こちらは4ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【『べらぼう』感想あらすじレビュー第17回乱れ咲き往来の桜】
をクリックお願いします。
誰袖花魁はまさしく傾城傾国
「蔦重兄さん」
ここで満開の桜のように艶やかになった、かをり改「誰袖花魁(たがそでおいらん)」が飛びついてきます。
誰袖は往来物が成功したと聞きつけたようで、蔦重は「ガキじゃねえんだから洒落ですまねえんだ」と襟を直して去ってゆきます。
「ところで兄さん、わっちの身請けはいつごろで?」
懲りずに追いついて袖を取る誰袖。このまま商いがうまくいけば身請けもできると踏んでいます。ったく、こいつはよぉ……。
蔦重は吉原の男と女郎は無理だと言っても、相手はこうだぜ。
「何を気弱なことを。次々に新しいことを成し遂げてきた兄さんでありんす。そんなしきたりも書き換えてしまいんしょう、二人の愛の力で」
蔦重がどこか苦り切っているのは、かつて瀬川とそうしようとしたことを思い出すからですかねえ。刺さるわあ。
もう、瀬川は禁句だし、あっしは再登場はねえと思いやす。
うつせみ改ふくのように、どこぞで幸せにしてりゃいいじゃねえすか。
すると志げがやってきてぶっ叩いてきました。花魁の尻を真っ赤にするわけにはいかねえから、蔦重の尻が叩かれるわけでさ。
「戻ってください花魁。蔦重のケツが割れちまいますよ!」
「志げってば。お尻など初めから割れておりんすよ」
そう相手の尻を掴んでふざけつつ、戻っていく二人。誰袖は「兄さん、身請けを待っておりんすよ」と言い残すことを忘れません。
なんという妖艶さでしょう。
まさしく、こういう美女を国を傾けてでも愛する価値のある「傾城傾国」と呼ぶんでしょうねえ。どうやら本当に、この美女は何かを傾けかけないんだよな……。

『芙蓉不及美人粧 玉屋内 花紫』渓斎英泉画/wikipediaより引用
さて、そうして二人が店に戻ると、大文字屋が誰袖を叱責したあと、突如倒れてしまったのでした。卒中あたりでしょうか。
源内と意次の案が大きく実った相良
田沼意知のもとに佐野政言がきていました。
どうやら何度も留守中にやってきているそうで、系図を渡した件で来ているようです。
意知は「失念していた」と誤魔化しながら、意次がそれを池に投げ捨てていたことを思い出します。
本当のことは言えず「時がくればありがたく使わせていただきたく」と答えるしかない意知。例えば火事で燃えちまったとか、他に言いようは無いんすかね?
政言は「父がどうなったか気にしているから、意次にいつお目通りできるか?」と確認してきます。
意次は、城ができたということで相良の国元にいるそうです。
すると政言は何かお祝いをお持ちするとまで言い出した。
そのころ遠江・相良では、意次が賑やかな港に手応えを感じています。
港が使い易いという説明が入れば、三浦庄司が「田沼街道も大きいのではないか」と付け加える。なんでも東海道へ出やすく便利な道のようです。
意次はロウや塩といった名産品も確認していました。
「お殿様でごぜえますだか!」
するとそこへ地元民らしき男が声を掛けてきました。
男と背後の者たちは土下座し、感謝するような仕草をします。驚く意次。
このあと、意次はうまそうに鰹を食べています。なんでもあの男たちは漁師で「是非とも意次様に味わってもらいたい!」とのことで鰹を持ってきたようです。
意次が驚いて顔を固くしていた理由は「直訴かと思った」そうで、肝を冷やしていたのだとか。

歌川広重『魚づくし 鰹に桜』/wikipediaより引用
この、殿と民の距離感も大事ですね。
江戸時代の民衆は、一方的に搾取されていただけとも言い切れますまい。相良の民は、殿にお礼を言いたいほど満足しているとか。
米だけでなく、金銭収入を得られる仕事ができ、百姓は豊かになったそうです。
街道のおかげで商人たちも潤い、運上冥加が多く入ってくる。おかげで城の普請は年貢をあげることなくできたとのことで、善政が敷かれていますね。
意次は遠くを見るような目になって、ロウの原料となるハゼの木を植えるように行ったのは源内だと語り始めます。

和蝋燭/wikipediaより引用
街道と港も、城の後でよい――当初、意次はそう考えていましたが、源内に「民が富む仕掛けを先に作るべきだ」と提言され、そう思い直したようです。
民を先に富ませれば、田沼はおのずから富むことになると源内は言っていた。
波音を聴きつつ、「相良は俺と源内と思い描いた通りの国になった」と語る意次です。
これも源内が残していった蝦夷地開発への布石でしょうか。

伊能忠敬『大日本沿海輿地全図』の蝦夷地/wikipediaより引用
意次は江戸に戻ると、幕閣を身内で固めようと策を練っています。
なぜそうするのか?
意知がそう問うと、相良で源内と建てた策が正しいと確信し、それを推し進めるために人事を行うとのことです。
幕閣で並ぶ者なきほどの力を蓄え、フルスロットルで日本全体を変えてゆきたい。
江戸、ひいては日本全国が相良のようにしたい。
そう思いを新たにしたわけです。源内が描いた国にするためにも、人事は大事なのです。
意知は、そこに佐野も入れて欲しいと言います。
しかし、意次は乗り気でない様子。意知は、佐野が持参した祝いの桜を見せますが、意次は冷淡で、植える場所もないから寺にでもくれてやれと言います。
意知は系図を返せないのだと訴え、引き立てるように言います。
それでも意次は「ゆとりがあればな」と取り合おうとしないのでした。
蔦重の恩返し
蔦屋重三郎は、次はどこへ売り広げるのかと思案しています。次郎兵衛は蔦重が変わったと言い出す。
「ま、前から策士みたいなところはあったけどさ」
そう言う次郎兵衛は『三国演義』の諸葛亮でも思い浮かべてっかな。

風向きを変えるために七星壇で祈祷する諸葛亮/wikipediaより引用
蔦重はここで語り出します。
「義兄さん。俺は今までいろんな人に助けられてきました。義兄さん、親父様にも。まぁさん。先生方はもちろん、源内先生、瀬川、唐丸も。いろんな人に助けられてきましたが、俺ゃ何もできてなくて……耕書堂を日の本一の本屋にするしか道がねえんでさぁ! 恩に報いるには」
感極まった次郎兵衛が、三味線をつまびき歌い出します。
「天下を〜耕書堂は〜て!」
「ちょっ……やめてくだせえ!」
上達してねえもんな。でも気持ちは伝わってくるぜ。
地本問屋では鶴屋喜右衛門が「負けた」と言いたげな顔をしています。
それでも西村屋与八は、地方の町や村でしか売り広めていない、市中では広がっていないと余裕をかましておりやす。他の連中も「騙されんのは田舎もんだけさ!」と返す。
でもよぉ……儲かるこたぁ、確かだろ!
鶴喜は腕組みして笑わない。そこへ地本問屋・丸屋小兵衛が出てきたぜ。
「持ってかれました……うちの上得意だった手習の師匠たちをごっそり。なんでもこれからは師匠仲間の作ったものを使いたいって話で」
こうなってきて、やっと市中切り崩しの危機を覚え始める本屋たち。
そうねえ、城門を抜かれたようなもんかね。
「とにかく得意先、それから作者、戯作者や絵師が決して向こうに流れぬようにしてください。決して向こうに流れぬようにしてください」
鶴喜はそう言う。船底に穴が開いたら、それ以上、漏れないようにふさがないと。勢いなんですよ、こういうのはね。
しかし、地本問屋は焦っている。
吉原人脈を使われちゃ、耕書堂の天下になっちまうと読めてきているんですね。
その様を鱗形屋がねっとりとした目で見ているのでした。
※続きは【次のページへ】をclick!
