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【三浦胤義】
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馬鹿な弟・胤義と話しても無駄だ
迎え撃つか? それとも攻め込むか?
鎌倉幕府軍は進撃を選びました。
長距離を行軍すればするほど、軍勢は弱くなりますが、それでも幕府軍は京都へ向かったのです。
迎え撃つのは三浦胤義でした。
美濃国、続けて宇治川で幕府軍と対峙し、呆気なく敗北を続け、攻め手の北条泰時は、投降してくる相手に憤激していました。
「弓矢を取る武士ならば、京都についたら京都、鎌倉についたら鎌倉のために奮戦すべきだろう! それをノコノコ降参してくるとはゆるせん!」
投降してきた者をそうして梟首したこともあります。
京都方はあまりに弱かったのです。
義時の子である泰時は、こうした言動に恥じぬ名将ぶりを発揮します。
彼は誠実で勇敢、味方を思いやる心がけもありました。
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一方、京都方には味方を思う気持ち、士気が決定的に欠けています。
宇治川で繰り広げられた激戦のあと、三浦胤義は後鳥羽院の御所へ向かい、門前で訴えかけました。
「君よ、これは負け戦です。門を開けてくだされ、御所で戦いぬき、あらんかぎりの武勇を見せつけたく存じます! そのうえで討ち死にを遂げまする!」
「おぬしらが御所で戦ったら、鎌倉の武士どもが攻撃してくるではないか。そんなのはごめん被る。今はどこぞへ早う去ね」
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胤義は己の選択の過ちを悟りました。
かくなる上は東寺に立て篭もり、せめて兄の手にかかろう――そう決意を固めます。
そして鎌倉方がいざ京へ雪崩込むと、その中には義村の姿もありました。
「三浦義村よ、どこにいる? 本来鎌倉にいるべき俺がここにいるのは、兄が憎くて悔しくてたまらなかったからだ! だから院について兵をあげてしまった……が、俺は間違っていた。和田義盛を裏切るほど根っからの義時贔屓であった兄に、あんな書状を送るとはな。まだ人としての心はあるのか? お前の前で自害してやる!」
しかし、兄は冷静そのもの。
「馬鹿と話しても無駄だ」
そう言い残し、去っていくのです。
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愛する妻に最期に一目だけでも
三浦胤義は、残った三浦一門の軍勢相手に奮闘し、洛西の太秦へと落ちてゆきました。
最期に愛する妻に一目だけでも会おうとしたのです。
しかし、太秦にある自邸はすでに鎌倉方が包囲。
全てを諦めた胤義は、
「兄貴も弟を見殺しにしたと言われるだろう……」
と語り、遺髪を切ると、子の三浦重連と共に自害したのでした。
郎党が屋敷に持ち帰った胤義の首は、義村が探し出して義時に届け、その後、首謀者とみなされた胤義一族は、乱の後、厳罰に処されました。
なぜ胤義はいとも容易く敗北してしまったのか。
彼は楽観的にも思えてきます。
乱が起こる前から、朝敵となった北条義時に勝ち目はないと豪語。
兄もすぐ味方につくと断言し、鎌倉に使者を送ってしまったのです。
あの使者を契機に、鎌倉は後鳥羽院が秘密裡に進めていた計画を察知し、怒涛の進軍を開始しました。
胤義は自分も反省したと言いますが、大きな過ちをしてしまったとしか言いようがありません。
何もかもが詰めの甘い人物に思えます。
そして、こうした言動の伏線が『鎌倉殿の13人』にありました。
畠山重忠に対し「取り囲めば勝てる!」と力強く断言し、義村に黙っているよう手厳しく注意されていたのです。
義村は愚かではありません。利に敏い人物として描かれています。
ただ、実利のために動き、周囲の目を気にしないことを愚かとするのならばその通りですが……。
兄弟仲の悪さも、揃った時点で見えてきています。
胤義は愚か者かもしれませんが、あの義村の弟ならば色々と辛い――そう思える秀逸な伏線が張ってある作劇といえます。
三浦兄弟の登場で、ドラマがより楽しくなったことは間違いないでしょう。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
坂井孝一『承久の乱』(→amazon)
坂井孝一『考証 鎌倉殿をめぐる人々』(→amazon)
坂井孝一『鎌倉殿と執権北条氏』(→amazon)
細川重男『鎌倉幕府抗争史』(→amazon)
他