こんばんは、武者震之助です。
ワールドベースボールクラシックの影響で視聴率が低下してしまった先週ですが、評価は盛り返しているようです。
さて、本編です。
今週は、風前の灯火となった瀬名とその子の命乞いからスタート。
間一髪で石川数正が到着し、鵜殿長照の妻子(寿桂尼の曾孫)と瀬名たちの人質を交換すると告げ、ひとまず窮地を脱します。
二年連続出演となる石川数正ですが、今年はなかなかダンディです。演じる中村織央さんは映画中心のキャリアを積んできました。中村さんや佐名役の花總まりさんのような、「お茶の間で知られてはいないけれども実力派」を昨年に引き続き、脇役に揃えてくるようです。
さて、この数正の行動は馬で人をはねてしまいそうでかなり危険です。傑山宗俊だってそりゃ慌てて飛び出します。
ここまで数正が急いでいたのも納得です。少しでも後れていたら瀬名(築山殿)たちは連行され、命がなかったかもしれません。
次郎は瀬名たち助命の決定打とはならなかったものの、時間稼ぎをして数正到着まで引き伸ばしたのですから、この件に関して多少は功ありです。瀬名にとっては精神的な支えとなったことも確かです。ヒロインが事件に口を突っ込んでうろうろしても、この程度の活躍で済むため今年は嫌味がありません。
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母の佐名は娘の願望を全て理解していた
危機一髪から脱し、OPを経て、本編の続きです。
危うく難を逃れた瀬名たちは、夫・松平元康の待つ岡崎へと向かいます。これからは親友同士の次郎と瀬名は、今川と松平という敵対する勢力としてに別れることとなります。
岡崎へ出立する前夜、今川に残る佐名は愛娘の瀬名に語りかけます。あなたは幼い頃から、今川を手に入れて母の仇を討とうとしてくれたのですね、と微笑む佐名。娘の健気な心根を母は理解していました。
瀬名は身分違いのシンデレラストーリーを望んでいたわけではないことがここでわかります。瀬名が蹴鞠勝負をしつこく挑んだ末に今川氏真と婚約したと書状に書いた時、氏真が北条から妻を得たときに般若面を被り踊るイメージが出た時、私は思わず笑ってしまいました。上昇志向が強く、ちょっと痛々しい女性だと思っていました。瀬名の周囲も、高望みして婚期が遅れた彼女を笑いものにしていました。
そんな中で、母の佐名は娘の思いをちゃんと理解していたのです。
「今度こそ、今川を手に入れなさい」
今川の妻ではなく、今川に勝利をおさめる男の妻となりなさいと娘を激励する佐名。瀬名の夫である松平元康が活躍すればするほど、佐名は危うい立場になるにも関わらず、佐名は娘の背中を押します。すべての希望を我が子に託し、この世から去りゆく人の透き通った笑顔です。
佐名はこのあと、夫ともども自害を命じられるのでした。母娘今生の別れとなりました。
今川氏真が自暴自棄になるのも先が読めるからこそ?
次郎(井伊直虎)が井伊に戻ると、井伊直親はじめ皆が読経して次郎の無事を祈っていたのでした。
次郎から人質交換の顛末を聞いた直親は、その機転に感心した様子。次郎は、寿桂尼が余裕を失っていると懸念を漏らします。今川が転ぶのか、甦るのか、情勢は不安定で先が読めません。
今や事実上の当主となった寿桂尼と、鬱屈した様子を見せ、現実逃避気味の今川氏真。
氏真は暗愚と言われがちな人物ですが、尾上松也さんの演技はむしろ愚かに見えないのです。愚かであると装っている、演じているという、「演じることを演じる」という高度な演技プランになっていると思えます。この氏真は昨年の豊臣秀頼のように素直でもないし、彼より賢いのです。先が読めるだけの賢さがあるからこそ、あがいても無駄だと屈折し自暴自棄になっているように見えます。
一方の寿桂尼は、孫のようにひねくれてす全てを投げ出せるわけではありません。京から嫁ぎ、謀略の中に身を置いて我が子を当主にして、ここまで家を大きくしたのです。みすみすやられっぱなしではいられません。
昨年の淀の方よりも彼女は賢く、業が深く、そして悪辣なのです。
彼女の前半生は作中で描かれませんが、想像できるのが浅丘ルリ子さんの凄味です。
寿桂尼が京から嫁いできたとき、今川家の人々は彼女を美しい京人形、貴族の血を引く腹以上のものとして認識していなかったでしょう。
そんな京から来たかつての姫君が、今や今川家最大の策士であり、守護者として立ち上がったのですから、もうこの寿桂尼という存在は、それだけでももの凄い物語であるわけです。本作において戦う「おんな城主」とは、直虎だけではありません。
寿桂尼は、このまま今川を滅ぼす暗君となるのかと孫の氏真を叱咤激励し、奮起を促します。氏真はもはや味方が離反し、将兵すら失いつつあると嘆きます。この窮地の中、今川は何を使って、この流れ止めるのでしょうか。義元生前以上の不穏な気配が漂います。
鷹狩りのときに松平と面会 こいつは誰だ?
井伊谷には山伏が訪れ、松平元康から次郎への御礼の品と直親への書状が届きます。
次郎には「ただの書状だ」と言葉を濁した直親ですが、実は重大な用件が書かれていました。直親は書状を目付の小野政次に見せます。書状には元康から鷹狩りに来るようにと書いてありました。
これを元康へ接触する好機と見た直親は、この誘いに乗ってよいかどうか政次に尋ねます。まだ時期尚早ではないかと迷う政次ですが、直親は今が好機だから決めて欲しいと政次に判断のボールを投げます。
ここで直親だけではなく、政次も勇み足になります。
いくつか条件をつけて、誘いに乗るよう促す政次。ここでどちらかがもっと慎重であれば、今後の展開は変わったはずです。
この場面がとても重要です。
もし次郎が山伏の正体を改めていたら。直親が慎重であったなら。直親が政次に最終判断を任せなかったら。政次が直親を止めていたら。
ここでは三者ともに失敗をしています。そしてその失敗が彼ら自身の運命を変えてゆくのです。長い目で見たら直親も政次も判断を誤ってはいないのです。
今川は滅びます。しかし、それはまだまだ先のことです。昨年も真田昌幸が「豊臣は滅びる」と予想していましたが、それはまだまだ先のことなんですね。
答えが正解でもタイミングがあわなければそれまでなのです。
直親は鷹狩りの席で元康に面会します。
視聴者はここで違和感を覚えるはずです。元康は声も顔も違います。元康の影武者が登場しているのか、それとも別の誰かでしょうか。
元康は影武者がよく取り上げられる人物です。ミスリードを誘っているように思えます。
元康宛の直親書状という物的証拠を叩きつけられ
井伊谷に戻った直親は、例の井戸の横で政次に上出来の結果であったと報告します。元康の印象を政次に尋ねられた直親は、「手に刀傷があった」と言います。
直親はこのあと、政次の縁談について持ち出し、「今川の支配を抜けたら次郎を還俗させ、政次にめあわせたい」と持ちかけます。こんな時にそんな話をしている場合なのでしょうか。何か歯車がずれた不気味さが漂います。
このあと次郎もやってきて、おとわ鶴亀トリオが幼い頃のように、しょうもない会話をして笑いあいます。直親の死亡フラグが立つ「ビン!」という音が聞こえた気がします。そして本作の恐ろしい点は、この「ビン!」という音をこのあと何度も聞く羽目になるところなのです。
昔に戻ったようだと上機嫌の三人は、このあとすぐさま地獄にたたき落とされます。
次郎のいる龍潭寺に、常慶という名の山伏が、松平から次郎に御礼を言うためにと訪れて来ます。この常慶は南渓と顔見知りであるという点がポイント。宗教者同士ネットワークがあるということですね。
井伊の関係者と面識があるという点は、この前に来た山伏と違います。
ここは重要です。元康だっていきなり井伊とつながりのない者を使者には選ばないでしょう。何故前の山伏の時に身元を確認しなかったのかと言いたくはなりますが、常人ならば陥ってしまう誤ちであるとは思います。
駿府に参上した政次は、寿桂尼から「井伊が松平と内通している噂がある」と切り出され、さらには元康宛の直親書状という物的証拠を叩きつけられます。しかもこの場には直親を罠にはめた手に刀傷がある偽元康もいます。
寿桂尼がここまで井伊に対して厳しい態度を取るのは、次郎が瀬名の助命嘆願で寿桂尼に悪い印象を与えたことも影響があるかもしれません。
もはや毎週恒例となった政次絶望タイムです。
政次は目を泳がせながらも筆跡が違うと苦しい言い訳をします。ああ、これが真田昌幸ならばしれっと笑ってごまかせるのに! しかしそもそも昌幸ならこの手のミスはしないのでしょう。昨年は、思えば異常だったのです。
「目付なのに加担していたのではないだろうな?」と寿桂尼に問い詰められる政次。蛇に睨まれる蛙とはこのことですね。
追い詰められた政次は、父の代から恩顧を受けた今川を裏切るはずがないと言わざるを得ないのでした。ここでそう言わねば井伊を守れないのです。ああ、直親死亡フラグだけではなく、政次闇墜ちフラグも大きな音を立てて立ちましたよ。
井伊を守ろうとすることで、政次はその井伊の人々を裏切ることになるのです。
一方、井伊谷の直親はもはや松平元康を頼るしかないと判断。南渓と次郎は岡崎へと向かいます。そして井伊谷の直親の元には、駿府からの召喚命令が届きます。もう駄目だ……。
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