戦国諸家 信長公記

尾張守護・斯波義統の暗殺|信長公記第15話

2019/03/05

今回は、清州城にいた尾張守護・斯波氏と、守護代・織田大和守家(清洲衆)の話です。

信長の出番は多くありません。

しかし、清洲衆と戦う理由というか前提条件みたいなものが記されていて、地味に重要な部分ですし、知っておくと楽しくなるパートでもあります。

まずは当時の尾張がどんな状況だったか?

背景から確認して参りましょう。

📚 『信長公記』連載まとめ

 

守護の斯波氏は織田信友に庇護されていた

当時の守護・斯波義統(よしむね)一家は、ほぼ実権を失っていて、織田大和守家の当主・織田信友に庇護されているような状態でした。

斯波氏は本来、守護です。

つまりは大和守家どころか、織田氏全体よりもエライ。

義統としては当然、勢力を取り戻したい。

そこで、織田弾正忠家(信秀や信長の家系)などを積極的に支援し、名実ともに守護らしい状態に戻ろうとしておりました。

これが大和守家・信友にとっては気に入りません。

神輿は担いでナンボですからね。勝手に動き出したらウザいだけです。

当初は、信長が若き頃は”うつけ”という評判だったこともあり、清洲城内のまだ平和が保たれておりました。

イラスト・富永商太

しかし、です。

信長が家督を継いでから、目まぐるしく状況は変わっていきます。

「美濃の蝮」こと道三に認められたり、前回お話した【村木砦の戦い】で今川軍を降伏させたり。

”うつけ”どころか非凡な才能を証明しつつあり、いよいよ清洲にもその情報が伝わっていきます。

斯波義統としては「ワシを舐めくさる信友より、若い信長の才能と性根に賭けてみるほうがいいのではないか?」と勝負をしてみたくなるのは自然な流れでした。

 


互いの秘密がバレた! さぁどうする!

一方、織田信友はどうか?

信友から見た織田信長は格下です。

それが増長することは許せませんが、義統が守護として返り咲くことも気に入りません。

そこでひっそり義統を始末してしまおう!と考えたのですが、この計画が義統本人にバレてしまいます。

時間の猶予がないことを悟った義統は、信長にこのことを密かに伝え、助けを求めました。

と、そこで大変なことに、

・暗殺計画が筒抜けになっていたこと

・義統が信長に助けを求めたこと

その両方を織田信友に察知されてしまいます。

なんだかややこしいところですが「お互いの計画が互いにバレたので、スピード勝負になった」ということですね。

まぁ、同じ城内に住んでいて、こんな物騒な話をこっそり進めようというのが無茶な話でしょう。

先に動いたのは、信友方でした。

 

「守護がほぼ無防備な状態で家にいる」

天文二十三年(1554年)7月12日。

この日、義統の息子である岩龍丸(がんりゅうまる)が、若い侍たちを連れて川漁へ行っていました。

真夏ですから、川涼みも兼ねていたんでしょうね。

父の義統と年配の侍たちは水難の危険を避けるためか、守護邸に残っていました。

これが身の危険を招きます。

「守護がほぼ無防備な状態で家にいる」

そのことを察知した信友の家老・坂井大膳や織田三位が、守護の屋敷を兵に包囲させたのです。

前述のような状況ですから、信友方からすれば守護を討ち取る絶好のチャンス。

信友方はあっという間に守護邸になだれ込みました。

 

難を逃れた岩龍丸は那古屋城へ

守護側の者も何人かは善戦したようです。

が、家の四方の屋根から弓矢を射掛けられて万事休す。

義統はもちろんのこと、一門・家臣数十人が亡くなったといいます。

侍女たちの中には、堀に飛び込んで助かった者もいれば、溺死者もいたそうで……。

おそらくは着の身着のままで飛び込んだでしょうから、着衣泳状態となり、助からないのも無理はない話です。

知らせは、外出中の岩龍丸のもとにも届き、彼は清洲に戻らず、そのまま那古屋城の信長の元へ身を寄せました。

信長からすると、これで信友を討つ大義名分ができたことになりますので、願ったり叶ったりというところ。

状況からして、信長が謀略を巡らせたわけでもなさそうです。

著者の太田牛一はこう述べています。

「斯波氏の屋敷で仕えていた人々は義憤にかられていたが、衣食住の全てをほとんど失ったため、一度落ち着かざるを得なかった」

信長公記では、その後「信長の家臣・毛利十郎が岩龍丸の弟を救い出してきた」とあります。

この「落ち着かざるを得なかった人々」のうち何人かの家臣が、このタイミングで一緒に那古屋城へ来たと思われます。

次回はこの騒動の後日談といえる【清洲衆との戦い】です。

・左の赤い拠点が信友の清州城
・右の黄色い拠点が信長の那古屋城

📚 『信長公記』連載まとめ

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長月七紀

2013年から歴史ライターとして活動中。 好きな時代は平安~江戸。 「とりあえずざっくりから始めよう」がモットーのゆるライターです。 武将ジャパンでは『その日、歴史が動いた』『日本史オモシロ参考書』『信長公記』などを担当。 最近は「地味な歴史人ほど現代人の参考になるのでは?」と思いながらネタを発掘しています。

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