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【幕末の海外事情】
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江戸時代のナポレオン、静かなブーム
とはいえ、当時の知識人が気になって仕方なかったのは、フランス革命よりも、そのあとに台頭したナポレオンでした。
彗星の如く現れながら悲運の退場をした彼は、存命当時からロマンの象徴でもありました。
敵国イギリスの詩人たちですら、うっとりと彼を讃えていたほどです。
詩人や芸術家を魅了した英雄の生涯は、日本人の心にも響いていました。
頼山陽は漢詩を作り、佐久間象山や吉田松陰も憧れていたのです。
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幕末、来日したフランス人に対して、開化派の知識人はこう思ったことでしょう。
「おっ、フランスっていうとナポレオンの国だなあ。えっ、今の王様もナポレオンなの!?」
イギリスが薩摩藩に接近したのに対し、フランスは幕府に接近しました。
徳川慶喜は、ナポレオン3世から贈られた軍服を好んで着用しております。
そこには、英雄崇拝の気持ちもあったのかもしれませんね。
フランス熱がクールダウンするのは、1870年(明治2年)普仏戦争でフランスがプロイセン相手に歴史的大敗を喫してからのことです。
幕末に来日していたブリュネも、「あのナポレオンの国の人だ!」と思われていたんでしょうね。
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異国船をどうすればよいのか?
時代が下ると、フランス革命よりさらに危険極まりない情報がもたらされました。
【阿片戦争】です。
大事件として認識されていたイギリス艦・フェートン号だけではなく、19世紀以降は日本各地で捕鯨船が漂着・出現していました。
幕府は「異国の船を見かけたらすぐ追い払おう!」という文政8年(1825年)『異国船打払令』を発令していましたが、これにも問題がありまして。
天保8年(1837年)、アメリカ商船・モリソン号が日本にやって来ました。
目的は、攻撃ではなく日本人漂流者を帰すことでした。
ところが打ち払われ、失敗に終わります。せっかく親切に自国民を帰しに来たのに、酷いですよね。
当時もそう感じる人がいました。
結果、幕府の異国船への対応を批判した渡辺崋山、高野長英らが処罰を受けることになるのです(【蛮社の獄】)。
それでは結局どうすればいいのだろう、と幕府は頭を痛めます。
とりあえず限定策として
「一方的に追い払うのではなくて、水や燃料は与えましょう」
という命令(薪水給与令・しんすいきゅうよれい)を出したりして、撤回して、また出したりして。
「イギリス船が来たら、今後どうなってしまうんだろう……」
右往左往しながらも一応進めた幕府の対応策は、決して無能ではありませんでした。
通詞に英語を学ばせ、各藩に沿岸警備をさせて、知識を仕入れていたのです。
水野忠邦の後任者である阿部正弘は、それこそ徹底的に、阿片戦争関連の知識や海外情報を分析。
出た結論は「絶対に、異国船を打ち払うことは、できない……」でした。
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このときの幕府や阿部の気持ちは『進撃の巨人』初期における、主人公たちの気持ちに近いものがあるかもしれません。
海の彼方から迫る巨人相手には、小手先の手段では勝てるわけがない――。
それでは、どうやってこの国を強くし、乗り切るのか?
嘉永6年(1853年)のペリー来航によって、日本はこの問いをつきつけられることになります。
260年間、日本も幕府も、眠っていたわけではありません。
来たるべきその日のために、対策を考えていたのです。
幕府は無能と言われますが、幕府閣僚や開明的な藩主、そして知識人たちがいなければ、日本の情勢はもっと厳しい事態に直面していたことでしょう。
それは岩瀬忠震とハリスの、日米修好通商条約における交渉で花開いたと言えるかもしれません。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
岩下哲典『江戸の海外情報ネットワーク (歴史文化ライブラリー)』(→amazon)
岩下哲典『江戸のナポレオン伝説―西洋英雄伝はどう読まれたか (中公新書)』(→amazon)
岩田みゆき『黒船がやってきた―幕末の情報ネットワーク (歴史文化ライブラリー)』(→amazon)