長和4年(1015年)――道長の意を受けた源俊賢と藤原公任が、帝に譲位を迫ります。
「左大臣と話し合う」として、一旦は二人の意見を退ける帝。
早く帝を譲位させたい左大臣・道長に対抗すべく、様々な策を弄します。
そのひとつが、自身の娘・禔子内親王を頼通の妻とすること。
内親王の降嫁ともなれば断れまいと考えてのことでしたが、嫡妻の隆姫を一途に愛する頼通はこれに抵抗します。
都を出て妻と二人きりで暮らすとまで言い出しました。
かつて道長も、まひろと共にそうすると誓った言葉。あまりに頑強なその抵抗に、道長としても折れるほかありません。
それにしても道長は、同年代の他の人物よりも表情が子どものように見えます。そういうプランで演技を組み立てていると思えるのですが、成熟があまり感じられないのです。
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誰もが幸せにならぬ縁談
皇太后は土御門に入っておりました。
藤原頼通の抵抗が彼女の耳にも入り、胸を痛めております。
降嫁したとしても、名ばかりの妻になると理解しているのです。それこそ『源氏物語』にもそんな女君は出てきます。
光源氏の妻である女三宮。
その女三宮に恋焦がれた柏木の妻である、女二宮(落葉の宮)。
薫の妻である女二宮。
道長はそういう女君の心境は読み解けなかったのでしょうか。
さらには妹である妍子に対しても、父の策略に使われ酒に溺れる日々だと胸を痛めています。
そもそも妻を娶っても子ができるとも限らない。この婚礼は誰も幸せにぬと断るようにと言い切ります。
まひろは黙ったまま、二人のやりとりを聞いています。
どちらが良質な読者かといえば、断然彰子であると言いきれますね。
自分の心すら開けず、好きな色すら秘めていた彰子が、こうも思いやりにあふれた女君になった。
そのためにあの物語が役立ったのであれば、作家としてこれほどの幸せはないでしょう。
妍子は父を見限っている
妍子が、禎子内親王と美しい布地を撫でております。
「けざやかだのぅ」
そううっとりと撫でるこの布地は、宋からの渡来品でしょうか。
そこへ道長がやってきます。
彰子に言われなければ来なかったのでしょう。はぁ……不機嫌な妻や娘に、お高いスイーツを買っていくダメなおっさんのようだ!
大石静先生の冴えざえとした力は、この嫌な男のリアリティぶりにあるといえます。
ただしこれは彼女一人だけではなく、この女性が率いるチームが結集させた知恵の賜物でしょう。
孫の禎子も「おじじ!」と特に言い出すこともない。敦成との反応の差が露骨に出ています。
「父上は禎子が生まれた時、皇子ではないのかと、いたく気を落とされたと聞きました」
妍子は内親王を産んだことに失望していたと蒸し返し、道長が雑に批判しても、容赦なく追い詰めていきます。
「父上の道具として、年の離れた帝に入内し、皇子も産めなかった私の唯一の慰めは、贅沢と酒なのでございます。お帰りくださいませ。私はここで、この子とともにあきらめつつ生きてまいりますゆえ」
毎週、道長にダメ出しをしておりますが、道長って心底謝るというそぶりが見えない。
誠意が感じられないんですよ。本当に腹立たしい奴です。
「詐り」はあっても「忠」はない
道長は結局断れないどころか、帝が道長を「准摂政にする」と言い出しました。
道長はここで、父譲りの策を用います。「詐病」です。頼通が重病にかかった、伊周の祟りだと言いふらしたのでした。
『枕草子』で描かれた颯爽たる貴公子像が、怨霊ぶりですっかり上書きされてゆく伊周。
恨むならばドラマでなく、道長を祟ってください。
帝はどうすべきか?
ここで実資が「奥の手」を授けます。
「敦明親王を東宮にすることを条件として譲位する」というものです。
帝は、実資の顔は見える、声は聞こえる、そなたこそ忠臣だと喜ぶのですが……問題は、公卿たちがそう呼ばれても喜ばない状態のように思えます。
公卿たちには、人間としての最低限の倫理観すらないようにすら思えてくる。
それでも大事に至らないのは彼らが武力を放棄しているからでしょう。こうして、この時代に積み残された数多の課題は、暴力をまったく厭わない武者の世で解決へと向かいます。
『鎌倉殿の13人』では、源頼朝が忠義も何もない武者たちに呆れ果て、これからは忠義の時代にせねばならないとぼやいていたものでした。
そうはいっても、忠義が絶対的に根付くまでには、かなりの時間がかかるものでした。
「お上、きれいな月でございますよ」
そう膝に帝の頭を乗せて語りかけているのは、皇后の娍子です。
しかし帝はもう月すら愛でることができません。帝の耳には、愛する娍子の啜り泣く声が聞こえてきます。
「泣くな。朕が譲位する時は、敦明が必ず東宮となる」
そう語りかけますが、娍子は無欲で素直な女性に見えます。
権力など欲していない。ただただ、目の前にいる帝の愛だけを求めているように思えて……悲しい場面です。
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