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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第23回「雪の舞うころ」】
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あなたは宋人? それとも日本人?
まひろは周明に、宋人なのか、日本人なのかと問いかけます。
「宋人だ」
即答する周明。ならばなぜこの国の言葉が上手なのかとまひろは問いかけます。
「生まれは対馬だ」
そう聞かされ、まひろはそれならば日本人ではないのかと再度尋ねますが、周明は「宋人だ」と言い切ります。
周明は12歳の時、漁師の父から口減らしのために海へと捨てられました。
海に浮かんでいるところを宋船に拾われ、宋では牛や馬のように働かされ、ここにいたら死ぬだけだと逃げ出します。
そして医師の家に転がり込み、見習いにしてもらったそうです。
「賢かったのね」
まひろはそう言います。彼女は長年、父の苦労を見てきて、賢いのに芽が出ない人のことが気になって仕方ないのでしょう。
周明にとって、師は初めて出会ったよい人であり、朱もよい人とのこと。
まひろは周明の境遇に同情しつつも、宋の国には日本にはない身分の低い者でも出世できる道があるのではないか?と問います。
「どうだろう……」
言葉を濁す周明。
まひろは宋の話を聞きたがり、松原客館にある書物は何か?白楽天の作品はあるか?と矢継ぎ早に質問。
書物のことは知らないと断りながら、周明は所蔵品のリストを明かします。
陶磁器
香木
薬
織物
酒
食べ物
光雅の言っていた莫大な量のお宝とはこのこと。
酒と食べ物をのぞけば平安京の貴族にとってもマストアイテムであり、その詳細は以下の記事にもございますのでよろしければ。
平安貴族は輸入品無しではやってけない!一体どんな“唐物”が重宝されていた?
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さらには「貂の毛皮」もありました。『源氏物語』では末摘花が愛着していた品物ですね。
この貂の毛皮は、朝鮮人参と並び、女真族(現在の満洲族)が商う品の定番だったのです。
女真族は宋を軍事的に圧迫し苦しめ続け、ついには靖康の変を起こします。宋は南遷し、女真族は北部に金を建国することになります。
平安時代だと渤海国からの品とされ、日本だと中国大陸北部の品物はアイヌ経由で伝えられることが多いものでした。
ヨーロッパではロシア経由で伝わります。
ロシア皇帝アレクサンドル1世がナポレオンに贈り、ナポレオンがそれを妹・ポーリーヌに贈り、ポーリーヌがそれを兄に無断で恋人に贈ってしまい、揉めに揉めたなんて話もあります。
ポーリーヌの美貌と奔放な暮らしぶり~ナポレオンの妹がこんなにエロいはずが!
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宋の言葉を知りたいか?
周明が「貂の毛皮」と語ることで『源氏物語』を連想。
さらには「対馬」という地名と「貂の毛皮」が出たことで、日本の交易ルートが浮かび上がってきますね。
江戸時代の幕藩体制では、対馬藩と松前藩は石高が一万石に満たない特殊な藩でした。
なぜ、そんな石高で運営できたか?
というと、対馬は朝鮮経由、松前はアイヌ経由という、交易で成立する藩だったからです。
『光る君へ』はなかなか興味深い作品で、平安時代中期を扱いながら、他の時代にまで通じる日本の特長が見えてきますね。
なぜ石高ゼロで運営できた?戦国期から幕末までの松前藩ドタバタ歴史
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「宋の言葉を知りたいか?」
周明はそう言い、宋語で話すと、すかさずまひろは「私は周明です」と解き明かす。生まれながらにして言語処理能力が高いのでしょう。
しかし、こうして見てくると周明は親切なようで、宋語で「俺を信じるな」とも語っています。
まひろによる、日本人なのか、宋人なのかという問いかけも重要でしょう。
対馬のあたりは国境があってないようなもので、日本、中国、朝鮮が入り混じった人々が暮らしていました。
もっと時代がくだりますと「倭寇」という集団も出てきます。
これを「倭人(=日本人)の海賊」と解釈し、中国人も含まれているから捏造だという意見もあります。
日本人とは何か? 血統か、出身地か、言葉か、文化か。近代以前はその区切りが曖昧なのです。
明代は「倭(日本)と関わる海賊」を指しますので、日本の九州が本拠地あったり、顧客が日本人であったり、はたまた日本人のような服装や髪型というだけで「倭寇」扱いをされました。
頭髪が薄くなっているだけで誤認逮捕された、なんて不幸な例もあります。
今のようにパスポートもない。そんな時代は、気分次第で何人と名乗ろうとそれはそれで大いにありえます。
国家と国民をセットにして統治すべきだとされていくのは、もっと時代が下ってからのこと。
今年と来年の大河ドラマは、日本人とは何か考える上で興味深い時代背景を扱っているのです。
周明の中国語講座
周明による中国語講座が始まりました。
まひろは日本人中国語学習者がひっかかるところで躓いています。
声調、そり舌音に苦戦中です。
周明の「ヂョウ」はZhouのそり舌音です。「ジョー」になって訂正されていましたね。ちなみにネイティブからみると、松下洸平さんの中国語はなかなかよく、浩歌さんは文句のつけようがないとのこと。
周明はまひろの覚えが早い、賢いと感心しています。おかげで周明も忘れていた日本語を思い出したそうです。
「私のおかげ?」
「おかげではない。俺の心のことだ」
「失礼しました」
まひろはそう言いながら、宋語ではどう話すのかと尋ねるのでした。
二人で火鉢にあたりつつ、風邪を引いたら鍼で治して欲しいとまひろは言います。
指の間に鍼を打つと熱が下がる。それは痛そうだとまひろが眉をひそめると、周明はこう答える。
「だから風邪はひくな」
彼からは、人を思いやる気持ちも感じられますね。
捨てられ、人を信じられないような人生を送ってきたのに、彼は思いやりを身につけました。
まひろは雪が舞う様をみて、声を上げるのでした。
そして歌を越前紙に書き付けます。
ここにかく 日野の杉むら 埋む雪 小塩の松に けふやまがへる
日野山の杉は、雪が降って埋もれてしまいそう。都の小塩山の松にも、雪が降り積もっているのか。
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