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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第29回江戸生蔦屋仇討】
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鰻の蒲焼を食べながら作品会議
蔦重は、上方で米が安くなったと噂話をする江戸っ子を見ています。
意知の政策がやっと実って米価が下がったにも関わらず、江戸っ子たちはその意知を佐野政言が斬ったせいだと信じているようですね。
これは歴史にせよ、物事にせよ、因果関係がわからないとやっちまう話。我々も気をつけねばなりません。
金々先生プロジェクトの話は固まりました。
そして鰻の蒲焼が出てきます。これが黄表紙のタイトルにもなるわけですね。
鰻は昔から食べられてきたものの、醤油と味醂を用いた今にも伝わる食べ方は江戸時代に確立されました。
まだ鰻丼にはなっておりません。
大久保今助という男が、水戸街道の牛久の沼にある渡しで鰻とどんぶり飯を頼みました。するとまだ食べきれぬうちに船が出てしまう。
あわててどんぶり飯に鰻の蒲焼を載せて持ち歩き、食べてみたらうまい!
かくして鰻丼が誕生したのですが、この時代よりも後のこととなります。
さて黄表紙の新作について。
裏返しで進めることにする――佐野の人物像を裏返しにするとのことです。
佐野は真面目すぎて笑えない。だからこれを正反対にする。背開きか、腹開きか。そういう話でさ。
主人公は大金持ちの一人息子。甘い汁しか吸ったことねえバカ旦那。だったらどんな苦い汁を飲ませようが笑えるってさ。
ここでちぃと大河のことも思い出したんですが、『青天を衝け』がつまらなかった理由の根本がわかりやしたぜ。
渋沢栄一は幕末を潜り抜けたにしちゃ苦労してねえ。生まれも豪農のボンボンだしよ。そんなのが世の中うまくわたって甘い汁を吸ったところで、盛り上がんねえもんさ。
話を戻しまして、蔦重には、苦いネタが思い浮かばないそうです。
すると京伝が話に入ってきます。まずは動機づけだ。佐野の欲は何か。
春町が「名声をあげたかったのだろう」と答えると、喜三二は家名より浮き名を流したいそうで。
ここで京伝、ピンときた。
若旦那は浮き名を流すことに命をかける。心底惚れたい、惚れられたいわけじゃない。ただ「あれはモテる」「色男だ」って周りから言われてえ! そんなくだらない話をやろうと語りました。
清々しいほどバカな望みだと春町も納得。
大枚叩いて押しかけ女房を雇うというアイデアも出てきます。役者の門之助に押しかけ女房がいたんだってよ。それをバカ旦那が金をばらまいて同じことをするんだとか。
そんなことしても浮き名は立たねえとはしゃいで語る。
蔦重は「読みてえ! そいつを読みてえよ!」と太鼓判を押すと、京伝が応えます。
「めっぽう、書きてえです!」
弾んだ声で、満面の笑みを浮かべて快諾するのでした。
蔦重はネタを集める
話の筋が決まれば、あとは肉付け。
「どんな浮名を流したいか?」
蔦重はネタ集めに走ります。
鶴喜は「読売」ではどうか?と答えました。要するにチラシの配布ですね。
つよは「色男はぶたれる」と言います。なんでも彼女に言い寄っていた男が、気を引こうとして殴られて、髷が崩れたんだとか。
志げは、大金で間夫気分を味わいたいという客がいたと明かします。同時に彼女は、夜中に誰袖が丑の刻参りをしようとするから、寝ずの番だとこぼしています。
そして主人公の名前が決まりました。
浮気屋艶二郎(うわきやえんじろう)――しょうもねえ名前だな、オイ。
京伝は腕まくりをして「つや命」と書かれている刺青を見せてきます。
モテるとこうして女の名前を彫るんですね。ただ、上から灸を据えて古い方を焼き消すこともできる、ゆえにモテる男は腕が火傷だらけになるんですな。
これも元々は女郎の手練手管で、それが一般人、男までくだってきたってことですね。うつせみもたちの悪い客に刺青をさせられていたもんです。
刺青と火傷だらけのアイデアを本作に入れるとはしゃぐ京伝。絶好調じゃねえか。
そんな京伝の背に寄り添い、蔦重はこう持ちかける。
「いい男の背中になったなぁ」
「もうやめてくだせえ!」
それでも蔦重は甘え、艶二郎の名を変えたらどうかと甘えてきます。
かわいらしい場面っちゃそうですが、歌麿が嫉妬しないことを願うばかりです。蔦重はとんだ人たらしだな。
江戸城では田沼意次が、将軍・家治に松前藩の上知願いを出していました。
松前藩はオロシャと抜荷をし、謀反を企んでいる――穏やかな家治といえど、由々しきことだと怒りを見せます。
するとそこへ一橋治済がやってきます。

徳川治済(一橋治済)/wikipediaより引用
胡乱な目を向ける意次。
早くも蝦夷上知について耳に入れ、いてもたってもおられずやってきたそうです。
上知の一件を止めに入るのかと思えば、礼を丁重に述べる治済。
ご公儀にとっては利益になる。となれば、時期将軍となる西の丸こと家斉にとってもよい話になると、お礼を告げたそうで。
意次と三浦は意図を図りかねています。
松前の味方でないということか、はたまた田沼は自分のために動く駒だと言いたいのか。
意次は「どうでもいい」と笑い飛ばし、役目の邁進を誓うばかりでした。
さて、その真意は?
劇中劇『江戸生艶気樺焼』
秋を迎え、蔦重は仇討ちだという黄表紙を誰袖の前に差し出します。
そして、百万両分限と呼ばれる仇気屋艶二郎の話だとして、物語を読み始めました。
なんの苦労もないバカ息子のお話――ここからは劇中劇へ。
艶二郎を演じるのは、つけ鼻姿の古川雄大さん。美貌も美声も台無し、すっかりバカ息子になりきりました。
そこへ春町扮する悪井志庵、喜三二扮する北里喜之介がやってきます。漢字を読むだけでワルだとわかりますな。
さて彼らはどうやって「浮名を流す」のか。
まずは刺青と灸に挑戦。一度彫った女の名前をすぐ消せば、浮気な腕になるとのことで、見てる方も痛いぜ、こりゃ。
お次は、役者の家の追っかけグルーピーを真似て、おえんという評判の芸者に50両はらい、周囲に痴話話が聞こえるよう仕込みます。
眼鏡を外して美人芸者になりきったおていさんが、棒読みで死ぬ覚悟だなんだの言ってます。しかし、その声量では周囲に聞こえない。もっと大声で!と追加料金10両を払う艶二郎。
しかし、なかなか浮名の噂は広まりません。
今度は鶴喜が棒読みで、読売を売っています。風間俊介さんの棒読みが聞けるたぁ、貴重な機会でえ。
タダでもいいからと配られた、押しかけ芸者の読売は、渡したそばから鼻をかまれて投げ捨てられる。
艶二郎は女郎買いをして、浮名屋の浮名という女郎を買うことにしました。
誰袖が扮していますね。この浮名の間夫にして欲しいと頼み込むものの、相手にされちゃいねえ。あくまで営業でしか付き合ってくれません。
しかも艶二郎は、志庵の名前で浮名を揚詰(連日独占する遊び方)にし、自分は新造買い(新造を買いその姉女郎として会う)にして会うんだと。
これをすると「花魁はお大尽の揚詰なので、待ってくださいね」と間夫気分が味わえるんでさ。
「たまんねぇなあ、この間夫気分」
金がねえから揚詰の花魁に会えないけど、裏でこっそり新造を買って会うわけさ……いや、もう……バカじゃねえのか!

葛飾応為『吉原格子先之図』/wikipediaより引用
みの吉扮する新造が、揚詰の金も自分で出していると指摘して戸惑っています。
と、志庵が「お待たせ山〜」とやってくるのでした。
花魁に出会うと、スケベな医者坊主相手は辛かっただろうと気づかう艶二郎。しかしバカな遊びにつきあわされた花魁はそっけない態度です。
さらには、ならず者を雇って自分を襲わせもしました。
わざわざ曲げを解けやすく結って殴らせる。このときはよっぽどのバカ者としてちょっと噂になったとか。
さらには浮名に駆け落ちを持ちかける艶二郎。
芝居でいいからやってくれと懇願されると、嘘でも嫌だと浮名はそっけない。
ついには「身請けを条件に駆け落ち」まで言い出します。んなもん、同時にやるもんじゃねえだろうよ……。
格子を壊し、梯子をかけ、駆け落ちしたっぽい身請けをしたそうで。
吉原の者たちに口外して回るよう言い含め、目立つように三味線と口上までつけて、駆け落ちのふりをします。
すると「仇屋!」と声までかかるのだからアホにもほどがある。
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