『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』/amazonより引用

真田丸感想あらすじ

『真田丸』感想レビュー第29回「異変」 現実世界とリンクする心苦しいリアリティを視聴者も受け入れている!?

こんばんは。
先週の内容に関しては、報道では概ね好評の模様です。

◆【真田丸】新納慎也、元“うたのおにいさん”が豊臣秀次を熱演(→link

◆「真田丸」三谷幸喜氏独自の歴史解釈による「秀次事件」に称賛(→link

SNS等での感想は賛否があったようですが、敢えて一石を投じることをおそれない本作の姿勢はやはり見事だと思います。本作スタッフは、歴史への愛と、通説を覆す勇気の旗をちゃんと掲げていますよ。

さらにこんなニュースが。これは驚きの再現度です!

◆山本耕史「真田丸」田んぼアートに感激!三成激似「思いもせず」(→link

そしてこちら。マップでコラボしたコーエーテクモが、さらなるコラボを実現しました。

なかなかおもしろい試みだと思います。

◆『戦国無双 ~真田丸~』2016年内に発売決定! 描くのは真田幸村、48年間の生涯(→link

さて今週は……。

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新妻・春(吉継娘)の挨拶はちょいとピリピリ

秀次の死後、政治の中心は伏見に移りました。

信繁は大谷吉継の娘・春を正室として迎えます。これで徳川の重臣・本多忠勝、豊臣の重臣・大谷吉継と姻戚になったと喜ぶ真田家の面々。このとき信幸が、母・薫の経歴詐称疑惑について切りだします。ここで昌幸がネタ晴らし。

「菊亭晴季の娘ではなく、菊亭晴季の母に仕えていた侍女だ。武田信玄公にならって公家の娘を妻に迎えたかったんだが、誰も話に乗ってこなくて、唯一引っかかったのが薫」

アッ、ハイ。まあそんなところですよね。田舎大名の家臣、しかも三男の嫁に来る京都の公家娘なんて、そんなわけありですよね。それでもお姫様扱いして綺麗な服を手配する昌幸、なんだ優しいじゃないですか。名門貴族の侍女なら、教養や気品があるのも納得ですね。

「これしゃべったって薫ちゃんにはバラさないでね、バラしたら俺殺されちゃう」と息子たちに釘を刺し怯える、妻には弱い昌幸でした。

その薫は、嫁の春は信繁の前妻・梅(黒木華さん)に似ているそれとなくほのめかします。

「確かにお梅さんに似ていますね」
と口を滑らせたそのことをおこうを止める信幸。
さらにそこで稲が
「私も前妻に似ていますか?」
と嫌味をチクリ。

ここで薫の出自にも話がおよび、春が「菊亭晴季卿は関白失脚に連座して皆大変なはずなのによくぞご無事ですね(秀次の継室が菊亭晴季・娘のため、彼も連座し罪に問われた)」と感想を漏らします。これ以上つつかれたらまずいぞ、と男たちは必死で話をそらそうとします。

新婚の夜、信繁は新妻・春に、先妻である梅のことも忘れられないと正直に話します。春も納得した様子です。

霜月けい真田丸真田信繁

 


就寝中に失禁し、老いを隠せない秀吉の狼狽

そのころ秀吉は、何と就寝中に失禁してしまいました。目撃した石田三成は宿直の信繁に「久々に酒を飲んだためだ」と言い訳。三成と信繁は失禁をごまかすため、信繁が片桐且元の注意をひきつけ、その間に三成が寝具を処理することにしました。信繁に騙されているとは気づかず、胃痛仲間が増えたとちょっと嬉しそうな且元が不憫です。

三成と二人きりになった信繁は、秀吉は最近難度も同じことを繰り返す、怒りを抑制できなくなっていると指摘します。三成は以前からだとはぐらかし、信繁の新妻・春について話をそらすのでした。三成は「春には苦労する」とほのめかしますが、その真相はいかに……?

秀吉は三成を呼び出し、自らの死後の政治体制を相談します。拾(秀頼)元服まで関白は不在とし、三成ら奉行衆に政治を任せたいとの意向です。

真田丸石田三成

寧は、夫・秀吉の好物である「生せんべい」をこしらえ、元気をつけてもらおうと考えています。ちなみに「生せんべい」は現在も愛知県で販売されているそうで。

寧は、秀次の死後、落ち込んでいるきりにも気を遣う懇親っぷり。侍女・わくさ(キリシタン大名小西行長の母・洗礼名マグダレナ)が、きりに用事を頼みたいとのだと言います。わくさはきりに、細川越中守(忠興)妻の玉にあるものを届けて欲しいと頼みました。
このわくさですが、二年前の『軍師官兵衛』ではマグダレナという洗礼名で、石野真子さんが演じていました。あの作品ではロザリオを首にかけ、しょっちゅう秀吉の悪口を言っているという役所でしたが、今作ではどうなるのでしょうか。

 


伏見城の普請現場に昌幸はおらず!?

こうしてわくさの使いをすることになったきりは、伏見城の建設現場に向かいます。

昌幸はおらず、不機嫌そうに普請をこなしているのは信幸。きりは大工の吉蔵から、洗礼名フランシスコから見事な台座のついた十字架を受け取ります。どうやら吉蔵は熱心なキリシタンのようです。

きりはその帰り、薫の元に立ち寄り。【昌幸が仕事をサボタージュしている】という情報をアッサリ話してしまい、不信感を増長させてしまいます。というか、薫の直感は正しく、昌幸は昼間から吉野太夫の元に入り浸っているのでした。昼間から女遊びする殿なんて見たくないぞ、これは俺の惚れた殿ではない、と出浦昌相は不満げです。

きりはその帰り、廊下で春と出会います。春は笑顔で厳しい一撃を放ちます。

「どこに言ってもウザいと言われるきりさんですね!」
なかなか煽ってきます。一応謝るのですが、天然でしょうか。ところがきりは何故か喜びます。
「すごい、私とお梅ちゃんのよいところを兼ね備えている!」

一体どういう評価なんだ!

薫は信幸を呼び出して肩を揉ませながら、詰め寄りいます。

「お父さんのキャバクラ通いのこと知っているんでしょう!」

「もうやめて! 働き通しでもう精神がもたないよ!」

たまらず信幸はその場から逃亡。ストレスのはけ口を元妻・こうに求め、抱き寄せます。しかもその帰り、稲に捕まり「元妻といまだに関係するとはどういうつもり? 馬鹿にしてんの? 言いつけてやる、全部父(=本多忠勝)に言いつけてやるんだから!」と、デレてるのか怒っているのか、わからない迫られ方をされた上、抱きつかれます。ギャルゲーかい! ここでこうデレるんか~い!

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秀吉と家康がご対面 ボケ発言に三成は動揺するのみ

ある日、徳川家康は伏見城に呼び出されます。

家康との面会前、秀吉は寧から生せんべいをすすめられます。しかし秀吉はまずい、こんなもの食べたことないと怒り出したのでした。おおっとこれは、味覚障害でしょうか。

秀吉は家康に、自らの死後の政治について念押しをします。拾の元服まで関白は不在とし、家康を要とした大名による合議制にしたいとのこと。これには横で聞いていた三成が動揺します。ついこの間は、三成ら奉行に任せると言っていたはずです。そして家康にあとを任せるという秀吉の判断が、豊臣の崩壊を招くことになるのです。

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真田丸徳川家康霜月けい

信繁は異変を感じ、舅である大谷吉継に相談します。こんな時に限って、豊臣を支える吉継は不調なのです。顔は苦しげで首には何か浮腫があるのか布を巻いています。その隙間からは皮膚の病変が見えます。

きりは十字架を届けるため、細川忠興の妻・玉(洗礼名ガラシャ・明智光秀の娘)の元に向かいます。キリシタンと賛美歌を歌う玉。きりは秀次からもらった絵をガラシャに見せ、誰が描かれているのか尋ねます。玉は、この絵は聖母マリア像であり、送り主はきりを守るために渡したのだろうと説明します。
おつかいが終わったきりに、寧はキリシタンへの理解を語ります。寧はここでも何かの生地をこね、お菓子作りに精を出しているようです。

 


「なんで殿下は同じことを繰り返すんだ?」

真田屋敷では、薫が昌幸の浮気を追求中。材木調達のため大坂に行ったとかわす昌幸ですが、薫は騙されません。さらに薫は出浦昌相にも詰め寄るのですが、昌相は忍術で脱出してしまいます。

昌幸は信幸が描いた伏見城の設計図を見て怒り出します。

「お前の築城プラン、全然駄目だろ! こんな平城じゃ駄目だ、高台に出城を作れ」

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昌幸はえらそうにダメ出ししますが、ならさっさとやれよと。ここで昌幸の闘志に火が付き、難攻不落最強の城を作ってやると言い出します。やっと本気になったのはいいけど、ちょっと遅いよ!

家康は再度秀吉に呼び出され、前回とまったく同じ、秀吉死後のプランを聞かされます。これを聞いている間、家康や三成は困惑しきり、けれどそれを秀吉に悟られないため絶妙な表情になります。

真田丸豊臣秀吉

真田丸徳川家康霜月けい

「なんで殿下は同じことを繰り返すんだ?」
そう疑問を持ち出す家康相手に、三成と信繁は異変を悟られないようにポーカーフェイスで返します。秀吉の異変は豊臣最大の秘事となったのでした。さらにこの間、吉継の病状はどんどん悪化していきます。ついには手にはしる激痛で筆を握れなくなってしまう吉継。

寧は秀吉のため、今度は秀吉が褒めていたビスケットを作ります。しかし秀吉はバターの臭いを嫌がり、臭いと投げ捨てるのでした。これは完全に味覚障害ですし、ヒロインが心をこめて作ったスイーツを作れば万事解決していた、昨年を完全否定している流れとも言えるでしょう。そうだそうだ、現実はスイーツを食べればおさまるほど甘くはないんだ!

伏見城を完璧な城にすべく張り切る昌幸。久々に生き生きとした父の姿を喜ぶ信繁でした。

その帰り道の廊下で、信幸は弟に重大な告白をします。なんと初めての子ができたものの、妊娠したのはおこうでした。これがばれたら舅に殺されるからと黙っていた信幸。しかしここにきて新事実、なんと稲の懐妊も発覚したのでした。それでも結局おこうが先に妊娠しているのでは、忠勝の心証はよくないのではと思ってしまいましたが、何とかなるのでしょう。

 

捨のために父でありたいのじゃ……って、拾では?

真田父子が伏見城を普請していると、張り替えたばかりの畳をまた張り替えると大工がやってきます。なんとごく小さな段差で転びかけたため、畳みを厚くするとのこと。わずかな段差に転ぶ秀吉に、驚きを隠せない信幸です。

秀吉はまた三成に、死後の政治体制について念を押し始めます。流石に三成がそれを指摘すると秀吉は顔色を変え、三成のみを下がらせ信繁を残します。ストレスのない環境でしばらく休んだら、とアドバイスする信繁ですが、秀吉は自らの衰えぶりにおそれおののきます。ここで「捨」のために頼りがいのある父でありたいと語る秀吉……あれ、捨は亡くなった子で、今生きているのは拾ですよね。うわーっ、この場面、恐ろしい。

三成は寧に秀吉の衰弱ぶりを危惧する言葉を伝えると、寧は「あなたたちが何もかも押しつけているからではないか」と叱責します。三成は寧に医者の診断を伝え、今後ますます悪化する見通しを伝えるのでした。ここで穏やかな寧が急に厳しくなるのがよかったと思います。

三成は茶々と拾の親子にも面会し、茶々になるべく拾と過ごす時間を作って欲しいと頼みます。しかし茶々は、むしろ老いさらばえた姿を拾に見せたくないと拒みます。息子の記憶には、強い父を焼き付けたいのだと。信繁がそんなことを言わずに秀吉の気持ちを考えて欲しいと言うのですが、茶々は秀吉のことを配慮してのこと、とピシャリ。双方の気持ちがわかるぶん、つらいです。

信幸は差し向かいで飲む信繁に、秀吉の様子について尋ねます。信幸は今後天下が乱れたら、徳川重臣の婿として働きたいと語ります。さらに信繁に、お前は豊臣に深入りし過ぎている、真田のために豊臣に近づいたことを忘れてはいないか、と釘を刺します。

そこで信幸はもう一度秀吉の様子を信繁に尋ねますが、信繁は変わりないとはぐらかします。ここは犬伏への伏線ですね。

人々が異変に不安を覚える中、文禄五年(1596)閏七月十三月日未明、マグニチュード8クラスの大地震が伏見を襲います。信幸は稲とおこうの無事を確かめ、信繁は秀吉の様子を見るため出かけます。昌幸は女のことを見に行こうとするのかと止める薫を引き離し、伏見城建設現場へ。

完成間近の天守閣は倒壊、一から作り直しとなったのでした。

 


今週のMVP

老耄演技が恐ろしいほど迫真に迫っていた秀吉。次点で、そんな夫の衰えぶりを見ないようで見ている、寧の複雑な心のあや。

 

総評

本作の特徴として妙なリアリティがあげられると思います。先週までの秀次が追い詰められていく鬱病の心理、そして今週からの秀吉の老衰ぶり。

老衰そのものが悪いわけではありません。人は誰しも老いるものです。問題は、誰もその老いを指摘できないことです。老いて判断力が鈍った組織のトップと、それを指摘できない周囲というのは、大変危険であることは日々ニュースを見ていればわかることです。国民的アイドルグループの価値もわからずパワハラを繰り返す芸能事務所重役。いつまでたっても引退しない会長が人事に口を出す大企業。そうしたゴシップ、企業の御家騒動ニュースと今回の展開を比べると、あまりにリアルで嫌になってくるほどです。

この現実世界とリンクしたリアリティは賛否両論でしょう。

しかし賛否にかかわらず、大河や歴史ドラマとしてはこちらの方が今後のスタンダードになりうる気がします。かつての大河ドラマは、ともかく豪華でスケール感があり、非日常的な世界観を楽しむものでした。私も創生期から見ていないのでえらそうなことは言えないのですが、大河の魅力とはお茶の間にいながらにして、現実のせせこましい世界から遠くはなれる魅力があったのだと思います。それが今は価値観の変化か、そういう非現実的な豪華さが求められなくなってきているのではないか、と思うのです。

これは何も大河だけではなく、私が繰り返し取り上げてきている『ゲーム・オブ・スローンズ』のような海外作品でもそうではないかと思います。

今の歴史ドラマ視聴者は、歴史ドラマを見ながらハッシュタグでツイートし、感想を読みあい、ファンアートを描き、ネタやコラ画像を作り、コスプレを楽しみます。現実のニュースとドラマの展開を比べ、皮肉な要素や普遍の共通性を見いだそうとします。

そういう「今どきの」視聴者に媚びてどうするのか、という意見もあるでしょう。しかし時代はそう変わってしまった。スマホ片手に楽しめて、身近に感じられる物語の方が今の視聴スタイルにあっているのです。

本作は21世紀の大河を作り上げるうえで、極めて健全なアップデートを行っている作品です。それには勇気が不可欠ですが、今週はラストでリアルな地震描写を入れて逃げなかったことで、またも勇気を示しました。本作は歴史への愛と変革への勇気を掲げてもいいんだ、と示す作品です。

物語の描写は見ていて気が滅入るような展開尽くしですが、それでも見たいと思わせるのは、根底に健全極まりない勇気があるからでしょう。

著:武者震之助
絵:霜月けい

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【参考】
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