「平治物語絵巻」の『八葉車』/wikipediaより引用

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喧嘩上等な貴公子もわんさかいた? 軟弱だけじゃない平安貴族の暴力事情とは

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平安貴族は軟弱どころか喧嘩上等!
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なぜ平安貴族は暴力的なのか?

坂東武者よりはマシだけど、なかなかの暴れん坊だった平安京の貴族たち。

宮中では頭をむき出しにして殴り合うわ。

花山法皇の娘がおびき出されたうえで殺され、屍を路上に放置されて犬に食われるわ。

穢れを嫌うという発想はあるものの、命そのものに対してはあまり深く考えていない様子が浮かんできます。

身分を重視するということは、低い身分の命や尊厳は重視しないこととも裏返しだと言えます。ドラマで道兼は、身分が低い連中は「虫ケラ」だと吐き捨てていました。あれは彼一人だけのものではなく、当時の悪しき社会通念です。

律令制も真面目に守りませんし、警察であるはずの検非違使の権限も限定的でした。

こうした状況を見ると、法治の重要性を知り【御成敗式目】を制定した北条泰時がいかに先見性があったか。

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平安貴族のように行き当たりばったり、曖昧な理念で政治運営を続けていると、遅かれ早かれ破綻は避けられません。

彼らが愛読した詩に白居易の『長恨歌』があります。

それを平安貴族たちはロマンチックな悲恋として受け止めていたのか?

それとも歌の中に潜んでいる政治批判も読み取っていたのか?

後白河法皇の寵愛する丹後局は「あの楊貴妃め」と苦々しい目で見られましたが、【安史の乱】から読み解ける教訓は、寵愛する女の思うままに帝王が操られることだけではないはず。

安禄山という「武力を有する者に権限を与えたこと」が最大の危険性でした。

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武装した集団が叛意を抱いたら、防衛力が低い京都はどうにもなりません。

いくら都に貴族や武士がいたって坂東武者の凶暴性には遠く及ばない。

京都の貴族は、曖昧なルールで暴力を抑制していたように思えますが、源義経という凶悪ハズレ値を持つ武士は、安徳天皇がおわす船だろうと平然と攻撃を仕掛けます。

義経は兄である源頼朝によって討ち取られたものの、武士の凶暴性は一歩進んでしまったのかもしれません。

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自らが武勇を誇り、自信満々であった御鳥羽上皇。

彼は武士を甘く見ていたのか、鎌倉にいる北条義時の成敗に挑みますが、逆に坂東武者が蜂起して【承久の乱】が勃発しました。

坂東武者が京都へ雪崩れ込み、牛車すら入れない御所から後鳥羽院たちを荒々しく連れ出すことで「武者の世」は到来してしまうのです。

『鎌倉殿の13人』はそうした過程を描いたドラマでした。

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その予兆は『光る君へ』の時代に現れていたことが、源頼光と源頼信の会話からもわかります。

頼光は弟の計画について、実行できるかどうか、その後のことは確実なのかどうか、そんな実利的な面から説得して、計画を取り止めました。

「そもそも殺人はダメだろ?」(暴力忌避)

とか

「道隆様は偉い方じゃないか、畏れ多い」(礼儀)

とか

「道隆様は道兼様の兄上だぞ。道兼様がお悲しみになられるかもしれないだろ?」(慈愛)

などの話は語っていません。

要するに、倫理と法治意識がないのは、貴族だろうが武士だろうが同じ――中世とはそんな時代と言えるのでしょう。

 


中世は暴虐の時代というトレンド

2010年代の歴史劇は、世界規模で見ても大きく前進しました。

2011年には、認知心理学者スティーブン・ピンカーによる『暴力の人類史』が、賛否両論ながらに大ヒットを巻き起こし、センセーショナルなものとして受け止められています。

この本では、過去の人類がどれほど暴力的であったか?ということが記されています。

そして同年、アメリカHBO制作『ゲーム・オブ・スローンズ』が放映開始され、世界的に大ヒット!

薔薇戦争】の頃の中世ヨーロッパをモチーフとした世界観は、あまりの暴力性により、視聴者を驚嘆させました。

中世以前の人類に抱かれていたロマンチックなイメージすら吹き飛ばしたのです。

西洋で騎士道物語は甘ったるいものとして語られてきました。

アーサー王伝説に登場するキャメロットは、気高い騎士道精神がある理想郷として語られてきたものです。

そうした理想を粉々に踏み潰し、中世とは暴力上等!な世界だったな……と、人びとは思い知りました。しかも『ゲーム・オブ・スローンズ』は長く、放映期間がほぼ10年にわたりました。

そのため見る側の意識変革は一過性のものではなく、確固たるものとなりました。もう後戻りはできないのです。

日本でも、中世を美化する傾向はありました。

平安貴族は何かと誤解されます。

源氏物語』や『枕草子』を読み、堕落して恋愛ばかりにうつつを抜かしていた。その結果、武士にやられて当然だろ?という見方も依然として根強いものです。

しかし、2010年代以降の歴史学や歴史劇の流れを意識して作られた『鎌倉殿の13人』では、壮絶な鎌倉幕府の成立史が描かれました。

こうした世界的な流れや『鎌倉殿の13人』を踏まえるならば、『光る君へ』が甘くロマンチックなものになるワケがありません。

藤原道兼による殺人は、確かに時代考証的には無理があります。

それでも視聴者を殴りつけるようにしてあの場面が盛り込まれたのは、歴史学と歴史劇トレンド双方からの洗礼なのでしょう。

大河ドラマとして新たなことに挑戦している本作――その覚悟を見守りたいと思います。


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文:小檜山青
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【参考文献】
繁田信一『殴り合う貴族たち』(→amazon
繁田信一『王朝貴族の悪だくみ』(→amazon
山本淳子『古典モノ語り』(→amazon
京樂真帆子『牛車で行こう! 平安貴族と乗り物文化』(→amazon
橋本義彦『平安貴族』(→amazon
倉本一宏『敗者たちの平安王朝 皇位継承の闇』(→amazon
スティーブン・ピンカー『暴力の人類史』上下(→amazon

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