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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第32回「誰がために書く」】
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帝は教養の高いものに心惹かれる
出世が遅れたことを気に病んでいた藤原公任は、辞表を出していました。
すると帝は従二位に昇進させてこれを解決。この策は、公任と同じ家の出で仲の良い実資が指南したとか。
公任は実資にお礼を言い、実資は辞表作戦の成功を祝っております。性格的に近いものがある二人。公任は実資のお導きのおかげだと語っています。
斉信は、ただのゴネ得だと呆れ、帝の御心も他愛ないと言います。つまり、帝は押されると弱いタイプということでしょうか。
いずれにせよ三人並んで、従二位(斉信)、従二位(公任)、正二位(実資)と確認しながらはしゃいでいます。
ちなみに、このスネるゴネ得辞表作戦は、東アジア伝統といえるかもしれません。
まひろも好きな『蒙求』には諸葛亮の「孔明臥竜」が出てくる。あれなど出仕前からゴネているから「臥竜」です。やる気があるなら竜は立ち上がって自ら主君を探しますからね。しかもそれが美談扱いされています。
まひろが道長に送った陶淵明『帰去来辞』も、やってられないから辞職するという宣言です。
そこで手放すか、引き留めるか――君主の器が問われるので「止めに入ることがマナー」とも言える。帝にはそういう漢籍知識、アピールが効くわけですね。
道長は藤壺にやってきて、敦康親王に投壺(とうこ)の道具を贈っています。
中国由来のレジャーで、打毱同様、絵図は残っているものの、再現はなかなか面倒なのだとか。珍しい場面なのでよく見ておきましょう。
ちなみに韓国では「トゥホ」と呼ばれています。「投壺」や「トゥホ」で検索するとネット通販でセットが買えます。
楽しく遊んでいると、帝がやってきます。道長は彰子に前触れはあったのかというと、彰子は否定します。急いで片付け、帝に「ここでお顔を拝見できるとは」と告げる道長です。
ここで敦康親王は書の稽古にいかされ、大人たちだけになります。道長が去ろうとすると、帝が引き留めます。
「待て。読んだぞ。あれは朕への当てつけか?」
そう語る帝。道長はあわてて否定するも、帝は作者は誰かと問いかけます。道長が藤原為時の娘・まひろだと言うと、帝は覚えていました。
「ああ、あの女であるか。唐の故事や仏の教え、我が国の歴史を取り入れている。書きての博学は無双である。その女にまた会ってみたいものだ」
帝はそう言います。これがなかなか重要で、読むとためになるのです。
これは来年の『べらぼう』の作家たちもそうですが、漢籍教養や儒教、はたまた老荘思想まで取り入れるをことでグレードアップを狙っていきます。日本のエンタメの伝統はそういうところにあるのです。
道長は予想外のことに驚きつつ、急ぎ藤壺に仕えさせると返します。
「会うなら続きを読んでからとしよう」
そう催促する帝。道長が困惑していると、「あれで終わりではなかろう」と帝は続けます。
「はっ、承知仕りました」
そう返す道長です。
ここで、実にまどろっこしい帝の「好き」アピールについてでも。
東アジアの君主は天下を司るものとされ「これが好き! 嫌い!」と言いづらい環境にあります。
各地の名産品が食卓に並んでも、等分に箸をつけねばならない。何か一つを気に入って、そればかり食べ続けると、その産地を贔屓したようになってしまう。
現在でも皇室献上品ブランド詐欺事件がありましたね。
それほどまでに特別なのです。
ゆえに皇室関係者はテレビ番組ひとつにせよ、本人が「好き!」と言うことはまずありません。側近や関係者がそっと漏らすことが通例。
そんな帝が好意を表明するというのは、異例の事態です。
明治時代、相撲廃止の話を耳にしたとき、日光東照宮破却案を聞いたとき、明治天皇が止めに入ったとされます。それほどの異例でもなければ、そうそう動けないのです。
それを踏まえると、一条天皇の要求は本当に凄い、異例のことであるとわかります。
藤壺出仕の誘い
かくして道長はまひろに会いにきます。
その姿を見て唖然としてしまう為時。
中宮様の女房にならないかと問われ、まひろは引き攣っています。
帝が続きを読みたいから出仕しろと言っていると道長が説明すると、まひろはそっけない態度をとります。
さすがに少し苛立つ道長に対し、まひろは続きが読みたいならここで書くと粘ります。いわばリモートワークですね。
しかし、それでは都合が悪い。帝は、博学な作者に興味があり、まひろが中宮に仕えれば、それを理由に帝がお渡りになる。
ゆえに道長は出仕を望んでいるのですが、まひろはこう答えます。
「囮でございますか」
あれだけ大量の越前紙をもらい、契りを交わした相手に、この態度はいかがなものか。
道長は、まひろが娘のことを気にしているのかと思い、「女童として召し抱えるから考えてくれ」とまで粘ります。
しかし、そうではなく、ただ単に面倒くさそうにも見えるまひろ。
彼女は、対人スキルが皆無に等しいのでしょう。
くどいようですが曲亭馬琴もそうでした。
江戸時代の文人はネットワークが大事で、パーティでのトークスキルも必須となる。それなのに「作家は書いてりゃいいんだよ」と塩対応だったのが馬琴です。
蔦屋重三郎に、店員として雇用されたときも、仕事そっちのけで本を読み漁り、困惑させていました。
そろそろキャストが発表される頃でしょうか。2年連続で日本文学史上めんどくさい陰キャ文人巨頭が大河に出るとは、素晴らしいことです。
土御門では、倫子がまひろ出仕のことを道長から聞き、「殿がなぜご存じなのか」と不思議がっています。
道長はスラスラと語る。
公任から面白い物語を書くおなごがいると聞き、帝はそのおなごの書いたものをお気に召してご所望である。藤壺にそのおなごがいて、才知を見せれば帝はお渡りになる。
道長はそこまで頭がきれるとも思えず、あまりセリフも長くはありません。
これは、こっそり練習しましたね。倫子に対してどう説明するか。必死にアリバイを考えた。
娘の幸せを願う倫子としては、名案だと褒めるしかありません。
彰子の不遇をどうにかしたい彼女にとって、疑う余地などないのでしょう。
倫子は、まひろのことは昔から知っていて嬉しいと、素直に返すと、道長はこれで妻の言質も取れたとばかりに、最後の賭けだと話を進めます。
道長は人がよいようで、なかなか悪だくらみができるようになってきました。
まひろも、先のことを考えると、藤壺で働くしかないと決意します。
為時が、まだ働ける、年寄り扱いするなと言いますが、帝の覚えめでたく、その誉れをもって藤壺で働くのは悪いことではないと語るまひろでした。
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