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週刊武春 幕末・維新

幕末の侠客たちはエクスペンダブルズ? 伊藤春奈著『幕末ハードボイルド』に学ぶ悲哀

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歴史から消えていった幕末の侠客たち

徳川幕府の政治が疲弊し、武士の世にほころびが見え始めた幕末。
そんな時代に脇役として顔を見せながらも、いつの間にかフェードアウトしてしまう人々がいます。

侠客――。
賭博や暴力稼業に従事する、荒っぽい連中。現在でいうところのヤクザです。

幕末というと、黒船来航までは平和に暮らしていて、そこから急激に世の中が乱れたように思われます。
しかし徳川体制の綻びは既にありました。

黒船以前からのロシアやイギリスの外国船来港。
相次ぐ災害。
各藩での財政のゆきづまり。

そんな中、武士以外の人々もエネルギーを噴出させたのが、彼ら「幕末の侠客」でした。

 

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庶民が喝采を送った義賊としての「アウトロー」

江戸時代のアウトローは、突如幕末にだけ出現したわけではありません。

歴史をさかのぼれば、室町時代に「かぶき者」「奴」「男伊達」「通り者」「侠客」などと呼ばれた人々がそのルーツ。
江戸幕府が成立し、世間から暴力的な気風が薄れてゆくと、彼らは取り締まりの対象となり消えてゆきました。

しかし彼らはまったく消えてしまったわけではありません。

江戸時代中期となると、ヤクザ・博徒・渡世人といった、現代でも通用する言葉で呼ばれるようになります。
彼らのシノギ(仕事)は博奕、つまりギャンブルによるものが主流。こうしたアウトローたちは「人別帳」(当時の戸籍)から外されていた「無宿」でした。

少し前までは時代劇で「上州無宿紋次郎」などと名乗る場面がありましたので、なじみのある言葉ではありましたが、今はそうでもなくなってきましたね。

ちなみにネットショッピングでは「あっしは渡世人 股旅衣装」が現在でも販売されています。こうした画像を見れば「ああ、これか」と思い出す人もいることでしょう。

時代劇ではちょっとしたワルながら、正義の味方として本物の悪をもただすこうした渡世人たち。義賊や庶民のヒーローとして、大変人気があったのです。
そんな彼らが幕末を迎えた時どうふるまったのか、それが本書『幕末ハードボイルド: 明治維新を支えた志士たちとアウトロー』のテーマになります。

 

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幕末には悲哀漂うエクスペンダブルズ(使い捨て)か

時は幕末、騒然とした時代ともなると、侠客にも新たな目線が注がれるようになります。
彼らを取り締まる側であった武士たちが、その暴力に親しんできた度胸や血気をどうにか利用できないか?と考えるようになったのです。

高杉晋作の奇兵隊をはじめ、幕末の諸隊には、侠客たちが構成員として含まれていました。
武士以外のものたちをも利用しようと考えたのは官軍側だけではありません。幕府側や佐幕藩も、彼らを取り込もうとしました。甚だしい時には両者から誘いがかかっていたこともあるとか。

それもそのはず、ある意味温室育ちの旗本なんぞより、喧嘩慣れしている侠客の方がよほど度胸もあって、強いのです。

例えば仙台藩で黒装束をまとったゲリラ部隊「鴉組」。
これを組織して暴れ回った細谷十太夫直英は、官軍にとっては仙台藩士よりもはるかに手強い敵となりました。

とはいえ、彼らの活躍はどこか悲哀に彩られています。
いくら強かろうが、武士ではないため使い捨てなのです。
奇兵隊の脱退騒動が有名ですが、他の侠客たちも正当な評価をされないどころか、処刑されてしまう場合もあります。

相手が武士ならば一応はある配慮がなされないのが彼らの辛いところ。
使い捨てを意味する『エクスペンダブルズ』という、傭兵軍団が主役のアクション映画がありましたが、幕末の使い捨て軍団は侠客にこそふさわしい概念かもしれません。

胸のすくような活躍と、悲哀漂う末路は表裏一体のものなのです。

30余戦全勝の細谷十太夫直英&鴉組って何者!? 奥羽列藩同盟ボロ負けの中で大奮闘!

 

死体の埋葬も買って出たのはナゼ?

本書『幕末ハードボイルド』では、戦場で武士顔負けの活躍をするアウトローや、名だたる志士を庇う義侠のふるまいだけではなく、他の人々がやろうとしなかった「仕事」を引き受けた話も掲載されています。

死体の埋葬です。

江戸時代を通じて、「罪人の死体は晒しものにする」ことが通例となりました。殺すだけではなく、死体を晒すところまでが刑罰とされたわけです。
飢饉や災害で大量死が発生することはあっても、戦国時代のような合戦による大量死はなかったため、それでも問題にならなかったのです。

ところが戊辰戦争をはじめとする戦乱によって、各地で死屍累々となると、これが大問題となります。

官軍からすれば「罪のある賊軍の死体は晒すものにすべきだ」という理屈になります。現代人からすれば「死体をそのまま放置するなんて信じられない」と思ってしまいますが、何百年と続いた当時の人々の常識は当然違うわけです。

実際問題として、人間の生活スペースに大量の死体があるというのは大変困る。
ところが、これを勝手に埋葬したとなると、お咎めを受けるかもしれない。
多くの庶民にとっては死体に触れることすら慣れておらず恐ろしいことでしょう。

ここで汚れ仕事をかって出たのがアウトローの人々でした。

現在まで続く指定暴力団の祖となった「侠客・初代会津小鉄」は、彼を重用した会津藩の恩義に報いるため、鳥羽伏見の戦いで亡くなった会津藩の死者を埋葬し、名をあげました。

清水次郎長は静岡の海に浮かぶ死体を「死ねば仏」であると、両陣営分け隔てせず構わず葬ったことから、感動した山岡鉄舟との交流が生まれました。

しかし筆者は、それらが美談というよりも死体が浮かんでいたら生活が成り立たなかったからではないか、とも冷静に分析します。
確かにこの死体の埋葬に関しては、義侠の行いではあるものの、それで終わらせてしまってもよいものか、という疑念も浮かんでくるわけです。

山岡鉄舟/wikipediaより引用

 

歴史と意識の中から消えてゆく存在に

本書の優れた点は、アウトローという影となった部分を描くことで、明治維新というドラマがいかに「漂白化されているかを浮き彫りにした」点だと思います。

利用されるだけ利用されて使い捨てにされたように見える諸隊の隊士たち。
本来は死体を発生させるような状況を作った側がやるはずである「死体埋葬」という汚れ仕事を行うアウトローたち。

彼らを使い捨て、汚れ仕事を押しつけたからこそ、漂白された歴史の勝者。
そういう一面があることを教えてくれるのです。

そしてもうひとつ。
私たちの意識からアウトローが消えつつあるということです。

国定忠治、清水の次郎長、黒駒の勝蔵といった、江戸時代のアウトローを主役とした物語は、時代劇全体の衰退とともに大衆演芸、映画、テレビから姿を消しました。

清水次郎長/wikipediaより引用

幕末は大河ドラマはじめ、様々なコンテンツで扱われる時代であるにも関わらず、彼らは登場しません。
登場したとしても『八重の桜』(2103年)で松方弘樹さんが演じた大垣屋清八のように、「京都商人の顔役」といった役割にされてしまいます。
現代のフィクション作品では、彼らも漂白化されてしまうのです。

かくして維新の歴史の中に埋没したアウトローたちは、記憶の中からも消えていこうとしている――。
それを痛感させてくれる興味深い一冊が本書なのです。

文:小檜山青

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【参考文献】

 





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