白石由竹

ゴールデンカムイ27巻/amazonより引用

ゴールデンカムイ

『ゴールデンカムイ』白石由竹を徹底考察!お調子者の脱獄王が皆に愛される理由

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よくも悪くも、明治生まれらしい男

2024年4月、明治生まれだった最後の男性が亡くなりました。

白鳥由栄と同年代の男性ですね。

白石由竹はモデルより上の年代であり、よくも悪くも、彼もまた明治らしさを体現した人物でした。

金塊探しが終わったあと、白石はとある大胆な行動をとります。

杉元とアシㇼパの前からそっと姿を消した3年後、二人のもとに手紙が届く。

と、そこには白石の顔が刻まれた金貨が同封されているのでした。

連載時はどこかの国家の「王様」となり、単行本では微修正され、「無人島で移民を募り王様となった」とされています。

なぜ修正されたのか?

実在する南洋のどこかで王様となるとすれば“侵略”ということになってしまう。それを避けるため、移民を募り新国家建国まで果たした設定とされたのでしょう。

この白石の夢は、刺青人皮囚人の一人である海賊房太郎の構想を引き継いだものともいえます。

孤児となった房太郎は、王国を築き上げ、その王となる夢があったのです。

この構想は、明治生まれなら抱いてもおかしくない夢といえます。

明治という国家は、西洋列強の夢をトレースしているともいえる。

当時の西洋列強は、アフリカ大陸や南洋に進出し、そこを植民地化して巨利を得ていた。出遅れた日本も、そんな夢の後追いをしたい。

こんな壮大な夢が庶民にまで刷り込まれていったのです。

その担い手はエンタメでした。『ゴールデンカムイ』では、当時の少年少女雑誌から杉元が知識を得ていると思われる箇所があります。

下はこうした雑誌から、上は毒々しい小説まで。

白石はこうした当時の通俗小説を愛読していたのか。下劣で軽薄な話を振ってきます。

周囲からそれをしばしば嗜められておりますが、当時のチンピラとしてはごく当たり前、極悪非道ともいえぬ人物像だといえます。

舞姫ボコボコ!明治時代の小説はかなりヤヴァ~イというお話を7千字ぐらいかけて紹介する記事

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白石はユニークで愛すべき個性があります。

けれども、明治時代のアルバムを見たり、逸話を聞いていると、彼に似たチンピラ兄ちゃんの話がチラリと顔を覗かせます。

なまじチンピラだけに、まっとうな文学作品やらドラマには出てきません。

学校で習う明治時代の文学であれば夏目漱石が定番。その小説に出てくる人物は、博打で大負けして強盗をしたりはしません。

恋愛関係にせよ、謎めいた女性に胸を熱くしたと思ったら、いつの間にか終わっているような淡いものであり、遊郭のどんちゃん騒ぎを教科書に掲載するわけもありません。

夏目漱石以上の人気を博していた押川春浪の小説は、そこまでどぎつい内容でなくとも、教科書には掲載されません。押川の作品を読んでもさして教訓は得られませんので。

白石のような人間は明治時代わりといた。

しかし、教育的によいわけでもない。語り残す意義もない。ゆえに消えていく。そして忘れられた。

そんな消えたワルい明治人を誇張し、おもしろく味付けしたら、とてつもなく魅力ある人物像ができた。

白石とはそういうキャラクターに思えます。

これぞ近代の日本人だ。噛めば噛むほどそんな味の出る人物です。

『ゴールデンカムイ』読者のご先祖様とその交友関係を辿っていけば、白石に似た男は一人や二人いることでしょう。

そんな愛すべき小悪党が白石由竹という男です。

 

実写版で極められた白石の個性

白石由竹は、実写版映画でひとつの到達点に達したと思えます。

私にとって実写版で一番おそろしいと思えたのが、この白石でした。

なんせ白石は、他のキャラクターとは異なり、一見すると平凡な男です。

それが北海道で冬の川に浸かり、ドタバタを繰り広げ、なんだかんだで死ぬこともなく存在している。

どうして白石は死なないのだろう?

そう唖然としたものでした。

そんな白石を実写で演じるとすれば、往年の名優である田中邦衛さんや川谷拓三さんが適役ではないか?と、私は漠然と思っておりました。

美男でもなく、目立つわけでもない。

けれども抜群の存在感と演技力で画面を引き締める。他にはない個性が彼らにはあったのです。

いわば非常に難しい役どころ――それを演じた矢本悠馬さんは、往年の俳優を彷彿とさせてくれました。

殺伐とした空気を引っ掻きまわし、コメディタッチでありながら卓越した身体能力も垣間見せる。

これぞまさしく白石ではないか!

実写版をみて、私の中で白石は腑に落ちたと言えます。

ああいう脇役がいてこそ、物語は引き締まる。白石は、偉大なる凡庸の存在を再認識させてくれたのです。

教科書には載らないけれども、家庭のアルバムに顔を出している。そんな人物がいてこそ歴史なり物語は成立する。

場を和ませ、笑わせ、力を与えてくれる。

そんな小悪党を主人公チームに入れる『ゴールデンカムイ』はやはり魅力的な作品です。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

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野田サトル『ゴールデンカムイ27巻』(→amazon

【参考文献】
斎藤充功『日本の脱獄王』(→amazon
山下泰平『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』(→amazon

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