べらぼう感想あらすじレビュー

背景は喜多川歌麿『ポッピンを吹く娘』/wikipediaより引用

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『べらぼう』感想あらすじレビュー第30回人まね歌麿 浮世絵師の業を背負う

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『べらぼう』感想あらすじレビュー第30回人まね歌麿
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歌麿はどうしても描けない

歌麿が、ふらふらと江戸の街を彷徨っています。

そして、こっそり書き損じを捨てようとすると、背後で物音が……。

荒寺へ足を踏み入れたところ、闇の中に女の白い肌が浮かび上がっています。

「おい、大事ねえか?」

女の背に呼びかけると、そこにいたのは顔を腫れ上がらせた“おっかさん”でした。

「あんたは殺したって死なない、鬼の子だからね!」

あのおぞましい声が再び歌麿を支配します。

書き損じを投げ出し、立ち去ろうとする歌麿。

気がつけば、馬乗りになって激しく殴りつけています。

通りかかった蔦重が、殺しちまう!と慌てて止めます。

「おいっ、何やってんだよ! 歌麿、お前、やめろ! 死んじまうから!」

歌麿に襲いかかられた男は怯え、いきなり殴られたと言います。

「女殴っただろ!」

歌麿がそう叫んでいますが……一人の女が彼の顔を覗き、やさしく微笑みます。

荒寺にいたのは彼女です。野に咲く菫のように可憐な女性。歌麿がすがるように見つめると、彼女も去ってゆく。

蔦重は如才なく男に薬代を渡し、その場をおさめようとします。そして歌麿に声をかけると、絞り出すように言います。

「描けねんだよ……」

歌麿の背をやさしく叩く蔦重。

しかし、彼では救えぬという諦念も、その瞳の奥にあるように見える。

ていとつよが蔦重と歌麿の帰りが遅いと気にしていると、一人の来客が耕書堂にやってきました。

「人まね歌麿……」

鳥山石燕です。

『べらぼう』片岡鶴太郎演じる鳥山石燕~史実でも歌麿と蔦重を繋ぐ重要人物だった

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三つ目に見えるものを写してこそ絵師

歌麿は蔦重に、語り出しました。

「描こうとするとおっかさんやヤスが出てくるんだよ。人殺しならではの絵なんて誰が見てえんだって……」

「俺は見てえけどな」

「……すまねえ蔦重。こんなべらぼうで。いらねえよな、人まね歌麿で終わる俺なんて……」

「んなことたねえって何遍も言ってんだろ。何で信じてくれない」

「目いっぱい役に立ちてえとは思ってはいんだよ」

そう語り合う二人は、関係性の限界に突き当たったように見えます。

歌麿の技量は申し分ない。

問題は、その心です。

純粋な気持ちで描かなければ、もうどうにもならない。歌麿は蔦重のことが大好きで、好きで、好きで、たまらない。

だからこそ彼に笑って欲しくて、期待に応じたいのに、それができない。その苦しみが伝わってきます。

蔦重もその心を癒すことはできません。

二人が耕書堂に戻ってくると、そこにいたのは鳥山石燕でした。

「三つ目〜! やはり歌麿は三つ目であったか〜!」

鳥山石燕――人なのか、あやかしなのか。仙人のような風情で、彼は歌麿がなぜ来なかったのか、いつ来るかと思っていたと語りかけます。

「けど、よう生きとったなぁ……よう生きとった!」

歌麿の目が赤く縁取りしたようになり、涙が滲んできます。

「覚えてくれてたんですか? ちょいと遊んだだけのガキのこと……」

「忘れるか! あんなに楽しかったのに!」

「楽しい?」

「おお、楽しかったぞ! お前は楽しくなかったのか? うん?」

歌麿の顔に驚きから、微笑みがかすかに浮かんできます。

蔦重が座り、手をつき、歌麿の書き損じを見せようとします。歌麿が止めようとするも、彼は石燕に見せます。

それはまるで楽しくない、塗りつぶされたもの。

潰された絵を見てどう思うか?問われる石燕。

ていも、つよも、遠くから伺っています。

「……妖(あやかし)が塗り込められておる。そやつらはここから出してくれ、出してくれとうめいておる。閉じ込められ、怒り、悲しんでおる。三つ目、なぜかように迷う? 三つ目の者にしか、見えぬものがあろうに。絵師は、それを写すだけでいい。写してやらねばならぬとも言えるがな。見えるやつが描かなきゃ、それは誰にも見えぬまま、消えてしまうじゃろ? その目にしか見えぬものを現してやるのは、絵師に生まれついた者のつとめじゃ!」

そう言われ、歌麿の目には決意が燃え上がります。

「弟子にしてくだせえ。俺、俺の絵を描きてえんです。おそばに置いてくだせえ!」

そう言う歌麿を見て、蔦重も静かに頭を下げます。

妖(あやかし)のことは妖がよくわかるのかもしれません。蔦重は己の限界に気づいたのでしょう。

 


歌麿が持つもの

かくして歌麿は、晴れやかな顔で石燕のもとへ向かってゆきます。

それを送り出し、つよに行っちまったと言われると、蔦重はこう言います。

「まぁ、うめえ話じゃねえか。あいつが一皮剥けてくれりゃァ、こっちは骨を折らずとも“濡れ手に粟”ってもんよ」

ここでていが“濡れ手で粟”と訂正します。

それを認めつつ、蔦重が答えます。

「いろいろ間違ってました。俺ゃあいつのこと誰よりも分かってる。花咲かせんのは俺だって思ってましたよ。素人だったってことですね」

しみじみという息子に、母のつよはこうだ。

「あんたには絵を売るっていう仕事が残ってんじゃないか!」

「慰めてんじゃねえよ、ババア!」

ちなみにこの「ババア」は台本以上にアドリブで追加されているそうですぜ。

歌麿は、石燕に三つ目には妖が見えているのかと尋ねています。歌麿は、自分にもそんな目があるのかとおずおずと聞くのですが……。

「まぁ多分、持ってんじゃねえかな」

「多分て……」

「そのへんのものなんか描いてみろよ。持ってりゃそのうち、何か見えてくるさ」

「ほんとですか?」

「多分」

「いいかげんだなぁ」

「それくらいでちょうどいいのさ」

そんな飄々としてやりとりを経て、歌麿は微笑み、立ち上がると花に目を留めます。

そして愛おしそうに牡丹を描き始めるのでした。

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