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【織田信孝】
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賤ヶ岳は利家を調略した秀吉の勝ち
織田信孝はこの時点で美濃を掌握しきれていなかったため、秀吉と正面から対決することができず、後手後手に回ります。
柴田勝家だけでも味方にせねばならない――ということで、未亡人だったお市の方を鬼柴田へ再婚させたのは信孝の口利きだったともされますが、秀吉方となる武将はさらに増えていきます。
特に、斎藤利堯はこの直前まで「信孝の家老」という立ち位置だったため、事の深刻さがよくわかります。
そして翌天正十一年(1583年)、ついに柴田勝家と秀吉の間で【賤ヶ岳の戦い】が勃発。詳細は以下の記事に譲りますが、
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賤ヶ岳の戦いで秀吉と勝家が正面から激突! 勝敗を決めたのは利家の裏切りか
続きを見る
信孝と柴田はうまく連携できず、前田利家の裏切りもあって柴田勝家は敗れてしまいます。

豊臣秀吉/wikipediaより引用
この前田利家を取り込む秀吉の手腕が恐ろしいばかりで、たとえ勝家や信孝でなくとも勝利するのは難しい相手だったでしょう。
程なくして勝家自害の報が届き、誰も頼れる者がいなくなったところで、信孝は、自身の城を囲んでいた信雄、そして秀吉に降伏することになります。
そして野間大坊(現・愛知県知多郡)で自害することになりました。
このとき実に凄まじい最期が伝わっています。
「報いを待てや 羽柴筑前」
野間大坊は、かつて源頼朝の父である源義朝が、家臣のツテを頼って身を寄せたところ、裏切られて殺されたと言われている場所です。
もちろん信孝も知っていました。

野間大坊の境内にある源義朝の墓/wikipediaより引用
そこで信孝は、もうこれ以上なす術がないと悟り、命令に従って命を絶つことになります。
凄まじい最期が伝わるのはこの後です。
信孝はまず腹を十字に切り裂き、内蔵を取り出した上で、こんな辞世を詠んだというのです。
「昔より 主を討つ身の 野間なれば 報いを待てや 羽柴筑前」
【意訳】源義朝が部下に襲われて命を落としたようにここは主君が死ぬ場所。次はお前がそうなるのを待っているんだぞ、秀吉
腹を切った上に、秀吉に対して、こんな恨みの歌を残したと言われているのです。
まぁ、状況からして頷けるものがありますが、これはさすがに後世の創作の可能性が高いでしょう。
いくら織田家に文学的な意味での才人があまりいないとはいえ、明らかに粗雑過ぎる歌ですし、この歌とセットになって語られる「内臓をつかみ出して掛け軸に投げつけた」というのも無理がありすぎます。
切腹は、そんなに簡単なものでもないのは、以下の記事で歴女医のまり先生もご指摘されています。
掛け軸と自害時の短刀が非公開になっているのが、事をミステリアスにしているんですね。
お墓は安養院という別のお寺にある
もしも本当に織田信孝の辞世なら、曖昧な言い伝えではなく、自筆でどこかに書き付けるか、家臣が書き留めているでしょう。
そういう痕跡が全くなく、しかも庶民でもわかりやすそうな歌であるということは、創作の可能性であるほうが高い。
後世の人が信孝を哀れみ、その気持ちを酌んでこういった言い伝えを作ったのだとすれば、多少は慰めになったかもしれません。
まぁ、歌がホントかどうかはともかく、死んでも死にきれない恨みを秀吉に対して抱いていたのは確かでしょう。
野間大坊には義朝の供養として木刀をお供えする人が多いそうですが、信孝についてはあまり注目されていないようで。

野間大坊にある織田信孝の墓/wikipediaより引用
できればご一緒に手を合わせて欲しい……そんな信長三男・織田信孝の辛い最期でした。
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長月 七紀・記
【参考】
国史大辞典
太田 牛一・中川 太古『現代語訳 信長公記 (新人物文庫)』(→amazon)
日本史史料研究会編『信長研究の最前線 (歴史新書y 49)』(→amazon)
谷口克広『織田信長合戦全録―桶狭間から本能寺まで (中公新書)』(→amazon)
谷口克広『信長と消えた家臣たち』(→amazon)
谷口克広『織田信長家臣人名辞典』(→amazon)
織田信孝/wikipedia