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今川が松平と手を結び、井伊も武田の敵となる!?
直虎は政次から政治状況を聞き出します。
今川と武田の同盟はもはや風前の灯火。そうなればおそらく松平と結ぶはずとのこと。
井伊にとって次の対戦相手は武田になるわけです。織田の次は武田と戦うことになるって、ベリーハードモードにもほどがあるでしょう……。
直虎は南渓とともに、図を書きながら同盟関係を整理します。こういう情勢の説明はナレーションと地図を使うことが多いのですが、今年の場合は直虎の目線を通して説明します。
牢屋ではあの男が、傑山から直虎が何故領主になったかを聞いています。これはドラマを見ている視聴者にはわかりきった話ではありますが、注目すべきは傑山の思いでしょう。
「直虎様は生まれてこの方、御家のためにしか生きておらぬのかもしれぬのう……幸せなのかのう。しかしあれは竜宮小僧ゆえ、あのようにしか生きられぬのじゃ」
幼いころから直虎を見守って来た傑山ですが、本音は複雑でした。いつも冷静で時に厳しく、時に優しい彼がそんなふうに思っていたわけですね。
するとそこへ六左衛門が見張りの交替役としてやって来ます。ふてぶてしく、死罪を前にして落ち着いた囚人と、六左衛門。嫌な予感しかしない。
直之は自邸で弟・直久を厳しく鍛錬中。そこへ政次がやって来ます。
政次は思いが同じ直之に、近藤康用に引き渡すことを相談しにやって来たのでした。直之は直虎の思いに背くことに悩みますが、賛成することになります。
その様子を直久が見ていました。本作の人物は子供の観察眼を過小評価する傾向があります。
盗人の処遇でさんざん揉めるも、気づけば男は脱走し……
直虎は囚人の労役をどうするか考えます。
龍潭寺で虎松、亥之助、直久にアイデアを聞いて見る直虎。亥之助は天然ボケめいた答えを出すのですが、虎松は「木を盗んだのなら木を植えさせましょう」とよい答えを出します。
直久はここでおずおずと、兄と政次が囚人を鈴木康用に引き渡すつもりだを告白してしまいます。
直虎は怒り、直之のもとへと向かうと相手を小突きながら「誰が主君だかわかっているのか!」と責めます。
さらに政次の元へ向かうのですが、ちょうど政次の配下の者が康用の元へ向かおうとしているところです。直虎は政次に羽交い締めにされ、男は康用の元へと出立してしまいます。
直虎は命を無駄にするんじゃない、血を流すな、と政次に詰め寄ります。
「我はこれでも女子でな! 女子は血など見飽きておるからな!」
出た。なかなかクリティカルな台詞を放つ今作。
女性脚本家ならではの優しさや繊細な感性――と安直なことは言いたくはありませんが、これは女性脚本家でなければ出てこない台詞です。
直虎が引っかけた意味を知り、ぎょっとした顔になる政次。政次は直虎に背中を向けていて相手に顔は見えていませんが、視聴者には見えるわけです。この時の政次の当惑する顔が、本当に凄い。
ここでふと思い出したのですが、直虎は父、許嫁、曾祖父ら大事な人を失い、血が流れる様を見てきたわけです。きちっと中身のつまった「血を流してどうする!」という叫びだと思います。流血にはもう、ウンザリなんですね。
政次の理屈も筋が通っています。彼は賊が虎松に危害を加えたらどうするか懸念しているのです。政次は直虎の甘い判断のせいでさらなる流血を招くぞ、と言うわけです。ヒロインが感情論で叫ぶろ怯む展開ではなく、きっちりと政次は反論します。
そんな二人の元へ、なんと、例の男が脱走!との知らせが。
あの野郎、今度見かけたら鋸引きにしてぶっ殺す!
男は六左衛門を吹き矢で眠らせ、牢屋に穴を掘って脱走したのでした。
『ショーシャンクの空』みたいですね。
直虎は「これじゃ私がアホみたいじゃん! あの野郎、今度見かけたら鋸引きにしてぶっ殺す!」と地団駄を踏むのでした。
鋸引きって、ゆっくりと斬首する究極の極刑。さっきまで「血を流したくない!」と言っていた態度と真逆の発言に思わず噴き出しました。
あの男が仲間としてレギュラーメンバーになるのはいつでしょうか。引っ張りますね。もうひとつ引っかかるのが政次の「これだけの穴でも金掘衆でも仲間にいれば掘れるだろう」ですね。そんな特殊技能を持つ人間って、ちょっと引っかかります。
康用は犯人逃亡の知らせに激怒。
政次に対して「あの女じゃ駄目だと太守様に知らせたらどうだ!」と詰め寄ります。
表情にあらわれた動揺を隠しつつ、「今、太守様は大変な状況で、それどころではないのです」と返す政次。康用はややクールダウンして、「武田はどうなりましょうな」と政次に問いかけます。この問いかけは疑問というより、確認のように聞こえました。
生きるか死ぬかの切羽詰まった状態で、日常の問題にジタバタ
武田が牙を剥いて襲ってくる。そして今川配下の国衆としてそれに立ち向かわなければならない。
生きるか死ぬか。そういう状況です。
それなのに彼らは材木窃盗という日常の中で、目の前の問題を解決するためにジタバタしています。
これがリアルな戦国。小さな世界に生きていて、破滅的な事態を回避するほどの権力も持たない人々。小さな山里で、谷で、日々を生きることだけで精一杯の姿。スケールが小さいと言われる本作ですが、小さなスケールの中で生きるしかないその姿だからこそ、紡ぐことのできる物語、見える景色があるのではないでしょうか。
駿府にはついに破局的な知らせが届きます。
武田義信が廃嫡され、氏真の妹とは離縁。氏真は「信虎を受け入れたのは今川なのに、信玄の恩知らずめ!」と激怒します。寿桂尼は「親を追放するような者に理屈は通じませぬ」と断言。関係修復をあきらめました。彼女は次の一手として、「西にいる恩知らず(=松平元康)」との同盟を提案します。
それにしても、シルエットすらうつらない信玄の不気味さと大きさときたら。
この当時、真田昌幸は血気盛んな青年として、信玄の薫陶を受けていました。この信玄の教えを守ったからこそ、昨年『真田丸』で見てきた昌幸はああいう策を使ったのだなと腑に落ちるものがあります。
今後の防犯対策を直虎が考えていると、祐椿尼が衝撃の知らせを持って来ました。
なんと直親の娘と名乗る者が龍潭寺来ているとのこと。今川に届いた知らせより暢気ではありますが、それはそれでショックだ! 娘の正体は次週にて!
MVP:直虎&政次
二回連続はどうかと思いますが、ネクストステージへと踏み出した二人を選ばずにはいられませんでした。
政次は衣装にまで鶴カラーの青、直虎カラーのレッドを取り入れています。顔つきも心なしか険しさが薄れ、特に直虎と二人きりの場面だと鶴の部分がはっきりと見えるようになりました。
今週は「恩に着るぞ、鶴!」と呼ばれてキュンキュンするわ、羽交い締めにするわ、「女子は血など見飽きている」発言に動揺するわ、ときめきのネクストステージじゃないですか。
直虎はそういう相手の変化に気づいているか、いないのか。
満面の笑みで「鶴!」と呼びかけるし、「血など見飽きている」発言で相手を動揺させるし、天然の小悪魔ですか。
直虎は表情が豊かで、ディズニーアニメのよう。感情も剥き出しだし、気にくわなければくってかかるし、反論もするし、タフで強くて、それでいて「よい子」の枠には絶対はまらないという、新しくて素晴らしいヒロインだと思います。
でもこの幸せは、期限を切られたものだとわかっているわけです。
先週までは秘めた思いの切なさ、そして今週からは「この幸せは長くは続かないのであった」という次元で胸を抉るこの構造。こんなことを書けば後悔するかもしれないけれど、本作の魔力にすっかり参ってしまっています。
総評
本作をスケールが小さくて、単純だと言い切ってしまうのはすごく簡単で楽なことですよ。武田の脅威が迫っているのに材木窃盗や隠し子騒動で大騒ぎしているなんてくだらない、と言い切れたらそりゃそうなんですよ。
そういう日常でもかけがえのない思いは交錯するわけです。
今まで縦糸として戦国の日常が描かれてきましたが、横糸としてつむがれる人間同士の感情が強くなってきたと思います。家臣の個性も出てきましたし、何といってもMVPでも散々書いた直虎と政次のコンビがうまく回っていることがあると思います。
政次を見ていると、去年のきりを思い出します。
性格は正反対なのですが、カップルの相手としては主人公とすんなり結ばれないものの、強い同志愛でつながれているあたりが似ていると思います。きりは大坂の陣で戦う信繁という、最悪の人が最も輝いている瞬間を目撃しました。
政次も、直親は決して見ることができなかった、城主として活躍する直虎という、最も輝いている姿を目にしています。きりも政次も、愛する人が戦いに赴けば危険なことはわかっています。それと同時に、その危険の中でこそその人が輝けるのだと知っていました。
また、きりも政次も、愛する人と夫婦になることはなく、子も作ることはありません。
しかしシッカリと絆で結ばれ、戦友として生きていました。
それはある意味、とても幸せなことではないかと、きりは昨年視聴者に示したわけです。そういう愛のかたちもあるし、そういう幸せもあるんだと。
その幸せが長くは続かないことを、調べてしまえば視聴者はわかります。だからこそ、この幸せが一瞬でも長く続いて欲しいと視聴者は願ってしまうわけです。
歴史の流れだけではなく、歴史に翻弄される人の思いも面白いと今年の大河は描いています。
普通なら切り捨てられかねない小さな思いも、すくいとっているのです。
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)