青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第14回 感想あらすじレビュー「栄一と運命の主君」

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青天を衝け第14回感想あらすじレビュー
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道三の言葉

『麒麟がくる』第13回放送で、斎藤道三はこう言いました。

言葉は刃物ぞ。気を付けて使え。

それと比較して、本作の「快なり」の浅さはどうしたことでしょうか。

本題に入る前に、言葉のことを考えたい。

円四郎は「命を捨てる覚悟」とかなんとか言い出し、栄一と喜作の二人を一橋家にスカウトしました。

前述のように「感佩(かんぱい)」といった難しい言葉も使っています。

ただ、バランスが取れてないように感じます。

このあと、危ういものの例えとして栄一のセリフに「積み上げた卵」と出てきたのですが、そこは「累卵(るいらん)の危機」でよいのです。

言い換えをするのはどういうことですか? 脚本家はチーム体制でコミュニケーションに不備があるのでは?

しかも、こんなセリフもある。

「ただぐるぐるどくどくしている! おかしれぇって気持ちだ!」

こんな言葉遣い、現代人でもそうそうないでしょう。

全体的に語彙が軽い。命を捨てるなぞなんだのと簡単に口にしますが、幕末志士を侮辱しているのかと思うほど軽い。

「徳川の直参を舐めるな!」みたいなことを言う円四郎にも絶望しました。

『麒麟がくる』の道三は「お守り札に頼っていてはいけない」と言いました。

要するに【肩書きに頼るな】ということです。

これは時代に関係なく、現代の我々も納得できる話でしょう。

物事は理詰めで語ってほしいのです。

しかし本作の人物は、勢いだけで語り、論理破綻をしている。それでも言葉だけは立派なものだから、その中身が軽くてどうしようもない。

なぜ、こんな悪癖があるのか?

本作脚本家は2015年のヒット朝ドラ『あさが来た』で、ヒロインに「びっくりぽん!」と言わせていました。

彼女は、いい歳こいた実業家になってまで「びっくりぽんのカッパー」と人前で叫ぶ。

一体何事か?

と感じたものですが、当時は『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ!」以来、朝ドラヒロインの妙な口癖が流行していた。その影響だったのでしょう。

『青天を衝け』も『あさが来た』の雑な二番煎じが大得意です。

ゆえに

「ぐるぐるする!」

なんてしょうもないセリフが用いられるのでしょう。心室細動の可能性もあって、割とシャレにならなそうですけどね。

あのダッシュして出会ったときの時点で、リアルの渋沢栄一は太っていて、走るのがかなり苦しかったそうです。そんな話を知ると『おちょやん』の好演の影響もあってか、脳内では栄一が塚地武雅さんに変換されてしまう。

『青天を衝け』は、役者が走ることをやたらと強調します。

徳川幕府は終わりだと死亡宣告します。これも彼の思想をふまえれば問題ない。

「わあーそんなこと言っちゃう栄一かっこいい! 受け入れる慶喜すごーい」

とでも言いたいのでしょうが、慶喜は聡明ですから、そのくらい感じていた可能性は十分あります。

そもそもが斉昭のお得意はこういう「幕府崩壊!?」とド派手なフォントで煽って自分がイニシアチブをとること。慶喜がどこまで何を考えたのか不明です。そもそもデフォルトでチベットスナギツネ顔棒読みなのでどうにも。

 

慶喜は理想の主君か?

さて、今回の慶喜を見て、理想の君主と思えましたか?

私はかなりがっかりしました。

ポッと出の新人が、勢いばかりで理論不足の口車にうっとりして、長年のパートナーであり、幕末京都のキングメーカーともいえる島津久光に喧嘩を売る――そんな印象。

劇中では久光が陰険でいやらしい描き方ですけど、慶喜は大事なことを忘れています。

久光は将軍継嗣問題で世話になった島津斉彬の弟です。

島津斉彬
幕末薩摩の名君・島津斉彬~西郷らを見い出した開明派50年の生涯とは

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慶喜が恩義を軽く忘れる悪しき傾向は、この先、天狗党などで散々見られることでしょう。

要は、史実の中でも最低と罵倒されるような要素を逆に用いて、凄まじいドラマだと思います。

悲しいかな、慶喜の人格面を褒める言葉は、当時の人物からまず聞こえてきません。

言葉を濁すか。話を逸らすか。罵倒するか。

実は幼少期からそんな評価だったと思われることがあります。

慶喜はやんちゃ……といえばよいのですが、猫を木に縛り付けて手裏剣をぶつける遊びが大好きだったという話があります。かような残酷な性質だったため、奥女中に嫌われてしまいます。

一方で、父・徳川斉昭の前に出ると「いい子」ぶる。そういう二面性があった。

これは父譲りかもしれません。

斉昭はパフォーマンスがうまい。狩猟した獲物を殺傷を嫌う大奥で見せつけ、喝を入れるとかなんとか。

ヴィーガンに焼肉画像を送りつけるような低俗さですが、こういうパフォーマンスを喜ぶ人には刺さりますよね。トランプとその支持者みたいなものです。

ともかく、そういう人間性の持ち主が理想の上司でしょうか?

シミュレーションしてみましょう。あなたの上司がこう言ってきたらどうしますか?

「ワクチンなんだけど、余ったから君とその家族に接種させてやろう。口外するなよ」

どうでしょう?

『なんて親切! 理想の上司だ!』と思われますか?

むしろ『いや、そんなもん順番を待つからいいって。ありがた迷惑なんだよー!』となりませんか?

渋沢栄一は、そうした慶喜を「是」と捉える、つまりは理想の上司としたタイプです。

いくらなんでもひどいことを書いているとは思います。

しかし、前述の通り慶喜は「忘恩」の人物です。利用するだけ利用して、ポイ捨てなんてへっちゃら。

そして栄一って、そんな慶喜と「天狗党の乱」では共犯関係にあたるのです。そのことはこれから先出てきます。

栄一にとってどうして慶喜が理想の君主なのか?

私の推察はこんなところです。

・生存者バイアス

生きるとしつこい栄一。慶喜のせいで死ななかったことは当然あります。

・自己正当化

栄一は生まれのせいで慶喜に仕えたわけではない。自分で選んだ主君です。自分の選択肢を正しいとするためにも、慶喜は名君ということにしなければ困ります。

・箔付け

幕末はなまじ年代が近いだけに、気をつけねばなりません。本人が誇張したり、新聞記者や伝記作家が誇張することもある。そのバイアスを取り除くことから始めないとどうにも危ういのです。

栄一は幕末においてはそこまでパッとしない。明治以降の活躍から逆算して話を盛られています。盛ったサクセスストーリーにするには、慶喜はまさにうってつけです。

・共犯

これは天狗党の時に明らかになることでしょう。

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