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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第11回「まどう心」】
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女の黒髪に縛られ、脛に惑う
まひろは仏像に手を合わせ祈ります。
そして書き物をして、野菜を作る。顔に泥がついてしまい、“いと”が笑っている。乙丸は薪を拾ってきて、よろめいてまひろと共に転んでしまいました。
まひろが読んでいたのは『史記』「秦始皇本紀」と『長恨歌』です。
『長恨歌』の作者・白居易は史実でどんな人物だった?水都百景録
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そんな家の周辺を道長がうろつき、まひろを垣間見ています。
水仕事をする白い脛が輝くように見える。汗を拭う様もかわいらしい。
このドラマは恐ろしいことになってきました。
時代によって、どこにエロスを感じるのか変わってきます。
例えば昔の日本人は大きな胸はむしろマイナスです。
では、どこがエロチックなのか?
答えはこのドラマの強調するところ。まひろと道長の回想シーンには、黒髪を撫でる手の動きが印象的に描かれます。女の黒髪は男の心を縛る情欲の象徴です。
そして白い脛。脛を見せることははしたないこととされます。さりげなく仕事をする女の白い脛はたまらなくセクシーで、これを見た神や仙人が落ちてくると言われたりします。
うなじがエロチックとなるのは、髪をあげる時代のことで、ドラマの舞台には該当しません。
つまり道長がまひろの白い脛を覗き見るということは、彼はもう情欲の虜であることが見えてきて……ったく、けしからんドラマですね。
現代人ならば汗を拭う顔がかわいいと思うところですが、昔の人は脛に煩悩が炸裂すると。
もはや辛抱たまらない道長は、百舌彦にまひろへの伝言を託します。
今宵、いつもの場所で待っている……と、出てきた乙丸が、ハッキリ言います。
「若君、もういいかげんにしてください!」
この反応から、乙丸の認識がわかります。この若君はうちの姫君を慰み者にするつもりだ。もういい加減にしてくれ! そんな嘆きだ。
百舌彦が「若君に何を言うか!」と反論するものの、道長に制止される。
結果、夜になって、まひろは密会の場所へ向かいました。
待っていた道長は、情熱的な音楽を背景にまひろを抱き、唇を重ねる。
しかし、ここから先が先週とは違う。
「妻になってくれ」
そう願う道長。
「遠くの国には行かず、都にいて政の頂を目指す。まひろの望む世を目指す。だから、側にいてくれ。2人で生きていくために、俺が考えたことだ」
「それは、私を北の方にしてくれるってこと? 妾(しょう)になれってこと?」
「そうだ。北の方は無理だ。されど、俺の心の中ではおまえが一番だ。まひろも心をめてくれ」
「心の中で一番でも、いつかは北の方が……」
「それでもまひろが一番だ」
道長は現実的になりました。
今週、どこか暗い顔を見せていた公任。道長の後塵を拝することになる運命を察知したかのようでした。そんな公任の打算の高さが道長に移ったようにも思えます。
まひろの身分では、産んだ子が軽んじられてしまう。まひろの家に婿入りしたら資産がない。
道長なりに妥協した提案です。
視聴者にとっては最低でも、宣孝ならば「いい話だ」と納得することでしょう。弟の出世を頼み込めば、藤原惟規だって学問をせずとも出世できるでしょう。
「耐えられないそんなの!」
「俺の気持ちもわかってくれ!」
「わかってない!」
そう言われ、道長は怒ります。
「ならば、どうしろというのだ! どうすれば、おまえは納得するのだ。言ってみろ。遠くの国に行くのは嫌だ。偉くなって世を変えろ。北の方でなければ嫌だ。勝手なことばかり……勝手なことばかり言うな!」
二人は決裂してしまいました。
家に戻った道長は、手紙を燃やしている兼家に「願いがある」と切り出しました。
いったい何のことなのか……。
相手の黒髪を思う。相手の白い脛を見て辛抱たまらない風情になる。相手に出会ったら即座に唇を重ねる。妾にするからわかってくれと懇願する。
道長の恋心とは、結局のところ情欲ではないかと思えてきます。
生々しい若者の思いといえばそうですが、理屈は成立します。
早いところ娘を産ませ、入内させねば政の頂に立てないのです。早く身分の高い女を得たい、そう焦っているとみてよいでしょう。
公任たちライバルにとっても、ひとつの時代が終わることを示しています。
打鞠のあと、バカ話していた時代は終わった。道長が源倫子を妻とし、娘を得たら、公任たちにとってはもはや勝てぬ相手となってしまいます。
恋の季節は終わったのです。
まひろは啜り泣き、水面に映る影に石を投げます。
けれどもこれがまひろの望んだことだと、道長は言える。
まひろは『史記』「秦始皇本紀」を読んでいた。奸計で権力を得た醜さがわかる箇所です。
そして『長恨歌』です。聡明な皇帝であった唐玄宗が、楊貴妃を熱愛し、政治が乱れる様を詠んでいます。
直秀のような者を減らすための善政を実現するのであれば、楊貴妃のような美女はむしろ為政者から遠ざけねばなりません。
道長は嘘をついているわけでもない。まひろはずっと心の中に、一番星として残ります。決して消えぬ光になって輝いています。
けれども、おそらく、二人が結ばれることは今後ないと思われます。
光源氏は最愛にして永遠の女性であった藤壺と、一度しか結ばれておりません。
一度だけ枕を交わすことは、ある意味永遠の仲となることでもある。
そういうややこしいお約束に添うのではないでしょうか。
MVP:藤原道長
魯粛が劉備を警戒した言葉です。
道長はまさしく、前回までがカワイイミニサイズの竜でしたが、今週、巨大化したようなオーラが出てきました。
中国古典で「雲雨」は同衾の意味もあり、まひろと肌を合わせた結果、とんでもないことになりました。
まひろとの恋は無駄どころか、とてつもない巨龍を目覚めさせたのです。
これが武士ならば、『麒麟がくる』の光秀や、『鎌倉殿の13人』の義時のように、初めて血を流すことが覚醒となるのに、道長は性の目覚めでした。
冗談でもなんでもなく、出世手段の違いです。
武士は武功で出世する。この時代の貴族は子を為し、入内させることで出世する。性は避けて通れません。
どうやら今年の大河ドラマは、多くの人の目を開かせてしまったようです。
平安時代にハマる人が増えていることを感じます。このドラマそのものが、小さな竜に降り注ぐ雨かもしれません。覚醒とはなんと興味深いことか。
道長は顔つきが変わりました。あの怒り出したところで、なんてゲスなんだ、サイテーだと呆れる気持ちはわかります。
でもその裏には、野心的な政治家の像も見えてきた。それはそれで魅力的です。
くるくると変わる表情を見せる柄本佑さんが真骨頂へ登ってゆきます。
彼もまた、龍なのでしょう。辰年にふさわしいドラマではないですか。
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