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【日本の狩猟文化】
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家康だけでなく信長にも愛された鷹狩
日本史の「狩り」といえば、ちょいちょい出てくるのが鷹狩り。
武家のやるものというイメージがありますが、実は古代の皇室でも行われていました。
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やはり仏教の浸透によって「遊びで殺生をするのはいかん」ということになり、皇室では廃れたようです。
公家の間では続けられていましたが、やがて武家の時代になると「鷹狩りを定期的にやることは、武術の訓練にもなる」とみなされました。
最も有名なのが徳川家康でしょうか。
ほかにも織田信長の生涯を記録した『信長公記』でも鷹狩の記述はたびたび登場します(同じぐらい相撲大会も登場)。
奥州から鷹を取り寄せ、家臣たちに配ったなんて話もあるほどです。
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蛇足ながら、幕末~明治維新期で有名なのが西郷隆盛でしょうか。
鷹狩ではありませんが、太り過ぎた隆盛に対し、運動不足の解消として医師が狩猟を進めた――という話もあります。
当時は東京都内でも十分に狩りができたんですね。
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さらに明治時代になって武家が表舞台から去った後は、明治天皇の以降で一時鷹匠の育成が試みられたものの、残念ながら根付きませんでした。
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しかし、その技術は民間の鷹匠に伝えられ、今に至っています。
また、同じ頃に東北のマタギに鷹狩の技術が伝えられたともいわれています。
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おそらく東北の大名たちのお抱え鷹匠の技術と、皇室を通して伝わった技術と、両方の系統があるのでしょうね。
最後にもう一つ、特徴的な狩りとしてアイヌの儀式に注目です。
アイヌに伝わる「イオマンテ」
アイヌには、「イオマンテ」という、熊を特殊なやり方で狩る方法がありますね。
「イヨマンテ」あるいは「熊祭り」と表記されることも。
通常の狩りであれば、獲物を仕留めてすぐさばいてしまいますが、イオマンテの場合は違います。
まだ春になりきらないうちに、冬眠中のヒグマを探し、冬ごもりの間に生まれた子熊を連れて帰って、人間と同じように育てるのです。
最初は人間の子供と同様に、同じ家で過ごすのだとか。ヒグマに関する諸々の事件を知っていると、とても信じがたい話ですよね。
大きくなってからは、さすがに専用の小屋に移します。
そうして一年から数年育てた後、村を上げて盛大な儀式を行い、ヒグマを〆てその肉や毛皮をいただくのです。
これは「カムイ(精霊)がヒグマの姿を借りてやってきてくれたので、しばらくもてなした後、見送りの宴をする」とみなされているのだとか。
そして、ヒグマの肉や毛皮はもてなしの礼に「置いていってくれる」ものなのだそうです。
「一度地上でもてなされたカムイは、再びヒグマの姿で地上にやってきてくれる」
「天に帰ったカムイは他のカムイにも地上の良さを伝え、多くのカムイが肉と毛皮をまとってやってくる」
アイヌの人々はこうした認識でカムイをもてなし、毛皮や肉をありがたくいただくことで、村はどんどん豊かになれる……と信じられていました。
こう言うのも何ですが「飼い慣らした動物を数年経ってから〆る」というあたりは、狩りというより畜産に近いかもしれませんね。
縄文時代には、本州でも猪を使って似たような祭祀が行われていたそうです。
アイヌの人々も当初は本州から猪を連れて行って、イオマンテの元になるものをやっていたのだとか。
北海道の大型動物といえばエゾシカもいますが、エゾシカはアイヌにとって日常食だったため、こうした儀式の対象とされなかったようです。
北海道から南の狩りとアイヌの狩りではだいぶ異なる性格を持ちますが「ずっと食料を得られますように」という願いは同じように思えます。
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長月 七紀・記
【参考】
瀬川拓郎『アイヌ学入門 (講談社現代新書)』(→amazon)
国史大辞典
天武天皇/wikipedia
イオマンテ/wikipedia