「朱仁聡は殺人を犯していない」
周明がそう言いながら証人を突き出してきました。
連れてこられた男はがっくりと膝をつき、「国府の偉い人に朱が通辞を殺したと言え」と脅されたと主張するのです。
いったい誰のことなのか。
藤原為時が尋ねると、そこへ現れた越前介・源光雅が、慌てた様子で「卑しい者のことは聞くな!」と止めようとします。
証人は、この光雅を指差しました。
なんでも犯人は朱だと言わねば、仕事を取り上げると光雅が脅したのだとか。
「偽りを申すな!」
光雅がそう否定するものの、為時が制して、通辞殺しの真犯人を尋ねます。
周囲の気迫に怯えている男。
周明は、俺に言ったことをもう一度話せと促します。
犯人は、武生の商人・早成でした。
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若麻呂殺人事件の真相
長徳2年(996年)、越前の殺人事件は意外な解決へ向かっていきます。
なんでも殺人犯の早成は、宋との商いをしたかっただけのこと。
そこで
「朱との貿易を独占できないか?」
と通辞の三国若麻呂に贈賄したところ、渡した賄賂が到底足りないとつっぱねられたようです。
砂金ならば5袋は用意しろ!と言われ、あまりの理不尽さに早成は愕然。
揉み合っているうちに、偶然、転んだ若麻呂は後頭部を強打し、亡くなりました。
どこまでも救いがない事件といえます。あらかじめ贈収賄を禁じる法律さえ設定していれば、こんな悲劇も起きなかったことでしょう。
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贈収賄を嫌う為時は、嫌そうに光雅に聞きます。
この男と取引して、懐を肥やそうとしていたのか?
ムッとした表情の光雅は、越前に来たばかりの国司様ではわからないと言い出します。
この一年宋人を見てきた。膨大な数の財宝を持ち込んで、出し渋ることで朝廷すら操ろうとしている。さらには国同士での商いをする道を企んでいると訴えます。
しかし、その主張はどこまで正しいのか。
国同士で商いをして何が悪い?
そこは考えたほうがよさそうです。
日本史学習の欠点として、隣国である琉球や朝鮮、台湾の歴史把握が甘くなりがちだということが挙げられます。
琉球を見ていると、朝貢貿易は悪くないとわかります。
沖縄で最も有名とされる民謡「唐船ドーイ」(とーしんドーイ)は、朝貢貿易の船が到着したという意味です。
みんなウキウキワクワク出迎えるために走っていくのに、一人だけ走って行かないお爺さんがいるという歌詞から始まるんですね。
琉球の歴史を見ていくと、朝貢はむしろお得な制度であることが見えてきます。
光雅には不満があった
日本がなぜ、一時的な例外を除いて朝貢を避けたのか?
それはあまりに遠大な話ですが、大河を見る上では朝貢について頭の隅に入れておくと理解しやすくなることもあるかもしれません。
光雅あたりが嫌がるのは、国が統制するとなると、中抜きして自分の懐に入れるうまみが薄れることもあるのでは?とも思えてきます。
光雅はさらに私怨を言い募ります。
宋人は我々を格下に見ていて、小役人と侮ってやりたい放題だとか――ここは彼が勝手にそう思い込んでいるのではない、具体性のある暴虐の証拠も知りたいですね。
ともかく、そんな宋人を相手にして、新たにやってきた国司の藤原為時は扱いが優しく、「これではいかん……」ということから朱を貶めるため、罪を着せたと言い出します。
「そんな話はいい。朱様は無実です。早く御解き放ちを」
キッパリとそう主張する周明。
為時は光雅の言うことに理解を示しつつも、この一件で朱に罪はない、解き放てと言います。冤罪処刑されず何よりですね。
「左大臣こと道長は、越前のことは越前で決めろと仰せになった」と為時は言い、光雅の意見は改めてじっくり聞くとまとめます。
そして周明に、今後は通辞として力を貸して欲しいと告げます。
拱手礼と共にそれを引き受ける周明。
ちなみにこの拱手は、明清あたり以降の所作なのだとか。
指導しているのがその時代に磨かれていった京劇の俳優である張春祥さんなので、そこはそういうものなのでしょう。
張さんの指導を松下洸平さんがしっかりとこなしているため、とても優美に見えます。
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朱仁聡の目的とは?
周明に連れられ、朱仁聡がやってきます。
あなたのおかげで助かった。
藤原為時に深く感謝する朱仁聡は、そこでようやく本心を明かし、越前を足がかりにして宋と日本の商いをしたいと言い出します。
それを果たさねば国に戻れないんだとか。前の国司は話を聞いてくれなかったけれども、為時は聞いてくれると期待を見せています。
まだ聞くとは言っていないと戸惑う為時。しかし、熱心にこう言われてしまいます。
「どうかどうか、力を貸してください! あなたが頼りです!」
いったい為時はどうするのか。為時には贈収賄も利きません。
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為時は、越前介である源光雅にそのことを話しました。
朱仁聡の狙いを聞いて、やはりそうだ、宋の朝廷の命令を受けているのだと納得する光雅。
為時は、光雅の越前や朝廷を思う心情に理解を示しつつも、無実の宋人に罪を着せたことは許せないと言います。筋を通さねば、宋人に勝てぬとも告げます。
光雅もこれには同意。
年内は国府にあがらず、謹慎するようにと告げられ、素直に受け入れるのでした。
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