べらぼう風間俊介鶴屋喜右衛門

地本問屋の様子/国立国会図書館蔵

江戸時代 べらぼう

『べらぼう』風間俊介が演じる鶴屋喜右衛門~なぜあれほど蔦重を目の敵にする?

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浮世絵=江戸絵だった

江戸が上方に先行した文化とは?

【浮世絵】です。

上方で絵といえば【肉筆画】、つまり筆で描いたものとされ、彼らが【江戸絵】と呼んだ浮世絵の数々は版画印刷によるものであり、受け入れ難いものでした。

それが寛政年間あたりから、ようやく上方でも浮世絵が出版されるようになってゆきます。

日本史上、これは画期的なことでした。

歌舞伎落語では、関東と関西では芸風が異なるとされます。

これは浮世絵にもあてはまり、役者絵でも江戸っ子は美化されていてともかく見栄えがよいものを買い漁ります。

一方で上方の場合、冷徹かつどこか捻った作画が特徴とされます。

東西間の交流がなされるようになると、役者が絵師を伴い、舞台へ向かうことも出てきたとか。

日本各地に浮世絵美術館はあります。しかし【上方絵】となると大阪府の「上方浮世絵館」のみとなり、文化の東西逆転現象は実に興味深いものです。

大坂の浮世絵師・流光斎如圭による『競伊勢物語』/wikipediaより引用

こうした関東優勢は、実は食文化においても発揮されています。

日本は京都の朝廷でも、江戸の将軍の食卓でも「贅を尽くした料理が発展しなかった」という歴史的経緯がありました。

現在、日本料理を代表する、

・天ぷら
・寿司
・蕎麦
・鰻重

といった食べ物はいずれも江戸の屋台、ファストフードが由来とされています。

酢飯と具材を組み合わせた食べ方は日本各地にありますが、現在における「寿司」といえば「江戸前寿司」となりますね。

 


蔦屋重三郎とぶつかり合う優等生か?

『べらぼう』の登場人物をみていくと、主人公とぶつかりあう商人が大勢出てきます。

これは蔦屋重三郎の人間性に問題があったわけではありません。

性格に癖があって対立するのは曲亭馬琴のような人物であり、

曲亭馬琴(滝沢馬琴)/国立国会図書館蔵

蔦屋重三郎はむしろ人間的には魅力があった。

ドラマでも好人物として描かれているのは史実通り。

そんな蔦重が睨まれるのは“新参者”であることが大きい。

鶴屋にせよ、鱗形屋にせよ、西村屋にせよ、突如あらわれた別業種の人物がメキメキと頭角を表したら、それは警戒するということでしょう。

いわば、出る杭は打たれる、です。

それだけでなく、娯楽作品のセオリーやお約束も、フィクションならばあてはめることはできます。

鶴屋の場合、広範囲のジャンルを手がける代表的な版元であり、独特なキャラクターは確立しておりません。

何か派手な出来事をやらかしたわけでもない。

いわば堅実なタイプ。

地本問屋の様子/国立国会図書館蔵

劇中で鶴屋を演じる風間俊介さんのコメントを見ても、どういうキャラクターなのかは掴みにくい。

前述の通り、何代目の鶴屋か特定も難しいため、役者の年齢で推察することになります。蔦屋よりも上、兄貴分といったところでしょうか。

こうなってくると、

上方=鶴屋

江戸=蔦屋

という文化の違いを擬人化したような人物造型にするのではないか。

そう思いながら見ていると、やはり鶴屋は蔦屋と対立することになりました。

生真面目で優等生のような鶴屋と、型破りな蔦屋という立ち位置ですね。

伝統と格式を守ろうとする上方に対し、型破りでパワー溢れる江戸と申しましょうか。

劇中では最低最悪の顔合わせであった両者ですが、これから先は両者がバカンスをともにすることがあっても不思議はありません。そう記録に残されているとか。気になりますね。

演じるのが風間俊介さんというのも、注目したいところです。

大河出演経験もあり、製作者から信頼があつく、知性溢れる佇まいが魅力的。

どこかやんちゃな蔦屋をたしなめる立場での姿が今後も見られるのではないかと期待しています。

わかりにくいからこそ、自由に描くことができる『べらぼう』にはそんな強みがあります。

森下佳子さんはじめ、スタッフがいきいきと描く、江戸文化の隆盛が今後どうなるのか。

上方からきた鶴屋はどんな顔をするのか。

今後の活躍をさらに期待したいところです。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
小林忠/大久保純一『浮世絵の鑑賞基礎知識』(→amazon
安藤優一郎『蔦屋重三郎と田沼時代の謎』(→amazon
松木寛『蔦屋重三郎』(→amazon

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