2022年『鎌倉殿の13人』で大竹しのぶさんが演じ、2023年『どうする家康』では古川琴音さんが演じた、「歩き巫女」と呼ばれる者たちです。
鎌倉では、何やら怪しげな予言をしたかと思ったら、三河では、信玄の手先となって家康を追い込む。
いったい彼女らはどんな存在だったのか?
ドラマと当時の宗教観を照らし合わせながら考察してみましょう。
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実朝に「雪の日に出歩くな」と告げた歩き巫女
2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、平安末期から鎌倉時代初期という時代背景を世界観に組み込んだ作品でした。
「迷信を信じる」という価値観を否定せず、夢枕のお告げや輪廻転生も言及。
大竹しのぶさんが演じる「歩き巫女」は、まさにこうした要素を体現する人物でした。
劇中では、双六中に暗殺された上総広常の生まれ変わりである北条泰時に、双六をすると悪いことが起きるのではないか、と告げるシーンもあり、
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妻を愛せない源実朝の悩みを見抜いたときは、次のようなセリフが話題になっています。
「お前の悩みはどんなものであってもそれはお前一人の悩みではない。遥か昔から、同じことで悩んできた者がいることを忘れるな」
作中でも印象的な台詞だったので、覚えている方も多いでしょうか。
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そんな実朝に「雪の日は出歩くな」と警告していた巫女。
彼女の予言通り、実朝は雪の降る鶴岡八幡宮で、凶刃に斃れてしまいました。
しかし彼女は、実朝の死後に誰彼構わず「天命に逆らうな」と語りかけていて、ボケた婆さんの戯言のようにも受け取れましたが、果たしてそれだけの話だったのか?
実時の死で混迷を極めるさなか、主役である北条義時は政権の頂点に立ちます。
そんな義時を倒そうとした後鳥羽院は、返り討ちにあうようにして権力を失う。
そうした歴史の流れを天命と捉え、北条に逆らうべきではないと警告していたとすれば、巫女こそが天命を知っていたとも思えてきます。
兎にも角にも、中世らしい宗教観や運命を示す役割を担っていた――それが『鎌倉殿の13人』における歩き巫女という役でした。
信濃から来た巫女・千代の正体は?
一方、2023年大河ドラマ『どうする家康』はどうか?
一向一揆の発端となる本證寺に、謎めいた歩き巫女・千代が居ました。
家康に刃向かう武将を誘惑しながら、一向宗の門徒を煽る、いかにも怪しげな存在。
その正体は、武田信玄が放った間諜で、モデルは謎多き人物・望月千代女とされます。
望月千代女は、武田領で神職を務めたとされます。
特定の神社に所属して活動するのではなく、「巫女」に「歩き」という属性が加えられ、怪しげな役割が与えられる。
実際、当時は、特殊技能を持ち、国境をまたいで活動する者が諜報活動を行うこともありました。
例えば、芸人や医者、あるいは連歌師など。
巫女もそうした活動ができると見なされ、望月千代女伝説が形成されてゆきました。
2020年大河の『麒麟がくる』にも、こうした存在が出てきます。
芸人を率いる伊呂波太夫や、明からの最新医術を習得した医師の東庵と、その弟子・駒。
あるいは表向き神出鬼没の農民とされた菊丸がそうですね。
中には性的なサービスを行う者もいて、伊呂波太夫が松永久秀から口説かれた場面では、そんな関係がそれとなく匂わされました。
なんだかんだで、中世は巫女の存在が本気で信じられていました。
しかし中世から近世へ向かうころとなると、迷信だとして信じない者も出てきます。
リアリストの信玄はその代表格であり、むしろ迷信を逆手に取っていました。
武田家は、その人気から、後世の誇張が激しい家です。
「武田家には、とにかくスゴイ何かがあった!」
多くの人々からそんな需要が湧き上がるからこそ、伝説も供給されてゆく。その中に望月千代女もいた。
歴史ファンならそう大興奮……と言いたいところですが、いささかおかしいことがあると思いません?
巫女というシャーマニズムの担い手が、エリート仏僧である本證寺の住職・空誓上人のもとをウロウロするものだろうか。
寺でも巫女舞ぐらいやるでしょ!
踊りのシーンからそう思いたくもなりますが、果たして実際はどうだった?
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