鎌倉殿の13人感想あらすじ

大河『鎌倉殿の13人』見どころは?残酷な粛清の勝者・義時の悪辣描写が成否のカギ

こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
大河直前大予想
をクリックお願いします。

 


一体どこの誰が北条義時を好きになれる?

改めて公式サイトを見てみると、なんとひどいことをするのかと正気を疑います。

まず主人公が北条義時という時点で酷い。

しかも公式ビジュアルで、カラフルな色の布と微笑んでいるあたりが邪悪極まりなくてただただ、酷い。

『麒麟がくる』は、明智光秀を麒麟――すなわち儒教道徳の仁をもたらす人物として描くことで、不忠を打ち消すという超絶技巧を施したわけですが。

義時はそうでもなさそうだ。

ありのままに、あの華麗な布が示す者どもを踏みつけて、あの笑みを浮かべるのだとすれば、究極の悪ではないかという気がしてくる。

そしてこれこそ、日本版『GoT』の最終章に入ったからだと確信できる要素ではあります。

既に『GoT』は2010年代のトレンドですので、新たな模索が始まっています。

日本も次の段階に移りたい。

そのためには、義時を主役に据える意味があったと思えるのです。

鎌倉幕府のことをなまじ日本人は歴史的知識として知っていて、感覚がむしろ麻痺していると思う。

しかし改めて一歩引いて心を真っ白にしてみてみると、ここまで酷い政権成立というのはなかなかないことだと思えます。

鎌倉幕府とは、世界に向けて自信たっぷりに押し出せる逸材です。

「『鎌倉殿の13人』というドラマは、日本にリアル『GoT』、しかもラニスター家が勝利する史実があったと描くんだよ!」

海外でこうアピールをすれば、きっと興味津々になる人は少なからずいます!

そう、『GoT』におけるヒール枠に、ラニスター家という一族があります。

この一族は婚姻関係を利用してのしあがる。

サーセイという娘を王家に嫁がせ、王弟の一族までも滅ぼし、気が付けば乗っ取っている。

歴史的にこうした事例はあります。

東洋ならば「外戚」という言葉があります。王なり皇帝の妻となり、子を儲ける。そして次の為政者の母として権力を握る。

三国志』でもおなじみの概念ですね。

『GoT』はファンタジーであり、キリスト教圏ではなかなかない、外戚という概念を取り入れています。

ただ外戚といっても、中国では対策がとられています。

国政を見出した呂后の事例を踏まえ、時代によっては太子の生母を殺す慣習(子貴母死)まで用い、阻止しています。

文昭皇后甄氏
美貌で知られる文昭皇后甄氏はなぜ夫の曹丕から死を命じられたか 謎多き曹叡の母

続きを見る

朝鮮王朝でも外戚の台頭が「勢道政治」と結びついたとされ、しばしば批判の対象とされます。

しかし、母の一族がまんまと主君を乗っ取り果たした事例となれば、それこそ日本、この北条氏ならでは!

そしてそのことこそ、恐ろしいことであり、悪夢そのもの、多くの視聴者の背筋にゾッとする生理的嫌悪感をもたらすこととなる。

家父長制が確固として成立して以降、人類はいかに女が愚かで、女系に正当性がないか、苦しい理屈で証明しようと躍起になっていました。

男のみが持ち得る何か……Y染色体が発見されて以降はこれが定番ですが、そんな何かがあるがゆえに尊いと言い始める。

ま、その妥当性はこの際どうでもいい。

問題は、女系がまんまと王朝を乗っ取ること――これを実現したからこそ、『GoT』におけるラニスター家は、おぞましさの極地にあるのです。

リアルでそれを実現した北条氏とは、一体どれほど、世界史的に見ておぞましいのか?

そのおぞましき政子の弟・北条義時とは?

究極の悪となり得る要素がそろっています。

彼らが周囲のものに対して慈悲深いということは、この際忘れてください。

身近な相手への親切心と、政治的処断は別物。

冷酷な政治家も側近には親切であったという逸話はありふれたものです。

そしてその周囲へ見せる優しさこそが、まさしく最低最悪の恐怖へと視聴者を叩き落とすかもしれない。

人間は悪とは何かを考え、古くは迷信、近代以降は優生学を用いて、先天性の異常や何やらを見出そうとしてきました。

悪党とは我々善人はまるで違う、化け物だと。

しかし、どうにもそうではない。

悪党にも友愛がある。敵兵は戦友を救おうとするときにこそ最も勇敢になる。あいつらも結局は人間なのだ……21世紀現在、そこまで解明されています。

なにが人を悪とするのか?

北条義時とその周囲は、何によって悪辣なことに手を染めてるようになってゆくのか?

人間が悪に染まりゆく過程を観察する。

そういう喜びがあることを知らしめてこそ、『鎌倉殿の13人』は成功します。

 


新選組や幸村とは違う勝者

日本人が大好きな人物である真田幸村は、なぜ2016年まで大河の主格として取り上げられなかったのか?

これには日本人のメンタリティがあると説明されたものです。

大河の一作目は井伊直弼が主人公です。

複雑な幕末を生きた、非業の死を遂げる人物が主役。そうした挑戦的な題材から、高度経済成長期へ向かうにつれ、一国一城の主となる出世ロマンが好まれるようになってゆきます。

いつしか大河はビジネスマンの生き方にマッチした、明るく末広がりなものであることが定番とされるようになりました。

しかし、城を持つこともなく、敗死する真田幸村。

大河の需要にマッチしなかったのではないかと分析される背景には、そんな日本人の変化があったとされます。

三谷さんの大河は、興味深いことに毎回こうしたセオリーを外しています。

真田幸村の前は、集団単位で敗死する新選組が主役です。

しかし、北条義時はなまじ勝利しただけに、実は難しい。

そもそも、こいつの勝利なんてむしろ胸糞悪いから見たくなかった!と、思われても仕方ありません。

心情的な意味でいえば、むしろ敗者こそが美しいことは往々にしてある。

わかりやすいのが『三国志』の諸葛亮と司馬懿です。

諸葛亮は五丈原に散ったのに対し、司馬懿は晋の基礎を築くという勝利の礎を達成します。

しかしそんなものは『三国志』ファンからすればむしろ悪夢そのもの。

よりにもよって勝利して欲しくない魏から出てきた、陰険な司馬懿一族が勝利して幕引きだなんて、信じたくない!

司馬懿
ボケ老人のフリして魏を滅ぼした司馬懿が恐ろしい~諸葛亮のライバルは演技派

続きを見る

北条義時もそんな腹立たしい、不愉快極まりない勝者です。

彼と比べたら徳川家康なんて、むしろ善良極まりないといえる。

徳川家康
徳川家康はなぜ天下人になれたのか?人質時代から荒波に揉まれた生涯75年

続きを見る

源義経木曾義仲といった輝かしい弟や親族を殺し、蹴散らして頂点へと上り詰めた源頼朝

頼朝系が勝利の時点で憂鬱になりかねないのに、さらに北条義時が出てきて武士の世を築く――天意はなんと酷いことをするのか? どれだけの人々が、そんな風に天を仰いできたことやら……。

よりにもよって、北条義時が武士の世を確立させたという史実を、2022年は幾度となく突きつけられます。

日本人が古来から判官贔屓であるのは、史実からの逃避かもしれません。

判官贔屓
悲劇の牛若丸が日本人に「判官びいき」される理由~なぜ義経は頼朝に討たれた?

続きを見る

サムライジャパンだの自称するほど武士であることをアイデンティティとしている日本人。

しかしその武士の世はこんな陰謀に塗れた一族、しかも女系の乗っ取りによって完遂されていた。

不都合な史実。しかも北条の連中は、天皇にも文字通り弓を引いています。

北条って、一体……本当に、どういうことなんだ!

 


我々は何者であるか まだ知らない

日本人とは何者か。

それを考える上で、絶対に避けては通れないはずなのに、極めて不都合な北条氏。

日本人が何者かなんて自明のことのようで、実はそうでもない。

天皇の赤子?

王朝文化を尊ぶ雅が特徴?

いやいや武士として弓を執る者?

歴史の中をもがぎながら模索していて、実は今だってその最中では?

そんな混沌をさらに深めかねないのが、北条氏です。だから悪し様に罵倒もされてきた。

だからこそ「普通の青年が権力者になる」と紹介する本作が怖い。

悪とは何なのか?

それを考えるとき、人々は育ちであるとか、民族であるとか、先天性であるとか、そういった異質が為すと信じたがったものです。

昔は迷信や宗教を用いて悪を定義しようとしましたし、近代以降はニセ科学も使った。

それもついに限界がきて、だんだんとイヤな事実に直面しつつあります。

人間の心って、実はコロリと陰謀論やら悪の誘惑に参る。

誰でも悪になる。残忍なことを平気で出来てしまう。

そんな題材にあえて挑むことで、本作は、横っ面を引っ叩くような効果を期待しています。

この作品が成功するかどうか、どう判断すればいいかわからないと書きましたが、自分なりの基準でならば見えてきました。

『一読三嘆』ならぬ『一話三嘆』でどうでしょう?

一話をみるうちに最低でも三回、声をあげてしまうほどの場面があれば成功とします。

本来、それが一番大事だったことかもしれない。

作る側も見る側も、声を上げたくなるほどの驚きがあるということ。

それが映像を見る最大の楽しみでしょう。

ドラマを見てつぶやいていくつRTされるかとか。ハッシュタグやネットニュースの反応を気にしてしまうとか。

そんなことは一周回って忘れることこそが一番大事なのかもしれません。

誰かの意見でなく、自分自身の心に聞いてみること。

一回みるうちに三度声をあげたくなかったか?聞いてみること。

そうだったと返ってくれば、この作品は成功です。

そして私は成功すると信じています。

文:武者震之助

【参考】
『国史大辞典』
安田元久『鎌倉・室町人名事典』(→amazon

TOPページへ


 



-鎌倉殿の13人感想あらすじ

×