こちらは4ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【『どうする家康』感想あらすじレビュー第30回「新たなる覇者」】
をクリックお願いします。
どうするプレゼントのセンス
綿布がお市(というか柴田勝家)から、砂金が秀吉から届きました。
「綿布を贈るお市様、気取らなくてさすが!」
「砂金とかマジで成金でサイテー!」
贈り物に対して、こんなケチをつける徳川家臣団はどういう感覚なのでしょうか。
徳川を本気で味方につけよう、ワシに味方した方が得だぞ――と本気で考えたら自身の勢力・財力を誇示するのは自然なことであり、砂金でもさほどおかしくないでしょう。
そもそも輸送コストを考えたら綿布では割に合わないのでは?
戦国時代に送料無料のAmazonはありません。
あの布きれを贈るだけでも結構なコストがかかり、その手間を考えたら綿布では愚かにも見える。
長距離輸送の安全確保は、治安が確立されて初めて可能なこと。徳川が泰平がもたらした成果であり、それを蔑ろにするかのような表現にも思えてきます。
綿布ではなく、せめて漢籍でも送ればよかったのではありませんか。
当時は貴重なものもありますし、
「おお、『貞観政要』ではないか。わしが好きだと覚えていてくれたのか」
と家康の心に訴えかけたら、砂金ではない説得力もきちんと見えてくるでしょう。
神は細部に宿る――とはよくいったものです。
秀吉の贈り物にしても、砂金ではなく銀にでもしたほうが良かったかもしれません。
砂金は技術なしに取れるので、早くから流通していますが、銀はそうではない。
戦国時代は銀が採掘できるようになり、資金源として俄然注目を浴びました。特に明で重宝され、秀吉が攻めた毛利も銀山が有名です。
『麒麟がくる』の序盤では帰蝶の砂金。そして本作後半で銀を重要視しておけば、時代の変化も読み取れました。
技術革新、支配地域の拡大を示しながら、朝鮮出兵の伏線になったかもしれないのに……いや、わかっています、そんな高望みをしてどうする。
どうする鉄砲
鉄砲を撃つとなると、高所を探します。
単純な話で、上から下へ撃った方が当てやすく、逆は難しい。
そこを踏まえますと、斜め上に向けて、バンバン発射する城攻めの描写はやはりセンスがない。
やはり本作は、兵站の重要性を考えていませんよね?
勝家とお市が北ノ庄城に籠もり、秀吉の軍に囲まれる――そのシーンを見ていて思い出したのは四面楚歌です。
あれは鉄砲なんてない時代の話ですが、楚漢戦争最終盤の垓下の戦いで、漢軍は楚軍の項羽を包囲しました。
劉邦の軍師である張良は、楚の歌を奏でることにします。
それで項羽は精神が折れて、敗北した。四面楚歌とはこの出来事を由来としています。
そういう高度な戦術を、このドラマが使うわけもない。
そして、ふと思いました。まさかこれ、大坂の陣で、家康が天守閣に大砲を撃ち込んだ話の使い回しじゃないですよね。
阿月と鳥居強右衛門とか、本作は先回りした話が好きなので。
どうする家具のない家
このドラマはセットが妙にだだっ広く思える。
なぜか?
家具がないからでしょう。中でも屏風がないことが決定打になっています。
当初LEDウォール使い回しで誤魔化そうとしたものの、さすがまずいと思ったのか、セットを使うことにしたようです。あるいはVFXチームが納期を守れなくなっているのかもしれません。
しかし、そのセットにせよ準備にかける時間も何もかもが足りないから、どうしても出来栄えが悪くなる。
朝ドラ『らんまん』の峰屋(主人公実家)は大きな酒屋らしくちゃんと作ってあるのになぁ。
自慢のVFXって結局何だったんでしょうか。
◆VFXアナトミー最新のバーチャルプロダクションとグリーンバック撮影を併用した大河ドラマ『どうする家康』(→link)
どうする筆の持ち方
ショックを受けた瞬間、コロコロと筆を転がす家康。そして音楽がピロピロ流れる……。
この筆の落とし方がおかしいんですね。
落とした時の筆の向きが、ペンや鉛筆を持っていたような角度でして。それに筆を落としたら墨が紙につくのに、それもない。
筆は立てて持ちます。ゆえに気が抜けて横にコロコロと転がるというよりも、垂直にボタっと落ちて、転がらずにバタンと倒れる。その方が自然です。
他に、もっとマシなやり方があります。筆を持ったまま硬直してしまい、墨がポタポタとこぼれて書き損じてしまう。
中国や韓国時代劇では見かける動揺の表現ですが、筆の持ち方すら再現できない大河ドラマとは何なのでしょう。
NHK全体の問題ではないんですね。『らんまん』はちゃんとした筆の持ち方をしていますから。
どうする白兎
ところで、家康が白兎と呼ばれていたことを秀吉は知っていたんですか?
信長と秘密の呼び名だったのではない?
果たしてこの呼び名はイケてるのでしょうか。
こんなもんまで作っちゃって。
『鎌倉殿の13人』でこういうプライズがあれば欲しかったかもなぁ。
どうする「秀吉はわしが倒す」
瀬名が死んだから「信長を倒す」。
お市が死んだから「秀吉を倒す」。
女が死んだら本気出す!……って、家康、あんたサイテーだよ!
ここでピロピロしたピアノが鳴り出すのが、決定的にバカっぽくて気が抜けました。
女の死を男の奮起材料にするパターンは「冷蔵庫の女」と呼ばれて古臭いうえに有害、ミソジニーの典型とされています。
女がらみの私怨でしか動けない男。最低としか言いようがありません。
そんな家康にはこの言葉を送ります。
主は怒りを以て師を興(おこ)す可(べ)からず。此れ国を安んじ軍を全うするの道なり。『孫子』「火攻篇」
主君とは怒りの感情で軍を動かしてはならない。これぞ国を安んじ、軍を全うするための道である。
今川義元から教わらなかったんですか?
※続きは【次のページへ】をclick!