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【『どうする家康』感想あらすじレビュー第1回「どうする桶狭間」】
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どうする兵法
兵法――戦場のことをきっちり把握できているか?
それは兵数の把握、高低差、兵糧や物質の認識を脚本の段階で踏まえているか。この点でわかります。
『麒麟がくる』では、斎藤道三が序盤から兵の数を把握できなければ負けるとして、数珠玉の数を把握してみるよう、光秀と我が子・義龍に語りかけていました。
桶狭間でも、信長が兵の数を把握することで勝機を見出していました。
物流を断つことで勝利を狙う場面もあります。
『鎌倉殿の13人』は、北条義時が米の収穫量から動員兵数を算出していました。源義経や畠山重忠は、戦場の高低差をふまえて戦っていました。
兵糧が足りない源平合戦ならではの悩みも、きちんと出てきました。
今回の桶狭間で、高低差を踏まえた戦いかどうか、そこを注目していました。
しかし、まるで無視。兵糧を運び込む重要性も説明がない。
ノリと雰囲気。タップだけでクリアできるスマホゲームのような兵法を展開するようです。
歴史ものの醍醐味がまるでない……。
『孫子』くらい把握しておきましょうよ。
どうする武士道
『鎌倉殿の13人』は、武士道の萌芽と、その有無が運命、そして日本史を変えたと描きました。
【承久の乱】前夜、北条義時は後鳥羽院の狙いは己の首一つであると悟ると、自ら差し出そうとしました。それを姉である政子が察知し、それでよいのかと御家人たちに忠義の所在を問うことで、彼らは奮い立ちます。
義時は京都へ向かうことはないものの、長男である泰時がわずかな手勢とともに向かってゆきます。
執権が我が子を危険にさらす覚悟を見せたことで、御家人たちもついて行くのです。
そんな中、三浦義村はそれでも後鳥羽院自ら出馬すれば勝敗はわからないと睨んでいました。
結果的に後鳥羽院は出撃しません。
泰時の勇気と責任感。それに対する後鳥羽院の卑劣と無責任が勝敗を分けたと描いていたのです。
勇気と責任感こそが武士道であると、あの作品では示しています。
それを踏まえますと、この作品の家康は武士道を理解していない。
武士道はおろか、責任感すらわかっていない。
古今東西、戦場で最悪の罪は敵前逃亡です。
指揮官がそうしたとなれば、問答無用で極刑相当であり、かつ史書に最低の愚か者として記録されます。
戦国時代ならば、あんな臆病な将は部下に寝首をかかれてもおかしくありません。
家康に何か恨みでもあって、こんな情けない姿にしているのですか?
ウクライナのゼレンスキー大統領は、Tシャツ姿でテレビカメラの前に立ちます。あれは古典的なアピールです。
いつでも臨戦体制であり、かつ自分は戦線から去ることはない――そう示しているのです。
イギリスのヘンリー王子は、戦場での敵兵殺害を自伝に記載し、批判を浴びました。その是非はさておき、王族だからこそむしろ戦場に立つことは、“ノブレス・オブリージュ”――高貴なる者の責任の取り方であるとされます。
人の上に立つ者は、我が身がかわいいからと怯えたり、逃げ出そうとしてはなりません。
それなのに家康はみっともなく逃げ出す。
瀬名も送り出すとき、武運を祈るどころか心配するばかり。
こんな情けない姿が武士道ですか?
『青天を衝け』と同じことを繰り返しています。あれは史実準拠とはいえ、徳川慶喜が戦場から逃亡したさまをドタバタで誤魔化していました。
鳥羽・伏見の戦いで注目すべき慶喜の大失態~幕府の敗北は当たり前?
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2023年という歳に、リーダーがみっともなく逃げ出す様を笑えるように演出する。そんな大河を流す。
これがどれだけ情けないことか、真剣に考えてみてください。
どうする歴史意識
このドラマの隅々から、作り手は歴史に何の思い入れもなく、むしろ、いやいや作っているのでは?ということが伝わってきます。
ならばなぜ引き受けたのか……。
どうする期待感と距離感
否定的で厳しいことを書いてきましたが、作品の見方は人それぞれです。
今回の『どうする家康』があまりに辛く、私に賛同してくれる方がいる一方、「めちゃくちゃ楽しかった!」という方もいるでしょう。
ファンの皆様は今後、大手メディアいずれかのレビューをご覧ください。
需要が続く限り、いくらでも供給はあるはずです。
◆『どうする家康』古沢良太氏と『鎌倉殿の13人』三谷幸喜氏、「奇才」2人の類似点(→link)
◆新NHK大河「どうする家康」の懸念材料…“天才”脚本の軽妙テンポと笑いにオールドファンの壁(→link)
◆松本潤「どうする家康」でNHKが狙う“ALLジャニーズ時代劇”(→link)
こうした好意的記事の中に、試写の段階で本作を褒める記事を見かけました。
そこで私は改めてショックを受けました。というのも、こんな趣旨のことが記されていたからです。
「陰惨で陰謀だらけの『鎌倉殿の13人』のあとだから、さわやかで明るい世界観がいい」
一瞬、意味がわかりませんでした。
歴史作品の魅力は陰惨で陰謀まみれだからこそ――本気でそう思っていた私は、他の方も少なからずそうした見方をしていると考えていました。
それがよもや「爽やかで明るい」ものを求めていたなんて……。
それはこうした記事からもわかります。
◆『鎌倉殿の13人』、この名作ドラマの本質は「オンベレブンビンバ」というセリフにあると言えるワケ(→link)
要するに、ファミリードラマだからおもしろいという論旨ですが、それは書き手がファミリードラマへの理解度が深いからではないかと思った次第でして。
こちらもそうです。
◆時代劇の新時代到来か 『鎌倉殿の13人』から続く新作ラッシュ、テーマは「青春」(→link)
2023年1月3日に放送された正月時代劇『いちげき』は、民衆の力や、身分制度の打破がメインのテーマに思えました。
けれども頭の中が青春でいっぱいならば、そう捉えられてしまうんだな、と。
一方、法の支配への関心が深いと、『鎌倉殿の13人』もこんな風に読み解けます。
◆『鎌倉殿の13人』は「法の支配」への壮大な前振り(→link)
人というのは、自分に近いものに親近感を抱くとされます。
私は『麒麟がくる』と『鎌倉殿の13人』に愛着を強く持っています。
それは出来の問題だけではなく、思考回路がつかみやすい、距離の近い人物が登場していることも一因なのでしょう。
それが誰であるかはさておき、今年の大河はどうか?
もしかしたらこれが多数派なのでしょうか。
キャッチーで「ネットの声」も盛り上がりそうだし、昨年からの勢いを活かして、そこに訴求していくかもしれない。
私としては、こんなノリなら昭和平成の学園もので十分でしょ、と思ってしまいますが、そうではない方も多いのでしょうか。
さぁ、どうする視聴者のみなさん。
2023年大河ドラマ直前予想『どうする家康』はどうなる?消せない懸念
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【参考】
どうする家康/公式サイト