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『光る君へ』感想あらすじレビュー第45回「はばたき」なぜアナタの子だと打ち明けた?

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『光る君へ』感想あらすじレビュー第45回「はばたき」
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不健全な摂関政治

土御門の道長のもとに、公任、斉信、行成がやって来ました。

寂しいことこの上ないとぼやく斉信。

一方で公任は、50過ぎまで一人も欠けずにやってこられたことは感慨深いと言います。

道長が人生の儚さを語ると、行成がたまらず袖で涙を拭います。

行成は出家で道長の心が楽になればよいと思っていたけれども、こみあげてきてしまったそうです。

昔も今も行成は道長一筋だと斉信。

行成は何のお役にも立てていないと言います。いやいや、能筆ですし、活躍していたじゃないですか。

「何をいうか。お前には随分と助けられた。いくら礼を言っても足らぬ。いろいろとすまなかった」

道長は行成を真っ直ぐに見てそう言います。

公任も俺まで泣けてくると言い出しました。

道長は人たらしですね。倫子や明子にもそれを発揮して欲しいものですが……。

すると道長は、頼みがあると言い出しました。

頼通への力添えを頼むのです。

左大臣も右大臣も脚を引っ張るばかり。頼通は心優しく、肝が据わっていないと評しています。

公任はその言いようでは、心は全く出家していない、頼通の政を後ろから操るためかと納得しています。

道長は否定するものの、それでよいと答えます。むしろ力が湧く、もう一踏ん張りできると公任は言うのです。

かくしてこの三人は、廊下で頼通とすれ違いそうになり、頭を下げます。

頼通は道長に左大臣顕光のことを相談しています。

老齢で能力が衰えているのに余計なことをして、陣定を長引かせるとか。皆うんざりしているので、左大臣を辞めさせたいとのこと。

しかし大臣は本人が言い出すか、身罷るしかない。このままではまずいと不満げな頼通。

坂東武者なら宴に誘い出して命を奪うこともできますが、平安貴族はそうはいきません。呪詛もリスクがある割にはノーリターンです。

そこで道長は、わからないのかと頼通に促す。

失態のたびに皆の前で左大臣を厳しく注意すればいたたまれなくなってやめるかもしれないと言い出します。さすがに躊躇する頼通。

「それが政だ! そのくらいできねば何もできぬ」

そう叱り飛ばす道長。

そんなパワハラ伝授が政治ですか。ハラスメント気質になることが肝を据えることですか。

そんなことだから政治が行き詰まるのでは?

 


太宰府での再会

まひろはついに太宰府へ到達しました。

宋人も行き来するこのセットは、なんと『清明上河図』をもとにしているとか。確かに平安京とは異なります。

宋の都・開封を描いた『清明上河図』/wikipediaより引用

このまひろの太宰府行きですが、『源氏物語』とも関係はあります。

メインプロットから外れた「玉鬘十帖」では、ヒロインである玉鬘が乳母について太宰府にまでやってきているのです。

そこでオラついたストーカー豪族・大夫監につきまとわれます。

作者の耳にも遠国の武士について噂は届いていたのでしょう。

双寿丸のこともあり、まひろは武者への興味があったのかもしれません。

宋人は実資が喜びそうな薬剤や、化粧品を売り捌いています。

そこでまひろは、見覚えのある顔に目を奪われます。

周明でした。

 


MVP:まひろ

道長は「ソウルメイト」という不思議な言葉で言い表されていたこの作品。

それがこういう結末を持ってきました。

道長に対し、ああも残酷な態度を見せるまひろは、一体どういうことかと困惑させられるかもしれません。

しかし「宇治十帖」とあわせて読めば理解できるように思えます。

男女の関係は浅ましいという『源氏物語』に通底する価値観が今回叩きつけらてきます。

彰子は賢子をみて「よき話し相手になりそうだ」と期待を見せました。

女同士はシスターフッドを発揮し、性的に関係しようがなかろうが、人間関係を構築できます。

それがなまじ男女間となると、男性側が女性側を「モノにできるか」「自慢できるか」という判断基準が入り込む。

道長が賢子を見る目線は娘を見るというよりも、まひろの形代として新しい恋を展開できないことへの失望感があるようにも思えてしまったのです。

会話して気が合うかどうか。

相手を理解できるか。

そうした要素は二の次となり、まず性的な魅力があるかどうか、ステータスが自分に釣り合うかどうか、そんな値踏みするまなざしで女性を見ます。

相手の嫌がる気持ちなど無視だ。

この状態をイメージさせる秀逸な絵がありますので、どうぞ。

『草上の昼食』エドゥアール・マネ/wikipediaより引用

マネの『草上の食卓』です。

男二人が着衣なのに、女は全裸で座っています。

そして男たちは「この女どう?」と値踏みしているように思える。

マネは意図していたとは思えませんが、これぞ女体を通貨にして盛り上がる、ホモソーシャルそのものと思えるのです。

 

ホモソーシャルを生き抜き、自由を掴め

薫と匂宮は、こんな調子で浮舟をさんざん値踏みするんですよ。

浮舟本人の感情など無視して、ステータスシンボルとしてどうか、そこばかり気にして奪いあう。

そんな男同士のステータスシンボル扱いされて、女が幸せになれるかどうか?

無理に決まっているんですね。

ただ、女性側もその価値観に乗ってしまうこともありまして。

浮舟がもしも入水時に亡くなっていたら、そこまで踏み込めません。

救出されて尼に匿われることで、この嫌な価値観が見えてきます。

浮舟は男性が嫌で仕方ないのに、尼にせよ、僧都にせよ、周りは「まだ魅力があるのだから男とくっつけ」と促してくる。

拒む浮舟を「もののけに取り憑かれている」と決めつける始末。

「宇治十帖」の世界観は、まさしくこの男目線の世界観がいかにくだらないか、描き尽くしているのです。

浮舟は、そんな男の獲物にされることを拒んだからこそ入水し、出家するのに、それが理解されない。

それでも浮舟は嫌われる勇気を貫き、薫との再会を断固拒むところで物語は終わります。

「宇治十帖」を重ねると、今回のまひろと浮舟の姿がピッタリ。

浮舟が薫と匂宮に対していかに絶望し、男に頼る人生とキッパリ決別するのか、細やかに描かれています。

そして薫や匂宮、浮舟に寄りつく男どもの身勝手さも容赦なく暴かれている。口では綺麗事をウダウダいうけど、お前らのゲスな本音はわかっている!

そう突きつけるのが「宇治十帖」です。

私は真剣に「宇治十帖」は啓発教材になるのではないかと思います。

恋愛のために命すら捨てようかと迷う方は是非とも読んでいただきたい。

浮舟入水後、薫と匂宮がひとしきり悲しんだ後、「愛人にするにはちょうどよかったのにな」と割り切る下劣な心情が描かれています。

こんな連中のために命を落としてたまるか! そう思えることでしょう。

そして「宇治十帖」の最終巻の手前は「手習」。初歩的な学習の初めという意味です。

恋愛に没入するより「手習」をしてみたらどうか。そう紫式部は自己表現の勧めをしているようにも思えます。

浮舟はその名の通り、流される意志の弱い女君だったけれども、「手習」のあたりから自己主張に開眼し、自らの人生を生き直してゆきます。

思えば『源氏物語』は、愛ゆえに短い生涯を終える桐壺更衣の悲劇から幕を開けました。冒頭で男の愛に命を奪われる女を描いたのです。

それが「夢浮橋」では、男の愛をキッパリ拒んで生き直す、そんな女の姿を描いて終わります。

これが『アナと雪の女王』の千年以上前に書かれていたとは、凄まじいことだと改めて思います。

ありのままに生きる喜びを、紫式部はとっくに見出していました。

今回、ある老婦人のことを思い出しました。

若くして結婚し、大勢の子を産み育てた彼女は子とも孫とも同居せず、一人で暮らしていました。日々、庭の花の手入れをすることが楽しみのようです。

そんな彼女に息子は語りかけました。

「母さんがこんなに花が好きなんて知らなかったな」

すると彼女はしみじみとこう返しました。

私はずっと花が好きだった。

こうして育てるのが夢だった。

でも夫と子どもの世話でそんなことすらできない。

こうして長生きして一人で暮らすようになって、やっと私は花を愛でる人生を取り戻した。

今が一番楽しいのだと。

ずっとそばにいて見てきて母のことを何も知らなかったと、息子は愕然としたのでした。

そしてこうして長生きして、一人で趣味に生きる時間を取り戻したことこそ、母の勝利だと感じ入ったそうです。

しかし、歴史は、社会は、そんな老女の勝利宣言に耳を傾けることはありません。

老女に幸せを規定するにせよ、夫がいるから、子がいるからだと思いたがる。

良妻賢母こそ女の幸せだと決めつけたがる。

しかし果たしてそうなのか?

須磨の浜辺を駆け抜けるまひろと、涙を落とす倫子の姿からは、そのことへの問いかけを感じます。

社会的なステータスでいえば、三人の后と、摂政の母である倫子の方が上です。

しかし、幸福度ではどうでしょうか?

来週の「刀伊の入寇」はなかなかぶっ飛んでいます。

とはいえ、今回で『源氏物語』に通底する価値観を叩きつけたからには、自由な描き方をする余裕もあるということでしょう。


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文:武者震之助note

【参考】
光る君へ/公式サイト

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