ドラマ大奥レビュー

ドラマ『大奥』公式サイトより引用

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ大奥感想レビュー第9回 家重の本質を見抜き跡を継がせた吉宗

江戸市中に赤面疱瘡発生――大岡忠相の報告を受け、吉宗は決断を下します。

発症者を養生所に収容し、猿の肝を集める。なんとしても抑制するぞ!と即断即決。

戸惑うのは医師の小川笙船です。

猿の肝を薬にせよと聞かされますが、得体の知れないものを患者に飲ませてよいかどうか……。

逡巡していると、吉宗がキッパリ言い切ります。

「責めは私が負う!」

小川の心理的な負担を軽くするリーダーシップよ。

なんと理想的な姿でしょうか。

功は周囲の力によるもので、罪は己にあり――何かあったら即座に責任を取ることができるからこそ、人の上に立つ力量があるのです。

いざというときに「どうする?」とオロオロしたり、「自分は悪くない、周囲のせいだ」と言い募る者にリーダーの資格などありません。

吉宗は「これは赤面との戦だ!」と決意を固め、不眠不休で挑むのでした。

 


猿の肝が効くのか?

赤面の患者を前にして、治療を始める小川。

実に頼り甲斐のある姿ですし、このドラマは女性のハスキーボイスも魅力です。

冨永愛さんを筆頭に、低く落ち着いた声で語る。

といっても無理をしているわけではなく、自然に語っているように見える。

女性の声には「黄色い声」と侮蔑を含む言い方もあります。信頼しにくいとも言われますが、果たして何がそうさせるのか。

確かに声帯の違いはあります。ただし、それ以上に「かわいい女の声」として、キーの高い、幼い声質が社会から求められているからではないか、と気付かされる作品です。

採薬使は猿の肝を求めて漁師の村へ向かい、屋敷の配置を知る大岡忠相は養生場所の確保をテキパキと指示する。

そうこうするうちに、治療にあたっていた小川は、猿の肝が効いていることに気づきます。

いつもなら死ぬタイミングの赤面患者が生き延びている、というのです。

報告を聞いた吉宗は安堵し、確実に薬の確保をするよう、指令を出します。

そのころ水野進吉は、村で猿の肝を集めていました。

村の猟師たちは、熊の胆みたいに高く買ってくれることを期待しています。

熊胆、あるいはクマノイなどと呼ばれるクマの胆嚢は、東洋医学では伝統的に最高の薬剤とされていて、マタギや猟師はそこから利益を得ていたものです。

猿の肝が第二の熊の肝となれば、猟師も薬種問屋もビジネスチャンス!

そりゃ皆笑顔になりますね。しかし……。

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村人総出で作業をしていると、突然、若い少年が膝をついて倒れます。

首には、赤い出来物……赤面疱瘡の症状でした。

江戸の養生所でも、一時改善していた患者の病状が再び悪化しています。

知らせを聞き、吉宗は苛立ちます。

 


負けは負けじゃ

江戸城へ、進吉が目通りに来ました。

吉宗を待ってる間、画面に映し出された後ろ姿、背筋がピンと伸びていて美しいですねー。

今の日本人は、畳の上で背筋を伸ばして正座する機会はめったにありません。それが、ここまで凛としているとはお見事。

しかし、進吉の報告は非常に厳しいものでした。

自らを手討ちにして欲しいと訴えながら、村で赤面が発生してしまったことを告げにきます。

猿の肝が効いていたのではなく、単に奥地であったから無縁だった――彼はそう悟ったのです。

こうなると、医療体制が整っていないあの村は大打撃を受けるでしょう。酷いことになりました。

吉宗は背を向け「去れ」とだけ言います。自分に厳しく、周囲に寛大。ゆえに今さら彼を手討ちにはできません。

それにしても、適材適所としか言いようがない配役です。

堀田真由さん、仲里依紗さん、冨永愛さんを入れ替えたら、こうもしっくり来なかったでしょう。

それと同じく、福士蒼汰さん、山本耕史さん、中島裕翔さんの役を入れ替えても、ここまでフィットしない。

中島裕翔さんを見ているとハッとさせられることがあります。歌舞伎の「夏祭浪花鑑」のチラシを見た時のことを思い出します。

江戸時代の町人って、格子柄や縞模様のシンプルな着物を着ています。

あっさりしているのに、これがものすごく格好いい。

かつてはおじいちゃんのものとして古臭い象徴だったけれども、今となっては一周回ってむしろカッコいい。見たことのない新鮮な魅力があるんでしょうね。

『鬼滅の刃』は炭治郎はじめ、シンプルで伝統的な柄を着ています。それがものすごく受けている。工夫をすればむしろ斬新で良いものとして受け入れられる。

こんなに地味で、シンプルで、それでいてよく見ると工夫の凝らされた縞模様――中島裕翔さんならできると見抜き、それに本人も応じて着こなす。素晴らしいではありませんか。

かくして赤面疱瘡との戦いは負け戦として終わりました。

加納久通は、患者を一か所に集めたことで以前ほどではないと報告するものの、吉宗は苦い顔で言います。

「負けは負けじゃ……」

吉宗は春日局の懸念を思い出し、久通に尋ねます。この先、何をすべきかと。

「滅びぬ道とやらは、どこにあるのじゃ」

辛くても、前を見据える吉宗。負けてもなお理想的なリーダーシップを見せてきます。

人の上に立つ者は、言い訳より前に、負けを認めねばなりません。

そして負けたことにうろたえず、どうすれば挽回できるか、前を見る。吉宗にはそれができます。

馬上で決意を固める姿は、まさしく名君でしょう。

 


吉宗と進吉が生み出す新しき世

吉宗が、小川と進吉の目通りを許しています。

いったい何事なのか。

小川は骸の検分を願い出ました。

死体を切り刻むとなれば恐れや迷信が出ます。そうした葛藤を乗り越え、医学の進歩と己の矜持のために言い切る覚悟は見事。

進吉は、田嶋屋の蔵にあった古い蘭学書を見せました。

どうやら異国の薬草を記した書物のようで、彼は薬種問屋としてそこまで調べてみたいと提案します。

鎖国を乗り越え、異国に目を向ける――凄まじいことを言い出しました。吉宗編のテーマも見えてきます。

家光と有功。綱吉と右衛門佐。あれは恋愛を軸にして話を進めていきました。

吉宗と祐之進は、君臣関係になった。この男女の場合、知識の交流で新たな世を生み出す、とスケールが大きくなりました。

大岡忠相は納得した顔なのに、加納久通はちょっと悔しそうな目を見せます。

柳沢吉保とは違い、恋愛感情はない。ただ、我こそは上様にとって一番の忠臣でありたいという思いが強いのでしょう。

吉宗は決断します――男子に限り、蘭学を学ぶことを許すと。そして骸の検視も許します。

これが歴史が動く瞬間といえます。

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