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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第44回「望月の夜」】
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望月の歌
かくして皆が注目する中、太閤道長は歌を詠みます。
この世をば
わが世とぞおもう
望月の
かけたることも
なしと思えば
この歌を聞かされたあと、まひろ、彰子、妍子、威子、倫子の表情が映し出されます。アップになるのは女性だけです。
「そのような優美なお歌に返す歌はございません」
と実資が説明を続けます。
元稹(げんしん)が菊の歌を読んだとき、白居易は深く感じ入って返歌せず、元稹の歌を唱和した――これをふまえ、皆で唱和しようと呼びかけるのです。
ちなみに、この元稹と白居易は、6回放送の際、「漢詩の会」で道長が選んだ作品にも関係があります。
白居易が元稹に対して詠んだ漢詩を、まるでまひろへの恋心に重ねるように書いたものでした。
かくして男たちが望月の歌を唱和し出します。
男の声だけがこの歴史的な場面にあったように思えそうで、まひろの顔がここで多く映し出されます。
唱和せずとも、まひろは思い当たることがあったと思います。
今の帝となる皇子が生まれたあと、まひろはこう詠んでいたものです。
めづらしき
光さしそふ
さかづきは
もちながらこそ
千代もめぐらめ
まひろの目からみた道長は、銀の月光を浴びて光り輝いています。
これが「光る君」なのでしょうか?
まひろの胸には、二人の逢瀬の夜に見た月も思い出されています。
MVP:三后
いったい藤原道長の何がすごかったのか?
ひょっとして道長ではなく、周りの女性がすごかっただけではないか?
そんな風に思える場面でした。
それなりに一条帝と愛を育むことのできた彰子を除いては、不満げな顔であるところも圧倒的。
この二人の后の人生は、満ち足りたものかというと、そうではありません。むしろ家の都合で翻弄されてしまいます。
思えば道長はまさに「守株待兎(しゅしゅたいと)」であり、いわば二番煎じがうまくいくだけで、斬新なことはしておりません。
彰子の入内にせよ、定子という前例を踏襲しただけに思えます。文学で帝の心を掴む策にしても『枕草子』という先行事例がありました。
それを繰り返した結果が「三后」です。
実資も日記に記すほど異例のこととはいえ、どうしてそうなったのか?と分析すれば、道長自身が偉いからとは言い切れないでしょう。数多くの幸運が重なったといえる。
父が長寿で十分に出世したこと。藤原行成はこの時点で躓いてしまいました。
兄二人が夭折したこと。
そして倫子が安産体質で、男女それぞれ多く産み、彼女自身が長生きしたこと。当時はこのことそのものが奇跡的であり、実資もこの時点で躓いています。
ここまでは幸運でも、彰子のように娘が皇子を産み続けねば、この政治は続きません。
実際、完璧な成功例は彰子で終わってしまう。
こうして冷静に考えると、やはり道長ではなく、
安産体質で男子を産めた倫子と彰子が素晴らしかったのではないか?
と思えてくるのです。
それを絵として出してくるこのドラマは素晴らしい。
先週、まるで生きた雛人形のように思えた道長と倫子の夫妻。
しかし倫子は距離を空け、座り直しました。
そして今週の三后では、満足げであるのは一人だけ。
女性の幸せって、何だっけ?
これが幸せに見えるの?
そう問いかけているようにも思えます。
そしてここで望月の歌を詠む道長をどこか霞ませているのが凄まじい。
実際にすごいのは、道長でない誰かなのでは?
ここまで彼を上り詰めさせた女君たちだったのでは?
そう訴えかけてくるように思えます。
うっとりとしたまひろは、それを打ち消すようで、そうとは思えないのもおそろしい。
倫子目線に立ってみると、こうです。
公私混同不倫女ごときが何を満足な顔をしているのか?
道長に栄光をもたらしたのは倫子が産んだ娘たちであり、どう足掻いたって、まひろが叶うわけがない。
倫子が満月ならば、まひろは星。
月明星稀(げつめいせいき)――月の前では星の光など霞むだけです。
そしてそのまひろにせよ、来週は道長を見限るようにも思えます。
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【参考】
光る君へ/公式サイト