に、蔦重は「勝ち筋がある」と自信満々の表情を浮かべます。
ただしそれには、親父様たちの協力が必須だそうで。
地方に文人文化が生まれる江戸時代
蔦重の頼みを聞いた駿河屋が、越後の長谷川様という庄屋の客を紹介します。
地方の文人で、金もあるし、顔も広い。江戸で遊んでいることを自慢したいタイプだそうですぜ。
こういう人は書物も買うし、浮世絵も土産にするから、押さえておいて損はねえ。
長谷川は富本の稽古本を受け取り、目を細めています。
そして蔦重は、往来物を出すうえで「米のいろはに詳しい旦那様の意見を伺いたい」と切り出しました。
蔦重が地方向けにカスタマイズした往来物の需要を見込んだのは実にうまい。その土地の固有名詞や特産品を学べる方が実用的なんですね。
海沿いだったら魚介類の名前。
商人だったら商品名。
そうカスタマイズしたもののほうが実用的なのです。
すると長谷川はしみじみと、
「ずっと、思ってたんだがや……」
と、切り出します。
ここで彼はしみじみと、越後の雪の多さについて熱心に語り始めました。

雪の結晶図/『北越雪譜』初編巻之上/wikipediaより引用

蓑を身に着け、かんじきを履いた男性『北越雪譜』の挿絵/wikipediaより引用
二人目は信濃の豪商・熊野屋。
「株仲間の頭をやっているよ」と松葉屋が説明します。
株仲間とは江戸期の同業者組織ですね。実は書物問屋は株さえ買えば仲間に入れるのですが、地本問屋はそういう明確なルールがまだ無く、蔦重は手打ちするしかない状態なんですね。
さてこの熊野屋も、往来の添削を頼まれると、身を乗り出してやる気を出し、商売について熱く語り出します。
田沼政治が見えてきますね。こういう津々浦々の商人を熱くしているんですな。
つるべ蕎麦には、西村屋の忠七と小泉忠五郎がいました。
店の奥には吉原の女郎や禿に手習をさせている師匠がいて、そこへ蔦重がやって来ます。
慌てて顔を背ける二人。蔦重はこの師匠にも意見を伺っております。
そして四五六のもとへやってくる蔦重。すかさず往来物の原稿を差し出すのでした。
地本問屋、蔦重の攻勢に気づく
場面は地本問屋の会合へ。
地本問屋たちは蔦重の動きを察知しつつ「馬鹿やってら」とニヤニヤ笑い飛ばしています。
しかし切れ者の鶴屋喜右衛門は、西村屋与八がどうやって把握したのか聞いてきます。

初代西村屋与八/wikipediaより引用
つるべ蕎麦で忠七が手習師匠を話していたことを説明する西与。
地本問屋が余裕をこいていられるのは、彫師が仕事を引き受けないよう根回ししていることもあるようでして、皆笑いとばす中、鶴喜だけは渋い顔をしています。
するとここで「四五六が彫ってくれない」というぼやきが入りました。
「誰かでかい注文でもしたのか?」と言い合っていると、誰も注文していないようで、鶴喜以外の地本問屋たちも顔色を変えます。苦虫を噛み潰したような顔をしている鶴喜。
鶴喜と西与は四五六のもとを訪れ、挨拶もなしに核心へ入る。
「耕書堂の仕事は受けないでほしいと伝えたはずですよね」
「ああ、だからいいですよ。今後、俺に頼まなくって」
四五六はあっさり言い切りました。
なんでも耕書堂は毎年20両出すと持ちかけてきたんだとか。
「本当にそんなに注文があると思っているんですか?」
鶴喜がそう言うと、なんとこの契約は注文の有無とは関係なく払うんだとか。
それだけありゃ食っていけると四五六。クリエイターを雇用する者たちの全員が見習うべき、実に素晴らしい契約内容ですな。
鶴喜は冷たい目をして黙り込むばかり。
地本問屋たちはこの知らせを聞かされ驚いています。
その気前の良さというよりも、それだけ出して黒字にするとなりゃ、どっさどっさと出しまくると見抜いているわけです。
鶴喜は「だから往来物なんですよ」と相手の策を見抜きました。
往来物はざっと100種は超える。持っていないということを逆さから考えれば、全て注文しても損はしないということだと。20両に満たない注文しかなかろうと、往来物で穴を埋めればよいわけです。
毎年20両出しても、無駄な金をドブに捨てることにはならない。
そうはいっても、往来物なんて市中に溢れかえっていて今さら売れねえと言い募る本屋たち。
「とにかく、守りだけでも固めましょう。やつが入り込む隙がないように往来物を、売って、売って、売りまくりましょう」
鶴喜は淡々とそう言います。
こりゃ防戦よりも開城にメリットあるとなりゃ、そう応じる顔をしているぜ。
クリエイターにとって、創作物は赤ん坊だ
このあと再び四五六の家へ。
掘り疲れたのでしょう。火鉢で手をほぐしています。
桜のよい板木を使ってくれたことに蔦重は感動しております。固い木材は長持ちするものの、固いから掘るのが大変なのです。
蔦重は相手に敬意があって、ちゃんと親身になって寄り添っています。
だからこそ、相手も「往来物は字が綺麗に出て長もちしねえといけねえからな」と需要を踏まえて返してきます。
「ありがてえ。俺はこれを死ぬまで使いまさ」
しみじみとそう返す蔦重。
四五六はすっかり相手の術中にはまったようで、江戸っ子らしく照れつつこう返します。
「めんどくせえ。五年使ったら作り直しに来やがれ、べらぼうめ!」
いいですねえ。
四五六はここで、市中が邪魔しているのに売り先があるのか?と聞いてきます。蔦重が案じているのかと返すと、板木を手にしてこう言います。
「おめえより、こいつがよぉ。こりゃ俺が彫った板で作る本、娘みてえなもんじゃねえか。うちの娘だけが見向きもされないなんてよぉ」
「つまるとこ、人ってそういうもんだと思うんでさ。てめえの子はかわいい。よくしてやりてえ。四五六さん、この子にはねえ。この子を娘のように思う親父が山のようにいるんでさ」

地本問屋の様子/国立国会図書館蔵
蔦重がそう言うと、四五六は板木を娘のように抱いてあやし、こう言います。
「あ、笑った」
ここは本当に全発注者に見て欲しい場面かもしれねえ。大河でやる意義があるよ。
仕事でやるっつってもよ、ねぎらいの言葉もなしに、機械的に発注して、それで終わりじゃ、やる側もモチベーションが落ちるよ。
あたりめえだろ。そんなことすら想像できねえヤツぁ、人としての心を失っちまってんじゃねえのか。
そう蔦重を見ていると思えますね。
孤独は人を鬼女にする
田沼意次と高岳は、徳川家治が鶴子を気に入ったことに満足しています。
聞けば高岳は、京都に声をかけて見つけたのだとか。
意次は「京か」と何やら考えています。
高岳の気掛かりは、このことがお知保の方を刺激しかねないことでした。
しかし、意次は捨て置いてよいと余裕を見せます。徳川家基も松平武元もいないとなれば、彼女は誰にも相手にされないだろうと踏んでいるのです。
そのお知保の方は、西の丸に家治が渡らなくなったことを気にしており、家基を忘れたのかと思っております。
それに対し、大崎は「お忘れになったのではないかと……」と、何かを含ませつつ言います。
「そなた、何か知っておるのか!」
そう驚くお知保の方。
大崎はあくまで噂と前置きしつつ何か言い出します。
それにしたって、このお知保の方が妙といえば、そうなんですよ。
それほどまでに家基の菩提を弔いたいのであれば、髪をおろして尼姿になってもよいのではないでしょうか。
意次が言った通り、もはや孤立無援であり城に留まる理由はない。この様子では何か未練と野心、復讐心があるとしか思えません。
案の定、ここで傀儡師・治済の場面となります。
「ひとりぼっちは……寂しいのう」
そう呟く治済の前には、女の姿をした傀儡があります。その白い顔は、どこか鬼女のように見えなくもなく……。

『新形三十六怪撰 平惟茂戸隠山に悪鬼を退治す図』/wikipediaより引用
地方に広がるネットワーク
蔦重は仕上がった往来物を長谷川に見せております。
「これが、俺が作った本」
「へえ、おかげさまで」
「もっと持ってこい、俺がまとめて買い取ってやっわっや!」
「ありがた山でごぜえやす!」
長谷川は感動のあまりそう言い出しました。
かくして商談成立だぜ。蔦重が山のように取材をした狙いとは、内容に対する意見よりも、むしろ本作りに関わらせることでした。
こうして自分の本ができたとなれば、買い取ってでも配布したい欲求はある。
長谷川も、熊野屋も、大喜びで受け取っておりやす。
案の定、長谷川は「これは俺がこしょた本だがよ!」と配る場面も出てきます。
自分が関わった本を自慢して勧めたいのが人情ってやつですね。
長谷川は新潟だけに、ここで本を取る人の中に、当時まだ十歳の鈴木牧之とつながる誰かがいてもおかしくねえと思うんでさ。
かくして蔦重は、江戸のネットワークをうまく掌握、全国各地に売り先が増えていきやす。
あなたの地元にも、きっとそういう本屋と客はいたと思いますぜ。
蔦重は桜が咲く吉原を、満足げに歩いてゆく。

新吉原の桜・歌川広重/wikipediaより引用1200
この桜は、春だけわざわざ植える手の込んだものですね。
思い出すのは、平賀源内の言葉。
書を以て世を耕す――その心意気でやんす。
この場面はなかなか凝っていて、浮世絵そのままの姿で歩く人びとが見えてきます。
誰袖花魁はまさしく傾城傾国
「蔦重兄さん」
ここで満開の桜のように艶やかになった、かをり改「誰袖花魁(たがそでおいらん)」が飛びついてきます。
誰袖は往来物が成功したと聞きつけたようで、蔦重は「ガキじゃねえんだから洒落ですまねえんだ」と襟を直して去ってゆきます。
「ところで兄さん、わっちの身請けはいつごろで?」
懲りずに追いついて袖を取る誰袖。このまま商いがうまくいけば身請けもできると踏んでいます。ったく、こいつはよぉ……。
蔦重は吉原の男と女郎は無理だと言っても、相手はこうだぜ。
「何を気弱なことを。次々に新しいことを成し遂げてきた兄さんでありんす。そんなしきたりも書き換えてしまいんしょう、二人の愛の力で」
蔦重がどこか苦り切っているのは、かつて瀬川とそうしようとしたことを思い出すからですかねえ。刺さるわあ。
もう、瀬川は禁句だし、あっしは再登場はねえと思いやす。
うつせみ改ふくのように、どこぞで幸せにしてりゃいいじゃねえすか。
すると志げがやってきてぶっ叩いてきました。花魁の尻を真っ赤にするわけにはいかねえから、蔦重の尻が叩かれるわけでさ。
「戻ってください花魁。蔦重のケツが割れちまいますよ!」
「志げってば。お尻など初めから割れておりんすよ」
そう相手の尻を掴んでふざけつつ、戻っていく二人。誰袖は「兄さん、身請けを待っておりんすよ」と言い残すことを忘れません。
なんという妖艶さでしょう。
まさしく、こういう美女を国を傾けてでも愛する価値のある「傾城傾国」と呼ぶんでしょうねえ。どうやら本当に、この美女は何かを傾けかけないんだよな……。

『芙蓉不及美人粧 玉屋内 花紫』渓斎英泉画/wikipediaより引用
さて、そうして二人が店に戻ると、大文字屋が誰袖を叱責したあと、突如倒れてしまったのでした。卒中あたりでしょうか。
源内と意次の案が大きく実った相良
田沼意知のもとに佐野政言がきていました。
どうやら何度も留守中にやってきているそうで、系図を渡した件で来ているようです。
意知は「失念していた」と誤魔化しながら、意次がそれを池に投げ捨てていたことを思い出します。
本当のことは言えず「時がくればありがたく使わせていただきたく」と答えるしかない意知。例えば火事で燃えちまったとか、他に言いようは無いんすかね?
政言は「父がどうなったか気にしているから、意次にいつお目通りできるか?」と確認してきます。
意次は、城ができたということで相良の国元にいるそうです。
すると政言は何かお祝いをお持ちするとまで言い出した。
そのころ遠江・相良では、意次が賑やかな港に手応えを感じています。
港が使い易いという説明が入れば、三浦庄司が「田沼街道も大きいのではないか」と付け加える。なんでも東海道へ出やすく便利な道のようです。
意次はロウや塩といった名産品も確認していました。
「お殿様でごぜえますだか!」
するとそこへ地元民らしき男が声を掛けてきました。
男と背後の者たちは土下座し、感謝するような仕草をします。驚く意次。
このあと、意次はうまそうに鰹を食べています。なんでもあの男たちは漁師で「是非とも意次様に味わってもらいたい!」とのことで鰹を持ってきたようです。
意次が驚いて顔を固くしていた理由は「直訴かと思った」そうで、肝を冷やしていたのだとか。

歌川広重『魚づくし 鰹に桜』/wikipediaより引用
この、殿と民の距離感も大事ですね。
江戸時代の民衆は、一方的に搾取されていただけとも言い切れますまい。相良の民は、殿にお礼を言いたいほど満足しているとか。
米だけでなく、金銭収入を得られる仕事ができ、百姓は豊かになったそうです。
街道のおかげで商人たちも潤い、運上冥加が多く入ってくる。おかげで城の普請は年貢をあげることなくできたとのことで、善政が敷かれていますね。
意次は遠くを見るような目になって、ロウの原料となるハゼの木を植えるように行ったのは源内だと語り始めます。

和蝋燭/wikipediaより引用
街道と港も、城の後でよい――当初、意次はそう考えていましたが、源内に「民が富む仕掛けを先に作るべきだ」と提言され、そう思い直したようです。
民を先に富ませれば、田沼はおのずから富むことになると源内は言っていた。
波音を聴きつつ、「相良は俺と源内と思い描いた通りの国になった」と語る意次です。
これも源内が残していった蝦夷地開発への布石でしょうか。

伊能忠敬『大日本沿海輿地全図』の蝦夷地/wikipediaより引用
意次は江戸に戻ると、幕閣を身内で固めようと策を練っています。
なぜそうするのか?
意知がそう問うと、相良で源内と建てた策が正しいと確信し、それを推し進めるために人事を行うとのことです。
幕閣で並ぶ者なきほどの力を蓄え、フルスロットルで日本全体を変えてゆきたい。
江戸、ひいては日本全国が相良のようにしたい。
そう思いを新たにしたわけです。源内が描いた国にするためにも、人事は大事なのです。
意知は、そこに佐野も入れて欲しいと言います。
しかし、意次は乗り気でない様子。意知は、佐野が持参した祝いの桜を見せますが、意次は冷淡で、植える場所もないから寺にでもくれてやれと言います。
意知は系図を返せないのだと訴え、引き立てるように言います。
それでも意次は「ゆとりがあればな」と取り合おうとしないのでした。
蔦重の恩返し
蔦屋重三郎は、次はどこへ売り広げるのかと思案しています。次郎兵衛は蔦重が変わったと言い出す。
「ま、前から策士みたいなところはあったけどさ」
そう言う次郎兵衛は『三国演義』の諸葛亮でも思い浮かべてっかな。

風向きを変えるために七星壇で祈祷する諸葛亮/wikipediaより引用
蔦重はここで語り出します。
「義兄さん。俺は今までいろんな人に助けられてきました。義兄さん、親父様にも。まぁさん。先生方はもちろん、源内先生、瀬川、唐丸も。いろんな人に助けられてきましたが、俺ゃ何もできてなくて……耕書堂を日の本一の本屋にするしか道がねえんでさぁ! 恩に報いるには」
感極まった次郎兵衛が、三味線をつまびき歌い出します。
「天下を〜耕書堂は〜て!」
「ちょっ……やめてくだせえ!」
上達してねえもんな。でも気持ちは伝わってくるぜ。
地本問屋では鶴屋喜右衛門が「負けた」と言いたげな顔をしています。
それでも西村屋与八は、地方の町や村でしか売り広めていない、市中では広がっていないと余裕をかましておりやす。他の連中も「騙されんのは田舎もんだけさ!」と返す。
でもよぉ……儲かるこたぁ、確かだろ!
鶴喜は腕組みして笑わない。そこへ地本問屋・丸屋小兵衛が出てきたぜ。
「持ってかれました……うちの上得意だった手習の師匠たちをごっそり。なんでもこれからは師匠仲間の作ったものを使いたいって話で」
こうなってきて、やっと市中切り崩しの危機を覚え始める本屋たち。
そうねえ、城門を抜かれたようなもんかね。
「とにかく得意先、それから作者、戯作者や絵師が決して向こうに流れぬようにしてください。決して向こうに流れぬようにしてください」
鶴喜はそう言う。船底に穴が開いたら、それ以上、漏れないようにふさがないと。勢いなんですよ、こういうのはね。
しかし、地本問屋は焦っている。
吉原人脈を使われちゃ、耕書堂の天下になっちまうと読めてきているんですね。
その様を鱗形屋がねっとりとした目で見ているのでした。
北川豊章は何者だ
蔦重は松泉堂、西与の青本を見ています。
なんでも西与本人も書いているそうで、どこも作者の確保に苦労しているんだとか。
ふじが、この絵は北尾重政か?と聞いてきます。

北尾重政『芸者と箱屋』/wikipediaより引用
蔦重が覗き込むと、そこには確かにそう見える絵があります。
「いや、北川豊章って」
「へぇ、重政先生かと思った」
「あぁ、確かに……」
蔦重は何か気になったのか、豊章の絵を集め始めます。
春章風の役者絵。
湖龍斎風の美人画。
画風を真似する絵師に、蔦重は思うところがあるようです。
彼はかつて、湖龍斎の絵を真似た唐丸に語りかけました。様々な売れ筋浮世絵師の画風で、次から次へと作品を出すのだと。
蔦重の胸に、懐かしい名前が浮かび上がってくるのでした。
MVP:蔦屋重三郎と田沼意次
オープニングが不穏になりました。
前述の通り、天明年間は恐ろしいことが次から次へと起こります。
田沼政治が行き詰まる一因として、悪天候による米価上昇もあります。
天候はさておき、米を商業主義に乗せることで価格高騰を招いた一因は田沼政治にあるとみなされてしまった。これが大きな打撃になります。
その展開を予兆させるようなオープニングです。
ジェットコースターのような田沼政治がいよいよ本格化します。
今回は田沼意次の長所も短所も見えてきましたね。
剛腕で政治改革を進めるも、人の恨みで躓く展開が浮かび上がってきました。

蔦屋重三郎(左)と田沼意次/wikipediaより引用
そして蔦屋重三郎。
こちらは意次との対比として、人情の機微があることが伺えます。
四五六にせよ、往来物監修を頼む相手にせよ、心を掴みにいくからこそ、成功へ向かうことがわかります。
鶴喜は対比させるために、冷たくされているような気もしてしまいますが。
鶴喜は一見ラスボスのようで、新章突入でそうではなく、中間地点にいるだけだとも思えてきます。
地本問屋としての地盤。
幼少期から光る聡明さ。
そして同じく、幼少期から植え付けられた蔦重への恨みと対抗心。
地本問屋連中は、誰もが凸凹で欠点があることは見えてきます。西与は詰めが甘いし、鶴喜も後手に回るところがあってどこか受け身に思える。鱗の旦那はいろいろ迂闊なところもあった。
これを全部カバーする地本問屋が、きっとドラマ後半で立ち塞がるのだろうと思えてきます。
今回は新章突入だけに、いつも以上に盛りだくさんです。
唐丸の正体確定か
唐丸の正体は喜多川歌麿ということで決まりでしょうか。
喜多川歌麿が出演するタイミングをはかると、やはりこうなるだろうと思えました。歌麿役は早々に発表されておりましたし、それしかないだろうとも。
もうひとつ、北斎説への反証でも。
北斎は癖が強く、プロデュースして育てるというよりも、彼の個性を伸ばす方がよいタイプと思われます。
そしてその点でいくと、脂の乗り切った時代の版元といえば西与、西村屋与八です。
ただし、今出演中の初代ではなく二代目以降。
大河ドラマ効果で「蔦重が北斎を見出した」と思われるのはちょっとまずいのではないかとも思います。
とはいえドラマを最後まで見れば、西与も重要だと理解できることでしょう。

『冨嶽三十六景 山下白雨』/wikipediaより引用
特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」開催中の正体判明という予想も、おおよそのところは当たりやしたね。
この展示会はドラマのセットやパネルもありますし、なんといっても展示される浮世絵が見応えがあります。是非とも足を運んでくだせえ。
総評
大河ドラマは歴史の勉強になるとされますが、これも歳次第でして。2015年以降の幕末はじめ近代以降の作品は、むしろ危険だと思います。
一方、新機軸の昨年『光る君へ』、そして今年は『べらぼう』はかなり役立つと思います。
「日本史」だけでなく「歴史総合」であり「日本文学史」のためにもなるでしょう。
今回の往来物には、歴史を考える上で重要な要素が詰まっています。
日本人の識字率が高いとされる点については、誇張もありますし、階層や地方にもよります。
幕末に来日した外国人が驚いていたのは、江戸近郊で女中までもが本を読んでいる姿を見たからとされています。これも都市部の話ではあるんですね。冷静になった方がよいとは思います。
それでも往来物という本があって流通していたことは重要と言えるのではないでしょうか。
往来物が地方に網の目のように広まる様が実に見事でした。
あの長谷川が往来物を自慢し配っていたその場に、当時十歳の鈴木牧之とつながる誰かがいてもおかしくないと思える。
鈴木牧之は『北越雪譜』の作者です。
長谷川と同じく、越後の文人であった彼は江戸での出版が夢でした。
長谷川は、越後の豪雪ぶりが江戸で理解されていないと訴えておりました。
これぞ『北越雪譜』のテーマです。
越後は雪がいかに深いか。どれほど辛いか。そういう雪国事情を活写した作品なのです。
江戸の人は雪見酒なんて洒落込むけれども、越後でそんなことをしたら死にかねない。
同じ雪でも場所によって捉え方が違う。
降り頻る雪の中、越後の人々がどう暮らしていたのか。そのことがわかる実によい作品です。
そうはいっても、こんな雪国生活を江戸っ子が読みたがるか?
そういう疑問は浮かぶと思うんですよ。
これは当時にしてもそうで、鈴木牧之は山東京伝に謝礼金付きで原稿を送りまして、なんとか版元に持ちかけてもらいたいと斡旋を頼むんですな。
しかし京伝は多忙で、原稿を預かったまま亡くなってしまいます。
そこで鈴木牧之は、曲亭馬琴に頼む。
しかし、馬琴も原稿を放置してしまう。
めげずに鈴木牧之は、京伝の弟である山東京山に頼みます。
京山は、元は兄が引き受けたものだし、やるしかないと前向きになり、話が動き出す。
ところがそれを聞いた馬琴が「なんでアイツが手がけているんだ!」と激怒。
馬琴と京山は犬猿の仲でした。
でもよ、おめえが原稿塩漬けにしたのが悪いんだろうがよ。そう馬琴に突っ込みたくなりますよね。
この時点で、メンタルが弱かったら出版を断念してもおかしくありません。本当にめんどくさいことになりました。
しかし、鈴木牧之もタフなんです。
何度も原稿を紛失されても書き直し、何十年も粘りに粘り、やっと出版にこぎつけたんです。
馬琴と京山のバトルに巻き込まれても、諦められない。粘りに粘り、ついに『北越雪譜』は世に出たんですな。
そんな鈴木牧之に出版への憧れを植え付けたのは、長谷川みたいな人かもしれないと思えましてね。本当に勉強になりまさ。

『北越雪譜 渋海川奇蝶之図』/wikipediaより引用
ちなみに山東京伝と京山の兄弟は歳はそう離れておりません。
しかし兄は早熟で早く没したのに対し、弟は遅咲きです。
おじいちゃんになってから、猫ちゃん擬人化ものでスマッシュヒットを飛ばしており、そのうえ長寿。
なにせ幕末に流行したコレラが死因とされておりますからね。
そんなわけで、兄は「江戸中期」、弟は「江戸後期」と分類されますので、頭がちょっと混乱させられます。

流行猫の戯『かゞ見やま 草履恥の段』山東京山・歌川国芳/wikipediaより引用
本当にこのドラマは秀逸ですね。
ドラマが終わったあとまで、どんどん出版業や人々の書物や浮世絵への欲求が広まっていくことがわかる。
そういう繋がりが見える秀逸な作品です。
それだけでなく、歴史観のアップデートもしてきます。
明治時代以降、政府はとにかく「江戸時代は停滞期、暗黒期、何も進歩がない。この時代に生まれた文化は無価値」と国民に刷り込んできました。
トランプ大統領が、悪いことは全部バイデン前大統領に押し付けているようなモンですね。
この価値観のせいで『べらぼう』に出てくる文人の作品も貶されます。
曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』なんてひでぇモンですよ。庶民はともかく「バタ臭い」教養人は叩きますわな。
そしてその中には、浮世絵も入っている。
幕末明治初期の財政大打撃のさなか、外国人が高値で買うもんだから庶民はこぞって売り払う。それが文化的損失だと政府も気づかない。
なまじ西洋人が評価しているとなると、また逆輸入されてくる。
この最大の枠が東洲斎写楽です。
写楽の絶賛された特色は、当時の役者絵、ましてや彼に圧勝した初代・歌川豊国も持ち合わせているんですよ。
しかも写楽より画力も確かでして。そういう背景を知らないドイツ人が自著で絶賛したってんで、写楽は急激に持ち上げられたようなところはあるのです。
これが浮世絵の理解にはむしろマイナスといえる。
というのも、これから先は豊国の歌川派全盛期になります。歌川派の広重と国芳は紛れもなく売れっ子かつ評価も高いですし、この二人の系統は現在まで続いています。
それなのに、その師匠筋にあたる豊国が写楽の影に隠れているのはいかがなものか、と思うんですよね。
『べらぼう』はそんな歪みを糺してくる、そういう使命があると信じています。
ラストが写楽のプロデュース大失敗なんて、あまりに苦いっちゃそうなんですけどね。とはいえ、そのおかげで視聴者の知識もアップデートされるでしょう。
てなわけで、唐丸=写楽説も力を込めて否定しておきやす。そろそろ豊国や歌川派勢揃いの展覧会も見たいもんですね。
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【参考】
べらぼう/公式サイト





