青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第14回 感想あらすじレビュー「栄一と運命の主君」

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青天を衝け第14回感想あらすじレビュー
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栄一の「幕府は潰れる!」発言はアリか?

徳川慶喜の前に現れた渋沢栄一は「幕府は潰れる!」というようなことを堂々と発言しておりました。

あれを見て『いいのか、そんなこと言って???』と感じられた方もおられるでしょう。

史実で考えるとどうなのか?

結論から申しますと「アリ」でしょう。

水戸藩の幕府崩壊論はマッチポンプ。今週は清々しいくらいに盛り沢山でした。

円四郎があのべちゃべちゃした江戸弁で「攘夷なんて消えらぁ」と言っていましたが、尊王攘夷を掲げ、日本全国に火種としてばら撒いたのは水戸藩首脳部。

斉昭と東湖のコンビですな。

栄一はそんなMアノン――要するに水戸学シンパですから、デカデカとゴシックフォントで掲げたような幕府崩壊論なんてむしろ大好物でしょう。

そういう水戸学が掲げた発想のせいで、よりにもよって徳川慶喜が苦労している皮肉がそこにある。

原因は、徳川斉昭の逆張りでした。彼の掲げた思想は【御三家である水戸藩に冷たい徳川宗家】へのアンチテーゼなんですね。

廃仏毀釈の原型たる仏教弾圧は、日光東照宮が仏式であることにムカついてのことだし。

「心即理」と掲げた陽明学推しも、幕府が朱子学採用していることへの逆張り意識があるし。

最たる逆張りが、開国論を潰すための攘夷と、将軍に対抗するための尊皇。古代中国由来の概念から引っ張ってきて、ばら撒いたわけです。

だから慶喜からすれば思想的な位置として近いんですね。

とはいえ、慶喜がその徳川宗家を継いだからにはもうどうしようもない。

最終的には、父が巻いた油で子が火傷するような事態に陥る。

しかしです。慶喜の頭脳自体は非常に賢い。

天狗党、幕臣、会津藩、旗本、彰義隊奥羽越列藩同盟……と、大勢の生贄を捧げつつ逃げ切り、自分は駿府でロハスライフをエンジョイします。

その駿府によく遊びにくるバディが栄一でした。

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こういう感想をみても、尊王攘夷という迷信をばら撒いておいてこうなるとは、とんでもねえマッチポンプなんですね。

それに、尊王攘夷を掲げた水戸学は消えません。

皮肉なことに、明治以降むしろ日本人の掲げる精神性となります。

円四郎の「攘夷は消える」というのは嘘。今だってヘイトスピーチバンバン出ているじゃないですか。

もちろん日本に限ったことではありませんが、外国への敵意をあおって意見を通そうとする人は今もいる。

攘夷は消えてない。人の心がくるくる回るだけで。

 

久光は悪い奴なのか?

本作の島津久光の扱いはなんなんでしょう。

前述の通り、彼は慶喜にとっては恩義ある人物です。

それ以前にも、篤姫がその一人であるように、薩摩藩と将軍家は姻戚としての取り込みをはかっていました。

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にもかかわらず、外様だのなんだのと罵倒する慶喜は、人格的に疑問符がありませんか。

慶喜のあばれぶりに弱ったのは、何も久光だけでもありません。

これまた将軍継嗣問題でタッグを組んだ松平春嶽も苦しみます。久光と春嶽が「どうしてこんな奴を将軍に推したんだろう?」と疑念に思ってもおかしくない。

慶喜のくだらない暴言のせいで薩摩を敵に回したことは、まさしく「壊なり!」です。

久光は斉彬シンパの西郷隆盛らがネガティブキャンペーンをしたような状態もあり、とかく悪く描かれます。

『西郷どん』では「国父チャンネル」なんて最低の動画企画があり、現島津当主が苦言を呈したほどでした。

それを挽回することは今年もありませんでした。

慶喜のかませ犬にされるなんて、どうしてこんなひどいことができるのでしょうか?

もっとも本作は、慶喜と栄一以外は全員雑魚かクズみたいな仕立てになっている気がしてなりません。

しかし、久光の実物はかなり聡明です。責任感もある。

長州の「そうせい侯」こと毛利敬親や、水戸の「よかろう様」こと徳川慶篤とは大違いでしょう。

そして重要なのは、そんな久光を蹴落とした結果です。

慶喜は【一会桑政権】と呼ばれるものを形成します。一橋・会津・桑名ですね。

この背景には孝明天皇が会津藩主・松平容保に絶大な信頼を寄せていたこともある。その帝の威を借る狐状態で慶喜は久光を散々馬鹿にし、翻弄した。

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久光はそして誓います。

こうなったら、長州と手を組んで事態を打開すると。

結果、土佐藩の坂本龍馬中岡慎太郎の奔走もあり、薩長同盟は成立するのです。

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当初は倒幕まで目指しておらず、パワーゲーム勝利が目的でした。

しかし、慶喜のオウンゴールめいたやらかしもあり、倒幕へどんどん向かってゆく。

長州をしっかり叩き潰せば幕府は倒れずにすんだ――とは福沢諭吉の見解です。聡明かつ幕臣である福澤の意見ですから、ある程度実態に則していたでしょう。

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この長州征討に前のめりであったのは孝明天皇です。

しかし、薩摩藩のサボタージュもあり不発の終わる。これが幕府崩壊の決定打となったと後世振り返られます。

ドラマでは、やっとこさ遅すぎる責任感に目覚めた慶喜でしたが、彼がやらかすのはオウンゴールの数々です。

そして悪いことに、そのツケを血と涙と命で支払ったのは、彼じゃない。彼を信じていた人たちでした。

 

栄一の友達のことでも考えましょう

ご飯作りに失敗したり、ドジっ子アピールを欠かさない栄一。しかし考えて欲しいことはあります。

彼は水戸学、あの藤田東湖の子である小四郎と「ズッ友だよ!」レターを送るほどの人物です。

小四郎ら天狗党の面々は上洛していました。そのルーツは、なんといっても斉昭が藩主になるよう尽力したこと。父からの子飼いとして慶喜は引き連れて上洛したのです。

小四郎は京都で長州藩士らと交流しました。

ですから、先週「天狗党?」と聞いてキョトンとしていたのはおかしい。アリバイありきの描き方だからそうなったんでしょうね。

栄一と小四郎は交流していてもおかしくない。このことを忘れないでおきたいものです。

今後、天狗党がらみで、慶喜と栄一コンビがきょとんとしていたら、こういうことだと思っていただいてよろしいのでは?

「天狗党ですか。非常にしつこい中においてですね、あのー、しつこいと言ったら非常に..……何回も何回も熱心に言ってこられる中にあってですね..……」

そんな栄一と友達が多い水戸っぽは、幕末でどう見られていたのか?

本作で攘夷攘夷と言い出す栄一に、こんな意見もあります。

「でも幕末ってこうだよね。みんな尊王攘夷を掲げてあばれてたしさ」

それは一世紀後の未来人が、今の我々をこう形容するようなものです。

「当時の日本人って、トランプ大統領が当選したと信じてあばれてたよね」

いやいや、違うでしょ! と言いたくなると思う。福沢諭吉はきっとそうでしょう。

幕末の人々が荒っぽかったことは確かです。しかしその中でも水戸は際立っていました。

清河八郎は水戸学本拠地に期待を込めて足を踏み入れ、こう振り返った。

「なんなんですかね。あの天狗党……三歳児相手に威張り散らして土下座させるし。私が飲んでいる居酒屋にいきなりアポなしで押しかけて、一方的に何かいって帰っていくし。正直失望しました……」

そして新選組には芹沢鴨ら水戸藩士がいました。その芹沢と近藤が接近したところ、他の隊士が慌てた。

「近藤さん、あんなやべー水戸っぽの影響受けたらヤバいすよ。まじであいつらやべえ、パネェっすよ!」

新選組からすらヤバいと思われ、芹沢らは粛清されます。近藤らの手を下した連中もどうかと思うかもしれませんが、水戸っぽは危険だったということでしょう。

「ガンジーが助走つけて殴るレベル」というネットスラングがあります。

「新選組が助走つけて粛清するレベル」というたとえも危険でしょう。それが当時の水戸っぽなんですね。

栄一はそんな水戸っぽとズッ友宣言をしている。

そこまで踏まえると、栄一って顔グラがかっこいい『北斗の拳』のモヒカンかもしれないと思えてきてしまってつらいのです。

先週は土方歳三相手に栄一がちっちゃく見えました。その土方すら「やべえわ」となるのが水戸っぽ。栄一もバーサーカーとしてヤバいことは覚えておいて良いはずです。

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そうそう、佐藤信弥氏『戦乱中国の英雄たち』を読んで色々感銘を受けました。

三国志趙雲殿』くらいはっちゃけて、栄一がオリジナル志士と戦う『青天を衝け』を見たいと思いました。それだけです。そんなしょうもないドラマでも、今ある駄作よりはマシでしょう。

◆【書評】佐藤信弥『戦乱中国の英雄たち』(→link

※著者の関連noteはこちらから!(→link

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文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
青天を衝け/公式サイト

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