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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第45回「はばたき」】
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親子、それぞれの道
寛仁3年(1019年)、歳があけ、叙位の儀の日となります。
ところが左大臣と右大臣がおりません。頼通が慌てて「どうしたのか!」と問いかけます。この儀式は左右の大臣がいないと成立しないのだとか。
頼通は、左大臣のもとへ参内しないわけを聞かせに行きます。
すると左大臣は蔵人頭を通して「格別の仰せがなければ参内せぬ」と、なんともアヤフヤな回答を返してきました。
頼通は父の元へ向かい、あてつけなのかと苛立ちをぶつけます。
「うろたえるでない!」
突如として頼通に凄む道長。左大臣と右大臣が来ないなら内大臣のお前が代わりを務めればよいと返し、嫌がらせに屈するな、叙位の儀も止めてはいかんと指示を出します。
一体何を言っているのか……。
これは史実における道長の言動を知るとさらに苛立ってきます。
道長はあまり真面目ではありません。
夢見が悪い、嫌な予感がする。そういった程度で参内をやめてしまう傾向があります。またその程度で休んだのではないかと思わず邪推したくもなるのです。
それにそういうことは、事前に言っておくべきことでは?
こういう試し行動って本当に嫌なものです。
自宅で執筆を終えたまひろがふと目をやると、空っぽの鳥籠が目に入ってきました。
思えばこの籠から逃げた鳥を追いかけ、まひろは三郎、後の道長と出会っています。
まひろが出仕すると、道長はその日の場面を檜扇に描かせ、まひろに贈ったものです。
そんな風に思いを巡らせているまひろのもとに、賢子がやってきました。
「宮仕えがしたい」
なんでも彼女は、夫を持ちたいとは思わずとも、21にもなって母に頼り切りという状況が情けないようです。
それは頼もしいことだと返すまひろ。
賢子は、太皇太后様にも覚えがめでたい母のツテを頼り、内裏か土御門の女房になりたいとのこと。まひろは承諾し、頼んでみることにします。
祖父の為時が、食事の席で、その話を聞いています。
孫の決意を聞いて喜んでいると、賢子から「じじ様は寂しくないのか?」と問われます。
寂しいことは寂しいと認めながら、案ずることはないと返す為時。亡き妻と子の菩提を弔い、静かに生きていくつもりだそうです。
するとまひろが、口を開きます。
「賢子がこの家を支えるのならば、私は旅に出たい」
長い間働いてきたのだから、好きにすればよいと答える為時。
なんでもまひろは物語に出てきた須磨や明石を見たいそうで、近場だから大丈夫だなと為時も認めます。
しかしそれでは終わらない。まひろは、宣孝が赴任した太宰府や、さわが亡くなった松浦にも行きたいと言い出すのです。
九州はさすがに遠い……為時もそう困惑し、若くもないのに大事ないのかと心配しています。
すると、きぬがやってきました。
「乙丸をお供につけます!」
彼女は乙丸の帰りを待っているとのことですが、乙丸も今やそう若くはないですよね……。大丈夫かな。
為時も呆れ果て、思い立ったら親の言うことなど聞かぬ娘だ、好きにするように、と答えるのでした。
「女房の仕事は楽ではない」とまひろが賢子に囁きかけると、「母上ででもできたのだから大丈夫」と返す娘。
確かに隠キャ女王のまひろより、賢子の方が適性ありそうですよね。
いずれにせよ、旅というまひろの選択は、唐突なようで、普遍的な日本女性ともいえるかもしれません。
昔の女性が遊ぶ名目で旅をすることは憚られます。何かそれらしい理由がいる。
便利なのは信仰です。
女性同士が集まって寺社を参る行事が、日本各地に残されています。あれは信心深さだけでなく、息抜きレジャー感覚でもあったのです。
旅行のみならず、女性が中高年になってから、何か始めることは往々にしてあります。
「ババアが何してんだよw」などと言わないでください。
彼女らはよき女性としてだけではない生き方を見出せる余裕ができたからこそ、趣味を堂々と始めることもあります。
確かに移動は危険なので、そこは心配ですが……乙丸だけでなく双寿丸もいればより安心なんですが。
獣、悪天候、疫病……生きて戻ってこられますように。
まひろ、倫子の依頼を断る
まひろは、彰子のもとに賢子を連れて行きました。
「世にも人にも慣れぬふつつかな娘なれど、どうかよしなにお導きくださいませ」
「確かに娘を預かった」
そう答えた彰子は「必ず生きて帰って参れ」とも付け加えます。
旅から戻ったら土産話を聞かせて欲しいと微笑み、餞別の品を渡す。彰子の気遣いに感謝するまひろです。
彰子は賢子を見つめ「母に似て賢そうな顔だ」と言うと、「私の良き話相手となりそうだ」と微笑みます。
どうやら賢子の女房生活は順調に始まりそうです。
まひろは道長と倫子夫妻のもとにも挨拶に来ました。
倫子から今後の身の振り方と心持ちを聞かれ、もはや主人である太皇太后は立派になり、役に立てることはないと返答。
そして、物語に出てきた須磨と明石、さらには太宰府まで見たいと続けます。
倫子も、道長に二人で旅に行きたいと語り合っていた話で応じますが、夫の反応が鈍い。
道長はどうにも、まひろのことが気になるらしく「太宰府に使いの船が出るから、それに乗っていけばよい」と言います。
するとこの後、まひろは廊下で倫子に呼び止められます。
「あのこと」を考えてくれたか?と迫ってくる。道長を礼賛する物語の執筆ですね。
心の闇に惹かれる自分には、『枕草子』のように太閤について書くことは難しいと返すまひろ。
「あらま」
そう返す倫子。
道長の依頼は聞けて私は聞けないのか! そう苛立ちそうになるかもしれませんが、作風を理由に断られるのは筋が通っているとも言える。
頭を下げるまひろに理解を示し、旅に出るし仕方ないと納得しています。
これまで世話になった礼を言ってまひろが去ろうとすると、くれぐれも気をつけて旅をするようにと告げる倫子。
彼女は、まひろと道長の関係をうすうす知っています。
それでもそのことでまひろに対して怒りを見せない器の大きさがあります。どこかギスギスしていた明子とは異なり、身分が違うという意識もあるのかもしれません。
まひろの役目は終わった
まひろは完成した『源氏物語』を見せ、「母のしてきたことよ」と賢子に託します。
「形見みたいに言わないで」と賢子に言われ、「どう思ったか帰ってきたら聞かせて欲しい」とすかさずフォローしています。
つまり、この完成原稿を道長はまだ読んでいません。作者一人しか知らない。
まひろが旅立った後にこれを読む道長の顔を私も見てみたいものです。
そこへ道長がやってきました。
賢子は母の作品の重みを感じつつ、去ってゆきます。
道長が、御簾をおろし、綺麗な所作で腰を下ろす。そこまではよいとして、じっとりした目線をまひろに投げかけます。
「何があったのだ」
「私の役目は終わったと申しました」
「行かないでくれ」
そう懇願する道長に、まひろは「船に乗っていけと仰せになった」と返します。
これ以上手に入らぬお方の側にいるのは何なのか。
私は十分にやった。
その見返りも十分にいただいた。
道長様には感謝してもしきれない。
ここらで違う人生も歩みたくなった。
そうしみじみと説明します。
さらに私は去るけれど、賢子がいると言います。そしてまひろは、ようやく明かすのです。
「賢子はあなたの子です」
道長の目が泳ぐのがなんとも言えませんね。
頭を下げつつ「賢子をよろしく頼みます」と託すまひろ。道長はここでまひろの袖を掴み、すがりつくように言います。
「お前とはもう会えぬのか?」
「会えたとしても……これで終わりでございます」
伸ばされた道長の手をふりほどき、まひろはそう言い切り、決然と去ってゆくのでした。
取り残され、愕然とする道長。
さて、ここで、このタイミングでやっと賢子の父親について、まひろが道長に打ち明けました。
これには重大深刻な理由があると思えます。
もしも実の親子だと知らなければ、道長がまひろの形代として、賢子を召人(めしうど)にする可能性があります。
『源氏物語』では、光源氏が藤壺中宮の面影を求め、その近親者を求めています。
「宇治十帖」では、薫が八の宮の大君を恋い慕い、その妹である中の君や浮舟を恋い慕います。
そうはいっても、所詮は本命の面影を求めているだけで、嫌な割り切りがあるのが光源氏と薫です。光源氏はそれでも紫の上を真摯に愛するからよいのですが、薫はそうとも思えません。
まひろが道長に手が届かなかったのはなぜか?
それは身分でしょう。『源氏物語』では、高貴な男君が女君を血筋で値踏みしています。
どんなに愛くるしく、素晴らしく、美しかろうが、浮舟くらいの身分の女君は「正妻にはできないけど、かわいい愛人としてちょうどいい」と思われてしまう。
このドラマは『源氏物語』の展開解説があまりありませんが、知っているのと知らないのでは、全く別の世界が見えてきます。
「宇治十帖」の展開を知れば、そりゃまひろもこうなるだろうと腑に落ちます。
浮舟が宇治川に身投げして解放されたように、まひろもそうしたいのでしょう。
かくしてまひろは、旅に出ます。
浮舟は入水したけれど、まひろは地面を踏み締めて歩き出します。
牛車が通る都の街並みが、まひろ目線で描かれるのが実に興味深いのでした。
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