茶の裏歴史

茶屋の原型となる「一服一銭」を描いた『七十一番職人歌合』/wikipediaより引用

文化・芸術

茶葉は銭やでバクチやで!清涼で雅ではないドロドロした茶の裏歴史を振り返る

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仏教と茶――日中で広がる文化

『鎌倉殿の13人』から少し時計の針を進めまして、戦国時代が舞台の『麒麟がくる』では、庶民向けの茶の行商人が出てきました。

庶民が気楽に茶を飲む。

そんな習慣が明智光秀の生きていた頃には成立していたことがわかる描写であり、一方で、この作品には茶道も出てきています。

松永久秀筒井順慶らと共に、かしこまった茶席に光秀が参加する場面がありました。

茶は、庶民向けの飲料と、洗練された文化に分かれて発展していったのです。

茶と禅――歴史を辿ると、この組み合わせは納得ができます。

中国では僧侶と道士が、修行のお供として飲むものであり、その効能は、消化を助け、眠気覚ましになり、性欲を抑制するということが挙げられていました。

まさに修行にうってつけで、栄西が茶を勧めた理由もわかります。

東洋における茶の文化は日本と中国において広まり、意外にも韓国ではそうではありません。

韓国の伝統茶は、茶葉を煎じるものではない「茶外茶」が主流です。

柚子のジャムを溶かしたような柚子茶(ユジャチャ)。赤い色が鮮やかなテチュチャ(なつめ茶)。とうもろこしのヒゲで作ったコーン茶などなど、茶葉を用いないが茶とされるもので、他にも様々な種類があります。

なぜ韓国では茶が隆盛しなかったのか?

というと、政治や気候といった要素だけでなく、仏教がそこまで普及しなかったことも要因とされます。

仏教と茶は密接した関係があるのですね。

ただし、発祥の地であるインドでの栽培は、19世紀にイギリス人が始めたとされています。

 


交易と茶――茶はカネになる

仏教と共にあったかと思えば、婆娑羅などの博打やお色気サービスの入口にもされた茶。

『麒麟がくる』に登場した豪商の今井宗久は、商人としての顔を持ち合わせていました。

優雅な手つきで茶を淹れる一方、合戦で使われる鉄砲を売り捌く。

ドラマで目利きを自認していた松永久秀は「自分が認めた茶道具は高く売れるのだ」と自信を持って語っていました。

茶道は日本人の精神的素養という、麗しい名目だけで発展したわけではありません。

カネになったから次々に拡散していった本質は避けて通れない。

例えば、千利休はじめ当時の茶人は堺にいましたし、この巨大な貿易港は大金が渦巻く街でした。

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日本では戦国時代。中国では明代。ときは日中の利益が合致した時代です。

明代にはアメリカ大陸と日本から銀が流れ込み、貨幣として流通するようになりましたが中国の産出量では賄いきれず、明の商人たちは銀産出国の日本に熱い目線を送りました。

明からの品々にプレミアをつけ、高値で売りさばいたのです。

そうした品の中に茶道具も含まれていて、明ではいまひとつ需要がない、難あり茶碗でもとにかく売れた。それだけではなく絵画や書も。

日本の幕府も、明の朝廷も、交易に制限をかけようにも止められず、かくして巨利を求めた多国籍密貿易武相集団【倭寇】が暗躍し始めます。

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茶室にうやうやしく飾られる作品は、金のにおいがしました。

茶碗にせよ、掛け軸にせよ、現在国宝に指定されるほどのものでも同様の扱い。

ステータスシンボルが飾られた空間で飲む茶は、当時のセレブの嗜みであり、かつて博打と化した闘茶(婆娑羅茶)は形を変えて残っていたのです。

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世界の歴史に深く関わる茶

巨利が動き、権力とも結びつく。

だからこそ、錚々たる戦国大名も茶室に足を運ぶ。

そうした行動が目に余ったのか。

千利休は豊臣秀吉によって切腹に追い詰められ、日本の茶道も今ではストイックかつ上品なものとして知られますが、それはあくまで表の顔。

歴史を辿ってゆくと、パリピ気質な武士たちが豪華賞品を賭けて禁止されるわ、不当とも思えるほど高値を付けた茶道具が売買されるわ、生々しい姿が見えてきます。

大河ドラマでもその片鱗を隠さないようになってきました。

これは何も日本だけのことでもありません。

かつてヨーロッパでは、プラントハンターという職業が躍進しました。

世界各地を航海して、金になる植物を持ち帰る、冒険心に満ちた人々のことです。

チャールズ2世の王妃であるキャサリン・オブ・ブラガンザは、祖国ポルトガルから茶を飲む習慣を持ち込みました。

その結果、紅茶に魅了されたイギリスでは、プラントハンターがチャノキを求めて中国大陸へ向かい、当然ながら英国の歴史に深く関わってきます。

例えば、紅茶に加える砂糖は、黒人奴隷の搾取で成り立っていて、ウィリアム・ウィルバーフォースは砂糖ボイコット運動を展開、奴隷廃止につなげてゆきました。

他にも、アメリカ独立戦争の契機となった【ボストン茶会事件】や中国苦難の歴史の契機となった【アヘン戦争】など。

世界史における重大事件の背景にも茶貿易が顔を出す。

そこには綺麗なだけじゃない歴史もある――そんなことを考えながら一杯の茶を嗜むのも、時にはよいかもしれません。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
ソ・ウンミ『緑茶耽美 日・中・韓茶文化の美 (クオン人文・社会シリーズ)』(→amazon
小島毅編『義経から一豊へ: 大河ドラマを海域にひらく』(→amazon
小島毅『義経の東アジア』(→amazon
小島毅『中国の歴史7 中国思想と宗教の奔流』(→amazon
岸本美緒『中国の歴史』(→amazon

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