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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第7回好機到来『籬の花』】
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忘八どもをこの博打に乗せる
蔦重は吉原に戻り、忘八どもにこの話を持ち掛けます。
親父様たちにも倍買い取っていただくという前提だと知り、大文字屋は「勝手なことすんな!」と怒り、頭を引っ叩きます。
「……言ったらやめろとしか言わねえだろ」
そうぼやくと、大文字屋は聞きつけてくる。
すると蔦重は、こんな折はまたとないと思ったと主張します。
自分が仲間入りをすりゃ、自前の地本問屋を持てる。となりゃ、入銀本も、行事の摺物も、市中で売り披露目ができるってことだ。
すかさず、りつがその利点に気づき、吉原を売り込み放題にできると言い出します。
「はった!」
大文字屋も費用対効果に気づいてこう叫んだ。
まぁ、吉原は季節限定イベントをやたらと開催する運営なものですから、ガンガン広告を打ちたいわけで。
かくして忘八どもは「はった!」と群がるわけですが……。
扇屋だけは駿河屋の浮かない顔に気づいています。ここまで蔦重がおおっぴらに本屋になってくるのが、面白くねえと見抜いているんですな。
それだけでなく、彼には疑念がある。
うまくいって、市中の連中が俺たちを認めることがあるのか――そう思っちまう。彼なりに吉原から一歩出たら貶められるという意識があるんでしょうね。
責められる鱗形屋 つけこむ西村屋
そのころ鱗形屋は拷問を受けていました。
本当のことを語っても、腐れ商人が武家に罪をなすりつける気なのか!と殴る蹴るの暴行を受けてしまう。
日本独自の拷問は、おおよそ江戸時代に“確立”および“洗練”されてきます。
火責め、水責め、雪責めなどなど、古来から行われてきたものがよりシステマティックになりました。
奉行や火付盗賊改で、人体構造に詳しいアイデアのある奴が見出していくわけですな。
海老責、吊し責、石抱などなど、独自性のあるものが出てくる。
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石抱/wikipediaより引用
ただし、厳しい拷問は致死率も高いですから、偽板程度ならば原始的な暴行程度なのでしょう。それでも出獄後に後遺症が残ってしまうことは十分考えられます。
酷いっちゃ酷いんですけどね。一応、進化はしています。
『光る君へ』のころですと検非違使とその部下の双寿丸あたりは、容疑者という時点で殺していてもおかしくはなかった。直秀も取り調べも何もなく殺されていましたね。
西村屋は、主なき鱗形屋に向かい、女房のりんに『細見』の板木を売るよう持ち掛けています。
彼女が「主人のおらぬ間に然様な決め事は……」と困惑していると、西村屋はおもむろに帛紗(ふくさ)に包んだ小判を見せる。
りんが応じないと、だんだん枚数を増やしていく西村屋。戸惑うりん。目が据わってくる西村屋。増えていく小判。
するとここで、賢い次男の万次郎が出てきて、小判を押し返します。
「おとっつぁんでねえと決められませんから!」
「ん」
その聡明さに何か見出したのか。西村屋は相手の顔をじっと見つめ、ため息をついてあきらめたようです。
万次郎、やっぱり只者じゃねえな。
彼は次男ですから、兄に何かなければ家は継げません。
この年齢なら奉公に出されていてもおかしくないでしょうに、手元できっちりと育てられ、それが家の危機でよい方向に動いている。
すげぇガキじゃないですか。西村屋もそこに気づいたのかもしれません。
無理じゃねえ、工夫をこらしてやってやらぁ
蔦重がパチパチとそろばんを弾き、帳簿をつけています。筆を持って、きっちり書く手元も見える。
その横で、半次郎と次郎兵衛は噂を話しています。
なんでも鱗形屋は身上半減か、島流しかと言われているとか。そりゃもうおしめえだと思われているようでして。
にしても、ペナルティが重すぎるんですね。放火や殺人でないこうした犯罪は、どうにも判例がわかりにくいものです。
世間は薄々勘づいているとは思います。あまりに重い。こりゃ武家あたりと何かやったんじゃないかと思っている人がいても不思議はありません。
次郎兵衛は蔦重が平気の平左であることを、意外に思っています。
聞けば「鱗形屋がやっていたことに気づいていた」と答えるではないですか。探索もされているのに黙っていた。鱗の旦那をはめたようなものだと淡々と語ります。
「今の俺にできんのは、はめたに見合うだけのいい『細見』を作るだけです」
次郎兵衛は義弟のそんな一生懸命な気持ちにほだされたのか、頭を撫でて、気持ち悪がられても抱き寄せています。愛情表現が素直で、愛くるしいもんですね。
そんな蔦重は『細見』を半値にするため、知恵を絞ることにしました
同じ値段で仕入れるとするならば、半額にすれば倍の数を仕入れてくれる。そう単純に考えたわけです。
でも、普通は、この時点で「そりゃ無理だ」ってなりませんか?
単純な次郎兵衛は「策士だねえ」と肯定しますが、半次郎はそれで儲けが出るのか?と心配そうな表情です。まあ、この人も蕎麦を売って生きているから客商売の厳しさを知っているのでしょう。
しかし蔦重はそれも承知だ。
費用を半額にするってよ。しかも、今までのものより“いいもの”にするそうで、半次郎は“いいもの”とは何か?聞いてくる。
蔦重は、そこを二人に手伝ってもらうと言い出しました。
条件をまとめますぜ。
・今までの半額にする
・今までの倍、印刷製本する
・今までよりも制作費を半額にする
・それでいて今までよりよいものにする
果たしてそんなことができるのかい?
危ない女郎大文字屋の「かをり」登場
かくして、蔦重は二人の仲間とともに聞き込みを開始します。
背景には吉原らしい色っぽい江戸時代のダーツこと投げ矢遊び。腰をかがめて矢を拾う女の尻にムラムラすることが主目的の客も少なくなかったそうですぜ。
今に役立ちそうなアイデアもあります。
たとえばクーポン系。『細見』を持っていけば揚代が半額になるなど。
いくつかの提案が出た後で、これまでの『細見』で根本となる欠点が指摘されます。
「買える女郎が載ってない」
要するに高い大見世ばかりで、安い河岸の女郎は掲載されていないということですね。
するとここで背後から若い女郎が小走りに蔦重のもとへ駆け寄り、背後から抱きついてきます。
「男前はタダってのは?」
「かをり……」
『細見』を持ってきたイケメンはタダにすんだとよ。そうすりゃ男前がこぞって書い、どっさどっさと吉原に来るってよ。って、おめえの願望じゃねえか!
どうやらこのかをりは、蔦重にぞっこん惚れているようで、男前の基準が彼になっておりやす。まあ、確かにすごいイケメンなんだけどね。
かをりを引き離しつつ、考えてくれたことに礼を言う蔦重。
彼女は一目惚れをしているようで、わっちとは前世からの縁だと思っているそうですよ。
すると、遣り手婆の志げがやってきて、棒で叩いて引き離そうとします。
「ババア! 落ち着け!」
そう止めようとする蔦重。それでもかをりはしがみついて離れようとしません。そこで、こう志げは脅す。
「いいのかい? 離れないと、蔦重の顔に傷がつくよ!」
とんだ災難だな、蔦重よぉ。
「蔦重! 大文字屋で待っておりんす!」
ここでやっと剥がれたかをりは、あのカボチャ野郎の大文字屋へ引っ張っていかれるのでした。
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