『西郷どん完全版第壱集Blu-ray』/wikipediaより引用

西郷どん感想あらすじ

『西郷どん』感想あらすじ第1回「薩摩のやっせんぼ」


過去の大河も苦悩していた武家女性の描き方

次の場面は「妙円寺参り」。
甲冑を着たまま20キロを走るという、かなりハードな行事です。

ここにシレッと、謎の少年・伊東も参加します。

他の郷中は、小吉たちに露骨に嫌がらせをして来ます。
しかし伊東の俊足のおかげもあって、4時間後には一番でゴール。そこには、沢村一樹さん演じる赤山靭負が待っていました。
小吉や伊東たちは、褒美の餅にかぶりつきます。

赤山靱負(沢村一樹さん)

「おはん、女子じゃったか」
ここで、伊東が岩山糸と判明。
って、気づくのが遅いっす!

前述の通り、武家の女子はフラフラ出来ていたわけではありません。
むしろ幕末の武家女性は、かなり行動が制限されます。戦国よりもはるかに厳しいのです。

子供とはいえ、フラフラしているのはかなり無理がありまして。
大河ドラマでは、毎回ここはかなり頭を悩ませるところなんだそうです。

 


「ないごて女子は郷中に入ったらいかんのですか!」

仮にそこをクリアしたとして、いくら糸が活動的でも……甲冑を着て20キロ踏破するような荒行です。少年に勝てるものでしょうか?

郷中はご近所の集まりであり、顔なじみのはず。
あの御殿への侵入時は、たまたま一緒になったという設定で通じるかもしれませんが、郷中行事にチームメンバーとして男児で参加って、かなりおかしい。

西郷吉二郎の少年時代(荒井雄斗さん)

糸のせいで郷中ごと叱られているのに、誰もそれについて怒っていない様子です。
武士は、とにかく面子が大事。
特に薩摩でしたら「女ごときにぶち壊されて我慢ならん」という対応になりそうなところです。

ここで糸は食い下がります。
「ないごて女子は郷中に入ったらいかんのですか!」
そう言うと、泣きながら立ち去ります。
これに対して誰も何も言わないのも疑問。すぐに出ます。

「男女七歳にして席を同じゅうせず」
これまた儒教の教えです。
江戸時代の武士はそういう規範を頭に叩き込まれているから、それでおしまいです。

糸は、設定として相当な変人ということになりかねません。
そういう女性として描くのではないと思うのですが、実はそんなリスクを背負うようになってます。

 


女装で男尊女卑を痛感する小吉

ここで、久光が馬に乗って登場。斉彬も供の格好をして、おしのびでやって来ている様子です。

島津久光(青木崇高さん)

「あん時の天狗!」
むむっ?
小吉の、そのリアクションはいかがなものでしょう。そんなことを軽々しく言ってしまうと、賢い子に見えなくなってしまう。
周囲の反応からして天狗である渡辺謙さんが重大な人物と理解できそうなところです。

ここで斉彬が「子は国の宝」と褒め出します。

我が子が褒められたと聞いて、これには小吉の家族も大喜び。

いや、そりゃまぁ嬉しいのでしょうけど、相手は島津家のトップの方たちです。
粗相はしなかったのか?真っ先に心配するのが自然な対応ではないでしょうか。

その晩、小吉は眠れません。
しかし、考えていたのは斉彬のことより、糸のことだったようで。

翌朝、小吉は女装して街を歩き、男尊女卑を痛感します。
そして父に見つかり、叱られるのですが……やっぱりツッコまずにはいられない。

薄~く、わざとらしくジェンダー感を入れて、女性視聴者の心を掴みに来ました感と言いましょうか。
郷中教育を受けた薩摩武士の子が……女装??
女子の心情に寄り添う???

ここで父子は、将来の見通しを語り出します。

西郷どん西郷吉兵衛(風間杜夫さん)

我が子にあまり大きな望みを抱くなと釘を刺されて、大それた望みは胸に秘めておくと言う小吉。

しかしその直後、妙円寺参りの帰り道でよその郷中の者と喧嘩になり、小吉は腕を動かせなくなります。

 

「この少年たちが新しい日本を作っていく」

剣を握れなくなり、絶望する小吉。

竹林で泣いていると、馬の嘶きが聞こえて来ます。
兄弟で狩りをしている斉彬と久光でした。

島津家嫡男とその弟が、供もつけずに狩りを楽しむ――さすがに薩摩藩のセキュリティがヤバイのではないでしょうか……もしも兄弟まとめて何かあったらどうする気だ。

ここで小吉と斉彬、三度目の出会いを果たします。
小吉は、立ったままで、斉彬に仕えてみたいと望みを語ります。

相手の身分がわかったからには、小吉も平伏の場面でしょう。
薩摩藩は、大名行列の前を外国人が馬上のまま通っただけで、殺して大事件(生麦事件)に発展するくらい、礼儀作法の厳しい藩です。

ここで斉彬は、カッコイイ言葉を言います。

「侍が二本指して、そっくり返る時代は終わるんだ」

たしかにカッコイイんですけど、やはりこれは未来人か神視点を持ったセリフなんですよね。

アヘン戦争を受けて、欧米列強の侵略を気にしているのは理解できます。
しかし、武士の世がひっくり返るというのは、相当先にならないとわからない。

そもそも武士の世がひっくり返るということは、ご自身のポジションが危うくなるということです。大藩の次期藩主が、「ワシらの時代は終わるんだ」と想定するでしょうか。むしろそうならないように史実の島津斉彬も動いてます。

ちなみに、この時点で斉彬が薩摩にいたという記録はなかった、と説明されます。

島津斉彬
幕末薩摩の名君・島津斉彬~西郷らを見い出した開明派50年の生涯とは

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その後、赤山靭負の家で世界地図を見る小吉たち。
世界の中で薩摩はこんなに小さいのだと驚きます。そこにある“”Cagoxima“=鹿児島という文字を見た小吉は、カステラの包み紙を取り出します。
肌身離さず持っていたようです。そこにあったのも同じ文字でした。

ここで郷中の少年たちが映り、ナレーション。
「この少年たちが新しい日本を作っていくとは、桜島とてご存じなかった」

 


総評1

大河って、そういえばこんなものだったなぁ……と、三年ぶりに思い出しました。
『真田丸』、『おんな城主 直虎』のここ二年が例外だったのかもしれません。

『西郷どん』の初回放送は、ある意味、王道でした。

・ロケで描かれる大自然と景観
・子供同士の喧嘩
・子供にとっては大冒険となるような、ちょっとした悪さ(具体的には家屋侵入、高所に登る、水に落ちる)
・大人に叱られてしまう
・偉い人に出会う
・決意を固める
・優しい父と母

これぞ大河スターターパックという感じで。
2013年『八重の桜』にも展開が似ていますね。

ただ……本文でツッコミまくったように、本作は言わばバグとセキュリティホールだらけのOSを搭載しています。

画面は綺麗だし、アプリケーションは豪華そのものなのです。

では何がバグなのか?

そもそも歴史ドラマのOSというのは、時代に沿った考え方をしているか、脚本家が歴史の流れをわかったうえで書いているか、という点になると思います。

本作はそこが大変危うく、『八重の桜』と比較するとかなりバグが多く、危うさを感じました。
事前予想で危惧した点も、払拭されるどころか懸念事項が当たってしまった。

本作で危うい点をあげておきましょう。

・斉彬や西郷が「未来人」になりそう

西郷はまだ子役ですので来週以降の言動を見ないと断言はできません。
ただし、斉彬は現時点で未来人か神視点で物事を語っていました。
ありえない、緊張感に欠ける展開が増えてしまうのではないかと心配です

・ジェンダー感が薄っぺらく、強引

糸の郷中侵入事件で、本作への期待値が下がりました。
どこがおかしいのかは本文に書きましたので、繰り返しません。
史実の薩摩の男尊女卑を描きたくない、西郷をフェミニスト(女性に甘い男という誤用的な意味で)にしたいのでしょうが、「こんな薩摩があるか!」とかえって心が凍り付きます。
ジェンダー感を意識しているとアピールしているわりに、由羅がありがちな悪女描写なのもどうなのでしょうか?

後に薩摩を二分する「お由羅騒動」は、単に彼女が悪女だから、というものでもないように思われます。

お由羅騒動(お由羅の方)
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・時代背景の説明が少ない or おかしい

鎖国関連、郷中教育関連。説明不足であったり、不自然であったり。
薩摩の特色ってこんな感じでしたっけ?
主人公はじめ、武士として教育を受けたとは思えない言動ばかりでビックリしました。

・敵対者を愚かに描いて貶める傾向を感じる

主人公と敵対する郷中の少年から、由羅と久光母子まで。主人公側は高潔で偉く、敵対者は愚劣で卑怯に描く……そんな予感がしてきました。
幕府、佐幕藩、新選組ファンの皆さんは、既に諦念の笑みを浮かべているかもしれません。

警戒すべきは、長州ファンの皆さんかと思います。
幕末ものでこういうことをすると、薩長のいずれか(主人公側でない方)が貶められて、みんな幸せになれない結果に……(三年前大河の薩摩描写参照のこと)

・恋愛とモテ推し

糸と運命の人設定で辛い気持ちを抱えている場合じゃありません。
番宣を見る限り、篤姫とのロマンスもぶっ込まれそうです……。

篤姫(北川景子さん)

・展開が力技

少女が20キロの道のりを歩き、毎日厳しいトレーニングに挑んでいる少年に勝つ。
三度も偶然主人公と藩主が出会う。交渉以前に、流石に無理があるのでは。

 

総評2

SNSを見ると現時点での本作は高評価です。

一話の時点でご祝儀分もあるのでしょうが、私個人としては、糸の郷中侵入事件の時点で、ここ数年まれに見るくどい甘さを感じます。
一方、渡辺謙さんはじめ出演者が豪華であるからか、「骨太!」という讃美も多いようです。

◆脚本家・中園ミホ氏が語る“西郷どん”の魅力「歴史好きはもちろん、歴史を知らない人にこそ見てほしい」(→link

視聴者に向けて求められたメッセージで、中園ミホさんは以下のように答えております。

歴史好きな人はもちろんですが、歴史を知らない人にこそ見てほしいなと思います。歴史に強くない私自身が、興味津々で書いています。

要は、私のようにネチネチと重箱の隅をつつかない、そういう人には広くアピールできる内容なんですね。

明るく雰囲気もよく、近年でも稀にみるほど番宣を使っています。
過去大河の主役クラスを惜しみなく導入していますし、なんといっても明治維新150年という記念すべき年とも重なるのですから。

そんな状況を受けて、今後の大まかな流れを予想しますと……。

2月までは絶賛記事が出るでしょう。
叩かれるとしたら3月以降(ただし1~2ヶ月程度のズレあり)で、急死する島津斉彬はじめ、序盤の豪華キャストが抜けた分、補えるかどうかがポイントになります。

後はざっとこんな感じでして。

・視聴率は『八重の桜』のプラスマイナス1~3パーセント程度
・歴史ファンの評価としては、幕末大河だと『八重の桜』よりかなり下、2015年のやや上に落ち着く
・歴史に興味がないファンの評価としては、『八重の桜』より上に落ち着く
・SNSでの熱気は『真田丸』、『おんな城主 直虎』には及ばない
・観光への貢献度は、明治維新150周年も重なため『直虎』以上、しかし『真田丸』以下に落ち着く
・幕末版『軍師官兵衛』という立ち位置になる

といったところです。
初回からあんまりご祝儀プラス評価できなくて申し訳ありません。


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著:武者震之助
絵:小久ヒロ

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【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等

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