こちらは5ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【『べらぼう』感想あらすじレビュー第17回乱れ咲き往来の桜】
をクリックお願いします。
北川豊章は何者だ
蔦重は松泉堂、西与の青本を見ています。
なんでも西与本人も書いているそうで、どこも作者の確保に苦労しているんだとか。
ふじが、この絵は北尾重政か?と聞いてきます。

北尾重政『芸者と箱屋』/wikipediaより引用
蔦重が覗き込むと、そこには確かにそう見える絵があります。
「いや、北川豊章って」
「へぇ、重政先生かと思った」
「あぁ、確かに……」
蔦重は何か気になったのか、豊章の絵を集め始めます。
春章風の役者絵。
湖龍斎風の美人画。
画風を真似する絵師に、蔦重は思うところがあるようです。
彼はかつて、湖龍斎の絵を真似た唐丸に語りかけました。様々な売れ筋浮世絵師の画風で、次から次へと作品を出すのだと。
蔦重の胸に、懐かしい名前が浮かび上がってくるのでした。
MVP:蔦屋重三郎と田沼意次
オープニングが不穏になりました。
前述の通り、天明年間は恐ろしいことが次から次へと起こります。
田沼政治が行き詰まる一因として、悪天候による米価上昇もあります。
天候はさておき、米を商業主義に乗せることで価格高騰を招いた一因は田沼政治にあるとみなされてしまった。これが大きな打撃になります。
その展開を予兆させるようなオープニングです。
ジェットコースターのような田沼政治がいよいよ本格化します。
今回は田沼意次の長所も短所も見えてきましたね。
剛腕で政治改革を進めるも、人の恨みで躓く展開が浮かび上がってきました。

蔦屋重三郎(左)と田沼意次/wikipediaより引用
そして蔦屋重三郎。
こちらは意次との対比として、人情の機微があることが伺えます。
四五六にせよ、往来物監修を頼む相手にせよ、心を掴みにいくからこそ、成功へ向かうことがわかります。
鶴喜は対比させるために、冷たくされているような気もしてしまいますが。
鶴喜は一見ラスボスのようで、新章突入でそうではなく、中間地点にいるだけだとも思えてきます。
地本問屋としての地盤。
幼少期から光る聡明さ。
そして同じく、幼少期から植え付けられた蔦重への恨みと対抗心。
地本問屋連中は、誰もが凸凹で欠点があることは見えてきます。西与は詰めが甘いし、鶴喜も後手に回るところがあってどこか受け身に思える。鱗の旦那はいろいろ迂闊なところもあった。
これを全部カバーする地本問屋が、きっとドラマ後半で立ち塞がるのだろうと思えてきます。
今回は新章突入だけに、いつも以上に盛りだくさんです。
唐丸の正体確定か
唐丸の正体は喜多川歌麿ということで決まりでしょうか。
喜多川歌麿が出演するタイミングをはかると、やはりこうなるだろうと思えました。歌麿役は早々に発表されておりましたし、それしかないだろうとも。
もうひとつ、北斎説への反証でも。
北斎は癖が強く、プロデュースして育てるというよりも、彼の個性を伸ばす方がよいタイプと思われます。
そしてその点でいくと、脂の乗り切った時代の版元といえば西与、西村屋与八です。
ただし、今出演中の初代ではなく二代目以降。
大河ドラマ効果で「蔦重が北斎を見出した」と思われるのはちょっとまずいのではないかとも思います。
とはいえドラマを最後まで見れば、西与も重要だと理解できることでしょう。

『冨嶽三十六景 山下白雨』/wikipediaより引用
特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」開催中の正体判明という予想も、おおよそのところは当たりやしたね。
この展示会はドラマのセットやパネルもありますし、なんといっても展示される浮世絵が見応えがあります。是非とも足を運んでくだせえ。
総評
大河ドラマは歴史の勉強になるとされますが、これも歳次第でして。2015年以降の幕末はじめ近代以降の作品は、むしろ危険だと思います。
一方、新機軸の昨年『光る君へ』、そして今年は『べらぼう』はかなり役立つと思います。
「日本史」だけでなく「歴史総合」であり「日本文学史」のためにもなるでしょう。
今回の往来物には、歴史を考える上で重要な要素が詰まっています。
日本人の識字率が高いとされる点については、誇張もありますし、階層や地方にもよります。
幕末に来日した外国人が驚いていたのは、江戸近郊で女中までもが本を読んでいる姿を見たからとされています。これも都市部の話ではあるんですね。冷静になった方がよいとは思います。
それでも往来物という本があって流通していたことは重要と言えるのではないでしょうか。
往来物が地方に網の目のように広まる様が実に見事でした。
あの長谷川が往来物を自慢し配っていたその場に、当時十歳の鈴木牧之とつながる誰かがいてもおかしくないと思える。
鈴木牧之は『北越雪譜』の作者です。
長谷川と同じく、越後の文人であった彼は江戸での出版が夢でした。
長谷川は、越後の豪雪ぶりが江戸で理解されていないと訴えておりました。
これぞ『北越雪譜』のテーマです。
越後は雪がいかに深いか。どれほど辛いか。そういう雪国事情を活写した作品なのです。
江戸の人は雪見酒なんて洒落込むけれども、越後でそんなことをしたら死にかねない。
同じ雪でも場所によって捉え方が違う。
降り頻る雪の中、越後の人々がどう暮らしていたのか。そのことがわかる実によい作品です。
そうはいっても、こんな雪国生活を江戸っ子が読みたがるか?
そういう疑問は浮かぶと思うんですよ。
これは当時にしてもそうで、鈴木牧之は山東京伝に謝礼金付きで原稿を送りまして、なんとか版元に持ちかけてもらいたいと斡旋を頼むんですな。
しかし京伝は多忙で、原稿を預かったまま亡くなってしまいます。
そこで鈴木牧之は、曲亭馬琴に頼む。
しかし、馬琴も原稿を放置してしまう。
めげずに鈴木牧之は、京伝の弟である山東京山に頼みます。
京山は、元は兄が引き受けたものだし、やるしかないと前向きになり、話が動き出す。
ところがそれを聞いた馬琴が「なんでアイツが手がけているんだ!」と激怒。
馬琴と京山は犬猿の仲でした。
でもよ、おめえが原稿塩漬けにしたのが悪いんだろうがよ。そう馬琴に突っ込みたくなりますよね。
この時点で、メンタルが弱かったら出版を断念してもおかしくありません。本当にめんどくさいことになりました。
しかし、鈴木牧之もタフなんです。
何度も原稿を紛失されても書き直し、何十年も粘りに粘り、やっと出版にこぎつけたんです。
馬琴と京山のバトルに巻き込まれても、諦められない。粘りに粘り、ついに『北越雪譜』は世に出たんですな。
そんな鈴木牧之に出版への憧れを植え付けたのは、長谷川みたいな人かもしれないと思えましてね。本当に勉強になりまさ。

『北越雪譜 渋海川奇蝶之図』/wikipediaより引用
ちなみに山東京伝と京山の兄弟は歳はそう離れておりません。
しかし兄は早熟で早く没したのに対し、弟は遅咲きです。
おじいちゃんになってから、猫ちゃん擬人化ものでスマッシュヒットを飛ばしており、そのうえ長寿。
なにせ幕末に流行したコレラが死因とされておりますからね。
そんなわけで、兄は「江戸中期」、弟は「江戸後期」と分類されますので、頭がちょっと混乱させられます。

流行猫の戯『かゞ見やま 草履恥の段』山東京山・歌川国芳/wikipediaより引用
本当にこのドラマは秀逸ですね。
ドラマが終わったあとまで、どんどん出版業や人々の書物や浮世絵への欲求が広まっていくことがわかる。
そういう繋がりが見える秀逸な作品です。
それだけでなく、歴史観のアップデートもしてきます。
明治時代以降、政府はとにかく「江戸時代は停滞期、暗黒期、何も進歩がない。この時代に生まれた文化は無価値」と国民に刷り込んできました。
トランプ大統領が、悪いことは全部バイデン前大統領に押し付けているようなモンですね。
この価値観のせいで『べらぼう』に出てくる文人の作品も貶されます。
曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』なんてひでぇモンですよ。庶民はともかく「バタ臭い」教養人は叩きますわな。
そしてその中には、浮世絵も入っている。
幕末明治初期の財政大打撃のさなか、外国人が高値で買うもんだから庶民はこぞって売り払う。それが文化的損失だと政府も気づかない。
なまじ西洋人が評価しているとなると、また逆輸入されてくる。
この最大の枠が東洲斎写楽です。
写楽の絶賛された特色は、当時の役者絵、ましてや彼に圧勝した初代・歌川豊国も持ち合わせているんですよ。
しかも写楽より画力も確かでして。そういう背景を知らないドイツ人が自著で絶賛したってんで、写楽は急激に持ち上げられたようなところはあるのです。
これが浮世絵の理解にはむしろマイナスといえる。
というのも、これから先は豊国の歌川派全盛期になります。歌川派の広重と国芳は紛れもなく売れっ子かつ評価も高いですし、この二人の系統は現在まで続いています。
それなのに、その師匠筋にあたる豊国が写楽の影に隠れているのはいかがなものか、と思うんですよね。
『べらぼう』はそんな歪みを糺してくる、そういう使命があると信じています。
ラストが写楽のプロデュース大失敗なんて、あまりに苦いっちゃそうなんですけどね。とはいえ、そのおかげで視聴者の知識もアップデートされるでしょう。
てなわけで、唐丸=写楽説も力を込めて否定しておきやす。そろそろ豊国や歌川派勢揃いの展覧会も見たいもんですね。
あわせて読みたい関連記事
-

『べらぼう』唐丸少年の正体は喜多川歌麿か東洲斎写楽か?はたまた葛飾北斎か!
続きを見る
-

田沼の時代を盛り上げた平賀源内!杉田玄白に非常の才と称された“山師”の生涯とは
続きを見る
-

知保の方は史実でも田沼意次を憎んでいた?正気を失った彼女は何をする?
続きを見る
-

『べらぼう』眞島秀和が演じる将軍・徳川家治~史実ではどんな人物だったのか?
続きを見る
-

史実の田沼意次はワイロ狂いの強欲男か 有能な改革者か? 真の評価を徹底考察
続きを見る
【参考】
べらぼう/公式サイト





