こんばんは、武者震之助です。
武田との内通を疑われ、織田信長から処刑するように命じられた徳川信康(松平信康)。信康が捕縛される場に、おとわは居合わせてしまいます。
呆然としたまま、目撃してしまうおとわ。
榊原康政に誰かと聞かれて、「万千代の養母でございます」とこわばった声で応じるのでした。
立場をわきまえ、グッとこらえるおとわ
瀬名は、突然の出来事にショックを受けてしまいます。
石川数正から背後に織田がいるのではないかと聞かされ、事態の深刻さを改めて噛みしめます。
瀬名はおとわを頼ろうとしますが、おとわは既に帰っていました。
「そうですね……万千代の立場も、あるでしょうし……」
声を震わせる瀬名です。
井伊に戻ったおとわ。
南渓は、おとわなら信康を助けると言い出すと思った、と語ります。視聴者もそう思ったかもしれませんし、駄目なドラマならそうしてしまうかもしれません。
おとわは井伊に影響が及ぶことを考え、こらえていました。
瀬名もそれを察しているのです。このあたり、二人とも成長しました。
榊原康政は、岡崎の家臣から信康と絶縁するという起請文を集め、浜松に戻りました。
康政の報告を聞く家康。彼はまだ諦めていません。
今川氏真にも、先週の最後に何か頼んでいました。
城を転々とし、時間稼ぎの間に助命嘆願を
信康は大浜城から、堀江城に移動させられます。
万千代と万福がこれに立ち会いました。家康の時間稼ぎです。
井伊谷ではおとわが旅に出ようとしていました。
そこへ南渓と傑山(傑山宗俊)がやって来ます。
傑山は、信康の護送とすれ違ったのでした。これは時間稼ぎかもしれない、家康は諦めていないことを、井伊谷の人々は悟ります。
家康は氏真を使い、北条との同盟を手土産に信康の助命嘆願をするつもりでした。
そのために、信康を移転させているのです。
信康はこんなときでも父を気遣っています。
その様子を万千代から聞かされ「失ってはならぬの」と家康は言うのでした。
半月時間を稼げれば、と計算する家康。彼は希望を捨ててはいません。
この希望を持ち続ける家康の姿に、何かを思い出します。
第32回あたりの、直虎と小野政次の姿が重なってきます。
一方で岡崎の瀬名は、思い詰めた様子で石川数正に何事かを頼んでいました。
証拠の書状を発見! 内通していたのは瀬名だった!?
ここで辛い立場になるのが、安土城で進捗報告をする担当者の酒井忠次です。
康政から信康が転々としていることを聞かされ、顔に脂汗をかいて焦りまくっています。胃薬を差し入れたくなるほど気の毒です。
近藤康用の時もそうでしたが(第34回)、本当にこのドラマは「この人も辛いんだよね」というフォローの入れ方がうまいのです。
この忠次相手に、安土城で対応する明智光秀が渋くて素晴らしい。
宣教師が記録したような、狡猾で策に長けた男というイメージぴったりなんですよ。上品で賢そうで、それでいて何を考えているのかわからない深さがあって。シブい。
織田相手に徳川主従が焦り始めた頃、瀬名が数正ともども失踪してしまいます。
しかも文箱から、武田との密通の証拠となる書状が発見されました。
武田と通じていたのは瀬名だけ、というわけです。
家臣たちが納得しかけたところで、万千代が声を上げます。
これは見え透いた狂言ではないですか、と。
若いな。経験不足だな。
かつてのおとわを見ているみたいです。
経験を積めば、あとでこっそりと家康にだけ耳打ちするかもしれません。現在の康政のように。
家康は万千代の言葉を無視。
瀬名に追っ手を放ち、捕らえ次第首を刎ねよと命じるのでした。
これにはあの本多忠勝も「まことによろしいので?」と声を震わせます。
そのうえで家康は、万千代に頼み事をするのでした。
井伊の井戸を訪れ、想いを馳せる瀬名の前に……
瀬名は数正とともに、井伊の井戸を訪れていました。
母やおとわの育った場所はこのような場所か、としみじみ思う瀬名。
そこにおとわがやって来ます。
瀬名は、本心を見せないように笑顔で偽装しつつ、信康が許されたので迎えに行くと嘘をつきながら過ぎ去ろうとするのですが、おとわはしっかりとその袖を掴み、瀬名の狂言を見破ったと言います。
何故おとわは、わかるのか。
瀬名が、あのときの井伊直親や小野政次と同じ目をしているからです。
そこに数正が割って入っておとわと瀬名を引き離し、そのまま瀬名たちは去ろうとします。
すると、同じタイミングで万千代と万福が来ます。
万千代たちから、家康の策を聞かされる瀬名たち。しかし話は複雑で、このまま瀬名に罪を着せようという家臣もいます。
二人には追っ手がかかっている、井伊で匿って欲しいというのが、家康の頼みでした。
井伊は、逃げる隠れるには慣れている、とおとわ。
数正は深々と頭を下げて礼を言いますが、瀬名は違います。
「万千代。殿の策は、必ず実るのですか」
おとわの脳裏に小野政次が浮かんでいた?
瀬名は覚悟を決めていました。
策が実らねば信康は助からない、ならば自分を犠牲にすると言い出す瀬名です。
おとわはかつて今川館に閉じ込められた時のことを言いだし(第11回)、あのときのように家康の運の強さを信じるべきだと言います。
しかし瀬名は、あのとき家康に救われたからこそ、救われた命を家康と、家康の愛する息子のために使いたいと言うのです。
「徳川家の妻として……母として」
「死んでいく奴は皆そのようなことを言う!」
おとわは絶叫します。
残された者の無念を、助けられなかった者の苦しみを考えたことはあるのか?と。
もう二度とあのような思いをしたくはない。徳川殿が大事と言うなら、そんな思いをさせないでくれ、と懇願します。
このときおとわの脳裏にあるのは井伊直親や小野政次、井伊のために散っていった人々の姿のはずです。
何かを守る為に命を捨てるのは幸せだと、満足げに去って行ったあの人たち。
見送る背中が多いからこそ、政次にいたってはその手で最期を遂げさせたからこそ(第33回)、おとわはもうあの苦しみを繰り返したくはないのです。

佐鳴湖の水面を静かな目で見つめる瀬名は何思う
瀬名は「信康が戻ったら子宝祈願をしてやってください。生まれてくる子は私だから」と微笑みます。
「何も悲しむことないと、殿にお伝えくだされ」
瀬名はそう言うと、おとわの掌に自らの紅入れを……。
「左様なこと、己の口で言え!」
「おいとまします。あね様」
そう言い残し、瀬名は井伊谷を去りました。
瀬名は山中で数正に別れを告げます。
数正は「私は、御方様ほどお美しいお人を知りませぬ。一度、お伝えしとうございました」と告げます。
恋愛感情というよりも、これは騎士道のような感情ですね。
美しいというのも、外見というよりもむしろ内面を加味したものでしょう。
この数正がこれから浜松に行って、「いや~、あの御方様は武田と通じるなんてとんでもねえ女だ」なんていうのを聞くのかもしれない。
そう思うと泣きそうですね……って、そりゃ豊臣秀吉のもとへ出奔しますわな。
ついに二人は別れ、瀬名は一人で追っ手の前に立ちます。そしてスグに捕まり、佐鳴湖の水面を静かな目で見つめます。
彼女は一体、どんな気持ちでこの水面を見つめたのでしょうか。

悪名を背負った政次も瀬名も愛されていた
浜松には、今川氏真が北条と話をつけて戻って来ました。
氏真よくやった! あんたはどこまでも格好いいよ!
しかし、時既に遅し。
家康は瀬名の首桶の前でうつむいていました。
思えば第1回で井伊直満(宇梶剛士さん・井伊直親の父)の首桶が帰って来た時から、本作では何度もこうした場面を見てきました。
「許せ……瀬名……瀬名……」
氏真が自らを責め泣き出すと、万千代も、家康も、自分が悪かったと言い出します。
ちょっと瀬名は救われたな、と思いました。
幼き頃の瀬名の夢は、この氏真の妻となり、今川家を手にすることでした(第3回)。
それが自分の母を苦しめた今川への復讐だと信じていました(第10回)。
そんな氏真が、自分のために奔走し、苦しみ、涙し、詫びる。
ささやかながら、彼女の本懐は遂げられたと言えるのかもしれません。
公式サイト(→link)で第3回あらすじページにあるおとわ、氏真、瀬名の幼少期を見返すと泣けてきます。
「私は瀬名に信じてもらえなかった。もっと頼りがいのある夫であれば岡崎でおとなしく座っておった」
そう漏らす家康。
政次が嫌われ政次でなかったように、瀬名も悪女ではありませんでした。悪名を背負ったこの二人は、実は愛されていたのです。
「そこまで申すのなら、徳川殿の好きになさるがよい」
家康は瀬名の首桶を持ち、安土城の信長に対面します。
密通していたのは瀬名であり、信康は無実である、北条とも同盟を果たしてますます貢献します、と信長に弁解する家康。
しかし信長は冷たいまなざしを向けます。
つまらなそうな顔で、家康の言葉を聞いているのです。
「そこまで申すのなら、徳川殿の好きになさるがよい」
「では……」
「そのかわり、余も好きにするがのう」
終わりました……全てが、終わりました。
それにしても毎回のたうち回っている気がしますが、この市川海老蔵さんの信長が毎回絶品でもう、言葉もない。
出番が少ないのもプレミアム感がありまして、毎回イメージど真ん中の信長像をつきつけられて五体投地して拝みたいほどです。
かくして天正7年(1679年)、9月15日。信康は自刃をしたのでした。
この自害シーンが力を込めて頸動脈を切断しているのがしっかりわかる、なかなか生々しい動きでこれまた辛い……。
悲報を受けて、徳川家臣団の慟哭が響きます。
忠勝の獣のような声も印象敵ですし、忠次の転げ回るような嘆きようも悲しくて。
於大の方も静かに祈りを捧げます。
私も一緒に床を転げ回りたいくらい悲しい……。
「できることしかやらんのか、しみったれた女子だのお」
井伊谷でおとわは、このような悲劇はいつまでも続くのかと苦しみを噛みしめていました。
南渓を前に、怒りと悲しみを語るおとわ。
「いっそ、大名が一堂に会し、やあーっと盟約でも結んでしまえばいいのです」
戦さえなくなれば、こんなこともなくなるのに、そう嘆くおとわ。
そんなおとわに、南渓は「できることしかやらんのか、しみったれた女子だのお」と言います。
「瀬名は妻として、母として、その命を使い切った。そなたは何のためにその命を使うのだ。母でも、妻でもないそなたは、何に、その命を賭けるのじゃ?」
南渓が差しだす白い碁石を受け取るおとわ。
おとわは虎松を使い、泰平の世を目指してもらうよう、持って行くと決意を固めます。
「何ひとつ使いどころのない命。ならば、途方のない夢に賭けたとて、誰も何も言いますまい」
この場面がぐっとくるのは、おとわの言葉通りのような世の中を、家康が実現することです。
ここでおとわと家康の苦しみはシンクロして、人生が交錯するのです。ゾクゾクしました。そういう仕掛けなのかと。
母や妻の立場を描くだけのおんな大河ではない
第1回放送で、井伊直満の首桶が届いてからの無念が、おとわの中でずっとたまってきました。
泣いて涙を流し続けて、無力だと嘆き続けてきたわけです。
その涙が滴となって、乱世という堅い石を穿つのだと。
おとわたちの嘆きが万千代を通して家康に届き、歴史が変わるのだと。
今までの女性主人公大河では、母なり妻としての立場が描かれました。本作はそうではなく、一人の乱世に翻弄された女性の涙が、歴史の大河に注ぎ込む過程を描きました。
これぞまさに新たな大河が誕生する瞬間ではないでしょうか。
岡崎では、信康の死後逃げ出す家臣が相次いでいました。
忠勝が岡崎に乗り込もうかと提案していると、それを聞いていた家康は突如怒鳴ります。
「勝手に決めるなと申しておる!」
主君として家臣の前にはいるものの、心は悲しみに砕け散っておりました。
一人、碁盤に向かう家康。
万千代のもとに、瀬名の形見である紅入れを手にしたおとわがやって来ました。
とてもこのような物を渡せる状態ではないと万千代。嘆きの言葉を続けます。
「かようなことはいつまで繰り替えされるのですかね。父上や、但馬や……」
おとわは、直親が亡くなったときにできたことは、直親のかわりに生きることだった、と語ります。
死んだ者はどうやっても戻っては来ない。
生き残った者にできるのは、志を宿すことだ、と。
信康の志を受け継ぐ? それは不遜なことだと万千代は一瞬たじろぎますが、おとわは笑い出します。
「不遜? そなたの口から左様な言葉が出るとは。徳川様にすれば、息子のような家臣ができるということ。ありがたいことだと思うがな」
「御方様が見ておられます。考えましょう、この先の徳川のために!」
万千代は家康の部屋に入ると、スライディング気味に碁石を吹っ飛ばします。
かつて瀬名がよくしていた仕草です。
井伊の血筋でしょうか。思わず瀬名の名を口にしかける家康。
「では、もう一度やりましょう。私が、お相手します」
「お前は何様のつもりだ! わしはもう誰の言うことも聞いてやらん!」
家康は泣きながら、抑えていた思いを吐露します。
万千代は静かに、おとわが一人で碁盤に向かっていたと語り出します。おとわは一人で碁を打ってはいなかった、見えぬ相手がいると。その相手、つまり小野政次から碁を習ったと。
回想シーンで小野政次は出てきません。
しかし今週は、政次が脳内に出てきて涙した視聴者が多いことでしょう。
敢えて回想を出さない。台詞だけで小野政次の志がそこにあるのだと示す脚本が見事です。
政次は、地獄の底からではなく今まさにここから皆を見守っています。
「その者は、教えてくれました。負け戦になってしまったら、そもそもどこで間違えたか確かめよと。次に勝つためには! 負けた意味は、次に勝つためにあると」
家康の目に光が戻ります。
万千代が差しだした瀬名の形見を手に取る家康。
「御方様が見ておられます。考えましょう、この先の徳川のために!」
「まずは、岡崎じゃ」
家康はそう言うと、忠勝を呼びます。
主君の命を受け、馬を走らせる忠勝でした。
MVP:瀬名&信康&家康
ここは瀬名が頭一つ抜けている気がしますが、敢えて親子でセットにしたいです。
瀬名の覚悟を決めた顔の美しさときたら……。
直親や政次の時もそうでしたが、覚悟を決めた光のようなものがありました。
私の感情が大いに揺さぶられていることは重々承知で、神々しいほどの美しさでした。
初登場時の、いかにも気の強そうな女性から、この壮絶な最期へ。
奈々緖さん、最高でした!
信康の優しさと気高さ、泣き叫ぶ家康も素晴らしかったです。
総評
尊い……。
今週は、あの政次磔刑の第33回のリフレインとも言える回でした。
あのとき今回の信長と同じ役割を果たした家康が、今回はおとわの立場になったわけです。
この構造によって、おとわと家康の人生が交錯しました。おとわと同じ苦しみを味わったこそ、この乱世を終わらせたいと願う家康ができあがったという見方もできます。
おとわの涙が万千代を通して家康の人生に流れ込み、歴史の流れに加わるような。そんな展開にぐっときました。
知名度の低い女性であり、今はもう出番が少なく、脇役のようなおとわ。
それでも彼女の人生が細い流れとなって歴史に流れ込んでいるのです。こんな構造をロングパスで精密に作り上げる森下氏に感服しますし、彼女がこんなにも読者を信じて書き続けてくれることに感謝しかありません。
ありがてえ、ありがてえ……。
好きを通り越して、もう拝みたいほどです。ここ数回は、見終えたあと合掌しています。
小野政次の時のように、瀬名と信康の供養になったような出来であるのも感謝しています。
彼らの死には諸説あるけれども、ただの奸臣や悪女ではなかったはずです。
四百年以上を経て、こうも彼らの死を嘆き、心ふるわせるドラマを作り上げるというのは、最高の供養だと思います。
今回は敢えて回想シーンを挟まないのも、素晴らしいと思います。おとわや万千代の台詞にあわせて回想を入れてもいいはずです。
そこを見る側に委ねて、あなたの好きな小野政次を思い出してください、とボールを投げてくれています。
ここまで視聴者を信じているのかと。
政次の名前すらはっきりとは出てきません。
それでも彼が、万千代の中で生きていて、家康が道をあやまるのを防ぐ役割を果たしているのを見ることになるのです。凄い。
テコ入れとか小手先のことを考えず、視聴者を信じて超絶技巧を放つ本作。
あと数回で終わりというこのタイミングで、すごいボールばかりを投げて来て、ただただ感服しています。
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絵:霜月けい
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【参考】
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)















