べらぼう感想あらすじレビュー

背景は葛飾応為『吉原格子先之図』/wikipediaより引用

べらぼう感想あらすじ べらぼう

『べらぼう』感想あらすじレビュー第17回乱れ咲き往来の桜~不吉な天明年間へ

舞台で何やら芝居が演じられています。

出てくるのは「本重」という蔦屋重三郎をモデルにした人物。

客席の娘たちが噂話をしています。

安永9年(1780年)、蔦重は一気に新作10冊を刊行し、「耕書堂」の人気は急上昇したそうですぜ。

 


九郎助稲荷も驚く、耕書堂の繁栄

耕書堂が手掛けた新作は地本問屋で取り扱われない。

市中で売られていないことからかえってプレミア感が出て、なかなか繁盛していると九郎助稲荷が説明します。

狐らしく黄色い着物がかわいいねえ。そこは異世界から来た存在なので、スマホでSNSにも投稿しておりやす。

月岡芳年画『風俗三十二相 はづかしさう』/wikipediaより引用

店にかけてある書にもご注目ください。

江戸時代となると楷書体が民間でまで定着しています。早く書くとなるとどうしたって崩字が便利なのですが、かっちりきっちり書く書体も定番になっていくわけですね。

吉原だというのに、女郎ではなく書物目当ての客も増えていて、おじいさんが孫を連れて来客しております。

店は繁盛して、りつや次郎兵衛が接客をこなす程でした。

するとそこへ若い娘がやってきて、ワーキャーしている。

「“細見を急ぎます”と言ってくださ~い」

おっ、芝居で本重を見て追っかけになったんですな。会いに行けるアイドルってやつだ。蔦重がセリフを真似ると「ああ〜っ!」と推しが尊いと悲鳴をあげて駆け去ってゆく娘たち。

これも伏線かもしれねえな。

女郎でなくて茶屋娘を美人画にして売り出したら、追っかけが広めてくれるかもしれねえぜ。新章初回は伏線だらけだ。

ちなみに男にとっての「悪所」は吉原や岡場所をさしますが、女にとっての「悪所」は芝居小屋だそうで。

理由は、推し活にうつつをぬかしてしまうからだってよ。推し団扇も推し色も江戸時代からあったんですぜ。

これほど江戸っ子の推し活心理を熟知しているはずの蔦重が、その目が曇る日が来るのであろうか……ここも重要な点でしょう。

耕書堂には、いねとふじも助っ人としてやってきました。いねが「いい加減人を入れたらどうか……」と言うのですが……。

「いいかげん、戻ってきてくんねえかなって思ってんすけど……」

そうぼやく蔦重。

「誰がだい?」

「唐丸に決まってんじゃねえすか」

「唐丸が生きてるわけないだろ!」

いねがそう否定しても、蔦重は生きていると信じている。唐丸でなく瀬川ではないか?という推察もできるかもしれませんが、果たしてどうでしょう。

 


誰も西の丸になりたがらない

さて、お城では――。

「次の西の丸を狙う者が怪しい」

松平武元のそんな言葉を田沼意次が探っています。

武士の姿で登場した稲荷ナビが説明しながら話が進んでゆきますが……武元の狙いはどうにも空振りのようで、家治の弟・清水重好は「西の丸になりたくない」と断ってきたそうです。

確かに、後継者教育を受けていないと、将軍職に就くのは大変です。

そのころ一橋治済は自邸で相撲見物をしていました。

隣には、嫡男の豊千代と、薩摩の姫である茂姫。

茂姫(広大院)/wikipediaより引用

この並びの時点で『逆賊の幕臣』に出てくる幕臣たちが「あー……」とため息をつきたくなるほど嫌な絵でもあります。

徳川の血を引く家に、外様からの姫なんて迎えたら危険でしょう。一橋は本当にろくでもない。

それにしても、妙なんですよね。なぜ嫡男がまだこれほど幼いのに、薩摩の姫を許嫁にする必要があるのか。

といっても、これは薩摩にとってもなかなか大変な話になりやすぜ。

徳川と繋がったからには格式をあげたい――島津重豪がそう張り切ったものだから、財政赤字は悪化する。

重豪は斉彬のロールモデルとされ、その名の通り豪快な名君です。

借金体質の薩摩藩、その財政担当者からすれば名前を見ただけで顔が引きつりそうな人物ですな。田沼時代はお殿様も個性派揃い。松前のお殿様にも注目ですぜ。

そしてこの場面では、治済の子が実に多いことも伝わってきます。

彼の子もその傾向が似てくるわけで、江戸時代も半ばを過ぎると、子どもができないか、逆に極端な多産か、貴人たちの間でも極端なまでに性質が分かれてゆきました。

そんな一橋治済が、意次に向かって実に意外なことを言う。

「西の丸にはなりたくない」

「こういう時のための御三卿でしょう!」

意次がそう粘るも、治済は「家治がもうひと頑張りすればよい」と言い出しました。

ここで赤ん坊の鳴き声が入るのも、なんとも生々しい。

江戸時代のスタミナドリンクである生卵を朝から飲んでいたとされるのも納得できる治済の精力ですなァ。

徳川治済(一橋治済)/wikipediaより引用

幕末の徳川斉昭といい、精力絶倫の権力者はその時点で何か恐ろしい。

ともかく意次は困り果ててしまいます。

三浦庄司に「誰もが将軍になりたいと思ったのに……」とぼやくほど。

そして稲葉正明が「御三家には西の丸に養子となれる男子がいない」という驚愕の調査結果をもたらすのでした。

 


東男の上様、京女の鶴子に惚れる

意次の報告を聞いた徳川家治は、報告を聞いて愕然としています。

「子を作ることが最善の策です」

意次がそう告げると、もう自分は高齢過ぎるだろ!と躊躇しています。

江戸時代のベストセラーに貝原益軒の『養生訓』があります。

健康の秘訣として、歳を取ったら房事は控えよと書かれており、その考えからすれば意次の提案は主君の命を縮めかねない。

それでも心優しい家治は、意次から「家基と松平武元も喜ぶ」と言われると迷ってしまいます。

徳川家治/wikipediaより引用

すでに用意しているとまで言われ、もう女子はよいと困惑するしかない家治。しかし……。

高岳とその隣に「亡き御台様遠縁のもの」だという女性がいました。

鶴子という、その女が顔を上げると、家治は目を留めしげしげと眺める。

驚いて言葉を失うほど、亡き妻に似た女のようで。

この上様と亡き御台所は、まだ幼いうちに許嫁として出会い、そのまま添い遂げた仲睦まじい夫婦でした。

そんな永遠の初恋が蘇ったのか、さしもの家治も動揺しています。

そして新章オープニングへ。

脂の乗った店主へと蔦重はのし上がってゆきます。

それのみならず、ズラリと並ぶ妖怪変化のような髑髏の姿。赤い富士の背景には雷雨が見えます。

天変地異に見舞われた天明年間らしい映像です。

 

地本問屋と蔦重は対立し続けるが

さて、そんな蔦重ですが、彫師の四五六から「今後仕事はできねえ!」と言われてしまい戸惑っています。

なんでも市中の地本問屋どもが、脅しをかけてきたそうですぜ。

耕書堂を引き受けたら市中の本屋の仕事はなくなるってよ。汚ねえぞ、鶴喜に西与よぉ!

耕書堂が売れてきたから焦っていて、潰しにかかってきているのだと四五六は推察しています。

それでも「こっそりやってもらえねえか?」と頼む蔦重の頭をペチッと叩いて、四五六はこうきました。

「いいかげん、市中と手打ちしやがれ、べらぼうめ!」

まぁ、そうなるわなぁ。

地本問屋の様子/国立国会図書館蔵

吉原に戻ると、次郎兵衛が「彫師なんていくらでもいるから別のところに頼めばいい」と呑気なもんです。

しかし、彫師によって技術の差が相当あるようで、安けりゃいいというわけではない。

彫師の腕が良くねえとせっかくの作品も台無しだと、留四郎がフォローしています。

次郎兵衛はその留四郎に肩を揉ませつつ「市中と手打ちすればいい」と言い出す。なんでおめえは働かねえのに肩凝ってんだよ。

そう簡単に手打ちできないでしょう。蔦重は「この流れでこっちから引くのはうまくねえ、親父様が黙っちゃいねえでしょ」とぼやいています。

これがこのドラマの見せどころってやつで、市中との手打ちを引っ張るんですな。

実はこの地本問屋との対立は、誇張があるようにも思えます。

そりゃなんでか?といやァ、橋本愛さんが演じる“てい”との縁談ですよ。

瀬川との恋は叶っちまうとかえって蔦重が成功する芽が摘まれかねない。一方で本屋の娘と蔦重が恋仲になって、そのまま夫婦となりゃァ、頑固な江戸っ子だって情けにほだされてどうにかなりまさァ。

そういう算段じゃねえすかね。

吉原ロミオと本屋ジュリエットの恋がこれからやってくるぜ。

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