べらぼう感想あらすじレビュー

背景は喜多川歌麿『ポッピンを吹く娘』/wikipediaより引用

べらぼう感想あらすじ べらぼう

『べらぼう』感想あらすじレビュー第29回江戸生蔦屋仇討 モテはそんなに偉いのか

浅間山の噴火により、世は米不足、そして大不況となりました。

これはあくまで引き金であって、根本的に社会構造に歪みがあった。

田沼政治への不満が高まる中、その嫡男である意知が、佐野政言により斬られて落命しました。

そんな政治的な不満が「佐野大明神」伝説に結びつきます。

意知と愛し合い、結ばれるはずだった誰袖は錯乱したまま……。

心を失った彼女にもう一度笑って欲しい。意知最愛の桜を、笑顔でもう一度咲かせたい。

たまたま見かけた山東京伝の持ち込んだ手ぬぐいの柄を見て、蔦屋重三郎はそう思い始めたのでした。

 


蔦重は仇を討ちたい

耕書堂の向かいにある仙鶴堂の鶴屋喜右衛門は、そんな耕書堂の動きに気づいたようです。

なんでもネタを募集していて、一等賞は吉原接待という副賞がついてくるそうですぜ。なんのかんので吉原出ってのが生かされているじゃねえか。

鶴喜ははしゃいで走っていく山東京伝を見ながら、自分のところのお抱えが蔦重の企画に参加していることに気づきます。いいんですかい?

山東京伝/wikipediaより引用

山東京伝の描いた絵を示しながら、こいつを主役に笑えるネタを出すようにと言い出す蔦重。

ひょんなことから、まことのことしか言えなくなるとか、見えなくなるとか。

しょうもないことをワヤワヤと言い出しますが、蔦重は「ひょんなことから」縛りをしなくていいと示します。

「その方が、二代目金々先生というのはどうでしょう?」

鶴喜がやって来ました。

 


鶴喜は黄表紙のスマッシュヒットを出したい

あれぞ青本ブームの元祖。となりゃ、リブートするというのはアリですね。今にも通じる発想でさ。

蔦重は青本ブームのリバイバル狙いではないと断るも、鶴喜は京伝先生にするとまで言い出しました。ははぁ、こいつ、何か狙ってんな。蔦重は困惑しています。

鶴喜は、ここのところヒットが出ない黄表紙業界に、久々のスマッシュヒットが欲しい。そうすれば地本問屋全体が底上げできると考えています。

大当たりが出たら全体的に底上げが出せる。他の新作も売れる。ヒット作の著者については既刊の作品も売れる。

なるほど、山東京伝は鶴喜の抱えだからこそ、むしろ使って欲しいわけですね。

蔦重は、京伝が当たれば、鶴喜は鼻くそを穿っていても儲かる寸法だと腑に落ちました。

大当たりを出すことを条件に、鶴喜は京伝貸し出しを許します。ちゃっかり自分の儲けも出す算段をしている。

「京伝先生、楽しみにしてますよ」

そう笑ってんだがそうでねえんだか、わかんねえ顔で去っていく鶴喜がなんとも言えねえ。どんだけ重圧かけんのか。京伝も当惑していますぜ。

初代作者である春町先生がやるべきではないか? と逃げようとすると、春町はこうだ。

「悪いが、二代目を手にかけては初代に申し訳が立たぬのでな」

他の連中もこれには同意します。

歌麿も、京伝が描いた男が主役なら京伝が描くべきだときましたぜ。京伝は、その男を考えたのは俺じゃないとなんだか逃げを打ってきます。

なんでそんなに嫌がるのか? というと、荷が重いんだってよ。色男は重いものはかつげねえってよ。

「じゃあこの際鍛えようぜ、男の背中をよ」

そう京伝の背中を叩く蔦重でした。

 


松前藩の裏帳簿

そのころ、平秩東作は坊主頭になって、田沼屋敷におります。

周囲の反応からすると、相当汚れて臭うようです。傷と垢にまみれていますね。

平秩東作は実際には平賀源内より年上です。結構いい歳なのに、とんでもねえ目に遭ったようで。一般人にこんなスパイじみたことをさせるたぁ、なかなか人が悪い。

そんな東作が命をかけて手に入れたのは、松前藩の裏帳簿でした。

松前藩は定められた場所で商人とアイヌ(蝦夷)の交易をさせ、運上をおさめさえています。

幕政初期の商場知行制では、松前藩士が直接交易をしておりました。それが東作が説明する場所請負制へ転換がなされているのです。

松前城と大手門/函館市中央図書館蔵

松前藩としてはメリットがあります。

直接交易するとなると、海難事故といったリスクがある。しかし商人に取引そのものを任せて定期的に運上をおさめさせれば、そのリスクを商人に背負わせることができます。

そんな場所請負制の運上が、二重で計上されているのです。幕府に隠れて財を蓄えている可能性があると見なせる。

「でかした。でかしたぞ東作! しかし、ようもかようなものを見つけ出したものじゃ!」

そう意次が嬉しそうな声をあげると、土山宗次郎はこう告げます。

山城守(意知)の指図であったと。抜荷の策が潰れたあと、決定的な証拠を得るために、裏帳簿を探すよう命じていたのです。

その命に従い、複製して持ち出すはずが、松前側に察知されました。それでああも不審な出来事が相次いだんですね。

湊源左衛門と善吉、そして意知は犠牲になったのだと悔しそうな東作。

これだけの血が流れたからには、松前藩は上知せねばならないと訴えます。

意次は我が子の最期を思い出しつつ、松本秀持に命じ、上知を願い出る上書を書かせ、一気呵成に進めることにしました。

ここで『逆賊の幕臣』予習タイムを。

今回の状況を幕臣たちが見たら「きっちり上知をしてロシアと交渉してたらあんなことになっちゃいねえ」と嘆くことでしょう。

松前藩は一度は上知されるも、結局取り消されてしまうのです。

黒船来航後、条約を結ぶと、待ってましたとばかりにアメリカだけではない別の国も来ます。

中でも前のめりで危険だったのが、田沼時代から日本と交易をしたがっていたロシアでした。

ロシアは対馬を勝手に占拠し始める強硬策に出て、ロシア軍艦ポサドニック号による対馬占領事件が起きました。

対馬藩では、とても手に負えないこの一件。

『逆賊の幕臣』主人公である小栗忠順は、ロシアとの交渉に臨みます。

しかし外国奉行である小栗はあくまで調査のために派遣されていて、交渉は完遂できませんでした。

結果、イギリスの介入を経てロシア艦を退去させることになり、幕府権威はますます失墜してしまいます。

小栗の気持ちになってみれば「松前は幕府が直轄統治を続けて、ロシアとさっさと交渉してりゃよかったんだよ!」となるわけですね。

窮地に至った松前道廣は、一橋治済にすがるしかないようで。

幕府を崩壊させる悪のネットワークハブになっている一橋治済ですが、これまた幕末幕臣からすれば納得のいく話かもしれません。

彼らも、一橋は一橋でも、一橋慶喜に翻弄されることになります。

このドラマの幕政パートがいらないとか、つまらないとか、そういう意見も散見されます。

隙なく、かつ、幕末への予習にも役立つ、歴史の流れを知る上で大変良い出来だと私は思うのですが。もっともこの時代は見る側の知識が足りていないのではないかと思えることも確か。

例年以上に関連番組が豊富で『3ヶ月でマスターする江戸時代』を何度も再放送しているからには、作る側も「そんなの知ったこっちゃねえ」という構えなのかもしれません。

この時代の知識が日本人から欠落しているというのも、悩ましい話ではあります。歴史総合という教科の導入も、そこを危惧してのことかもしれません。

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