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二代将軍、非業の死
病床でこの事態を知った源頼家は、当然のことながら激怒。
和田義盛と仁田忠常の二人に時政を討つよう命じる文書を出しましたが、義盛は時政にこのことを報告してしまいます。
そして時政から話を聞いた政子によって、頼家は強引に出家させられました。
比企氏が滅んだ数日後、9月7日のことです。
ちなみに忠常は、身の振り方をどうすべきか、迷っている間に殺されてしまっています。排除のスピードが本当に早すぎて恐ろしいですね。
頼家は出家させられた後、鎌倉を追い出されて伊豆の修善寺へ幽閉。
北条氏の地元に近く、山中であるため、再起を図るのはほぼ不可能な土地に押し込まれたのでした。
叔父の源範頼が幽閉され、最期を迎えた土地でもありますね。
範頼が亡くなったとき、頼家は11歳になっていましたので、そのことを覚えていたかもしれません。
そして自分の行く末も、薄々悟ったことでしょう。
ふぐりを切り落とされて殺された
比企氏の乱の翌年、頼家は修善寺で亡くなりました。享年21。
病死だとされていますが、同時代の史書『愚管抄』には
「北条の兵が入浴中に頼家を襲ったんだけど、とんでもない暴れ方をしたもんだから、首に紐をつけ、男の大事なところ(原文では“ふぐり”)を切り落としてやっと殺したんだってさ」(超訳)
と書かれています。
確かに急所中の急所ですが、実に恐ろしい話です。
入浴中に襲ったのなら、背後から刺せば済みそうなものですが……そうさせなかった頼家の察知能力が凄すぎませんかね。
まぁ、結局やられてしまっているのであまり意味はなかったかもしれませんし、そもそも話が伝聞ですしね。
『愚管抄』の著者である慈円は伊豆近辺にいたわけではありませんので、伝え聞いた時点で話が盛られていた可能性は否定できないでしょう。
おそらく頼家の怪力エピソードと、北条氏のやり方とが結びついてこのような話になり、慈円が書き留めたのではないでしょうか。
この件に限らず、史書や物語は「書かれている通りの出来事があった」というよりは「日頃の言動や当時の世情が結びついていくらか脚色された」と考える必要もありましょう。
不幸な最期の源氏将軍3代
源頼家が殺されるまでの一連の流れについて。
母の北条政子が息子をかばおうとした気配は見受けられません。
もしかすると、頼家の出家がせめてもの情けだったのかもしれませんね。
そもそも頼家に対する政子の態度は昔から全体的に冷たいとも言える気がします。
後に彼らが強引に後を継がせた三代目・源実朝も暗殺されてしまいますけれど、そのとき政子は
「実朝は唯一残った子供だったのに」
と悲嘆していたことが書かれています。
”尼将軍”として女丈夫のイメージが強い政子に母親らしい一面があったことを示す一方で、頼家の死亡時にそうした動きは一切見られません。
たまたま記録が残らなかったのでしょうか。お墓は建ててますけども。
また、頼家が幼いころ初めて鹿を射止めたとき、夫の頼朝が大喜びする横で、政子は
「武士なんだからそのくらいできて当たり前でしょ」
と取り合いませんでした。
その一言をそのまま受け取るか。愛の裏返しと取るか。
今となっては不明ながら、言葉通りに受け止めれば冷淡さとも見えますね(大河ドラマではわざと冷たい態度にしていました)。
ちなみにいわゆる”源氏将軍”は三人とも不幸な死に方をしています。
源頼朝の死因は落馬とされていますが、明確ではありません。
源頼家は上記の通り。
実朝は後々、頼家の遺児である公暁(実朝にとっては甥)に殺されています。
なぜ公暁は叔父の実朝を暗殺したのか?背景には義時の陰謀があった?
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北条氏もその後百年単位で実権を握りますが、短命が多い上、鎌倉時代以降生き残ることはできませんでした。
ついでに言えば幕府そのものも源氏一門の足利氏・新田氏に滅ぼされていますし、後世から見ると一体誰が得をしたのか全くわかりません。
中世のことですから、そこまでロングスパンで物事を見ている人がいなかったのかもしれませんが。
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長月 七紀・記
【参考】
国史大辞典
本郷和人『承久の乱 日本史のターニングポイント (文春新書) 』(→amazon)
慈円/大隅和雄『愚管抄 全現代語訳 (講談社学術文庫)』(→amazon)
日本史史料研究会/細川重男『鎌倉将軍・執権・連署列伝』(→amazon)
ほか