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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第45回「はばたき」】
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倫子は赤染衛門に依頼する
倫子は新しい猫を飼い始めたようです。これまた実に興味深い。
トランプ次期大統領が「子どものいない猫好きおばさん」という罵倒語を用いていました。西洋では魔女は猫を連れているとされました。
要するに、本来夫や我が子に注ぐ愛情を、猫相手に発散している惨めな女というニュアンスがあるのです。
倫子と猫の関係も、そうしたジェンダー観から読み解けるかもしれません。
『枕草子』をこれだけ扱いつつ、一条帝の愛猫は出てこなかった本作。
一方で倫子の猫好きは印象的です。
恋にさして興味がなく、猫を愛でていた倫子。彼女が道長に恋をしてからは小麻呂は見えなくなります。
彰子も、一条帝の寵愛を受ける前、猫の小鞠を抱いていました。
異性との愛がない間に、この母と娘は猫を抱いています。
倫子がまたも猫を可愛がりだしたことは、夫との関係性の象徴のように思えなくもありません。
そんな猫を抱いた倫子は、赤染衛門に依頼をしています。
『枕草子』のようにキラキラと描かれる、輝かしき道長物語を書いて欲しいというのです。
困惑する赤染衛門。倫子は「衛門の筆でこそ」と念押しします。
他にもっとふさわしい者がいるのでは?と赤染衛門が戸惑っていると、倫子はきっぱり「衛門がいいのよ」と言い切ります。
「衛門の筆で、殿の栄華を」
感極まった様子の赤染衛門。彼女なりに、藤式部や清少納言に対する引け目があったのでしょうか。
それにしても、日本には「史書」が欠落したのだと思わされます。
中国史だと正史があり、さらにそこに注釈もつけられてゆきます。
それと比較すると日本にはちゃんとした史書がなくて嘆かわしい……なんて書くと「反日」だと思われますでしょうか。
実は日本人自身が江戸時代までこう考えていました。
「歴史を学ぶために『史記』や『漢書』読んだ」というような言い回しが出てくるのです。
ただし、女性の筆による歴史物語も、日記も、日本史独自のものととらえればユニークですよね。
これも興味深い点ですが、江戸時代、国学を学ぶとなると女性比率が高まります。
和心が織りなす傑作が『源氏物語』であるとされたため、国学は女性も担うものとされたのです。
来年の『べらぼう』にも、そんな学ぶ女性が出てくるかもしれませんね。
道長の決意
かくしてまひろの娘・賢子は、太皇太后の女房たちに迎えられました。
呼び名は「越後弁」だと宮の宣旨から伝えられます。
祖父である為時が越後守であり、かつ左少弁(さしょうのべん)を務めた経歴からだとか。
賢子は心して仕えるとして優しい微笑を見せています。母親よりも人当たりがよさそうですね。
道長はそんな賢子を見つめつつ、苦しげな顔となりました。体調が悪いようだ。
道長は強引な手段でライバルを蹴落としてきた自覚がないわけでもなく、怨霊に怯えていたそうです。
栄養バランスも悪い生活ですから、ここまで病気をしなかっただけでも幸運の持ち主だったのでしょう。
ただし、ここ数回は疲労を隠せなくもなっており、宇治での療養あたりから生気が薄れたことも確か。
まひろが旅をする一方、道長は気だるげに何か書きつけています。
根本先生に指導されながら、字が上達しなかったという柄本佑さん。彼本人のせいでなく、道長が悪筆なので仕方ないところです。そんな道長でも日記は汚くとも、写経となると綺麗な字になります。
そこへ倫子がきて、体調を尋ねてきます。
すると道長が、唐突に切り出します。
「出家いたす」
唖然としている倫子。
「頼通が独り立ちするためにもその方がよいと思う」
「頼通のために出家するのですか?」
これはどういうことなのやら。父が子の後ろ盾となる方がよいことは、道隆と伊周父子をみればわかります。
いや、そもそも、倫子の立場になってみましょう。
広い土御門つきで婿となった夫。その三男三女を産み、育て、娘たちを入内させてきた。
長男がやっと軌道に乗るも、まだ危なっかしい。とはいえ精神的な余裕もできた。
倫子は夫との旅について考えているとも語りました。
そんな小春日和めいた人生の曲がり角で、夫が出家とは何事か。しかもあのまひろの旅立ちのあとに言い出すとはどういうことなのか?
これが北条政子相手ならどうなっていたことか……着衣に火をつけるくらいはしそうです。
体も疲れたから休みたいと語る夫に、休むなら現世の私のもとでそうして欲しいと懇願し、今際の際でもないのに出家などありえないと嘆く倫子。
これも『源氏物語』と重ねると怒りが増してきます。
光源氏は、紫の上の出家を止めるんですよね。しかし、男女逆の立場になると出家が強行できるようです。
「気持ちは変わらぬ」
優美な仕草で倫子に近寄り、そう語る道長。
「藤式部がいなくなったからですか?」
「何をいうておる」
「出家はおやめください」
「ゆるせ」
「お待ちくださいませ」
「太皇太后様に申し上げてくる」
ここで倫子は、道長がまひろにそうしたように、夫の袖に手をやります。
それを払い立ち上がって去る道長。まひろがしたことを、倫子にやり返しているように思えます。
まひろははばたき、道長は現世を捨てる
そのころ、まひろは須磨の浜辺にいました。
すべてから解き放たれたように走るまひろ。光源氏が悄然と歩いた浜辺を、まひろは羽ばたく鳥のように駆け抜けます。
幼い紫の上が雀の子を追いかけていたように、思い切り駆け抜けるまひろ。
本当の幸せとはこういうことではないか?
そう感じさせる解放の場面です。
一方の道長は、重々しい度胸の中、剃髪に挑みます。
暗い顔をしてうつむく倫子があまりに不憫。彼女は、愛という鳥籠にとらえられているように思えます。
圧巻のシーンでした。
俳優が髪を伸ばし、実際に剃刀を入れるとはなかなかないこと。今はウイッグも進歩しておりますので、そちらを選ぶ方が当然のことながら多いでしょう。
厳粛で身が引き締まるような気持ちがする一方、静かに涙を流す倫子があまりに哀れに思えてなりません。
かくして道長は出家を遂げ、厳かな僧形となりました。
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