馬が野を駆けている。
馬にまたがる青年の背中には、鮮やかな色をした布。
矢が射たれる中、青年は背に向かって声を掛けます。
「姫、振り落とされないように気をつけて!」
いったい青年はどこへ向かうのか?
一年間、その様が描かれます。
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頼朝と八重が父の留守の間に
安元元年(1175年)、帝の警護をする大番役を終え、北条時政が3年ぶりに帰ってきました。
酒を飲み交わす武士。働く女たち。政子が張り切って客をもてなしています。
時政は悩んでいます。土産に金をかけすぎているらしい。義時はもっと買えばよかったというけれども、時政はお人よしなんですね。一人一個あげたいらしい。義時はそれが気前が良すぎると呆れている。
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政子は父のファッションにダメ出しだ。京都の垢抜けた衣装を見せろ、と着替えをさせる。
三浦義澄と義村父子に土産を渡しています。
この息子の義村が賢い。土産の数が足りないと先回りして、一つでよいと言う。
ただ、こういう賢さって、不気味なんですよね。お土産を辞退するようなときなら無害ですけど、何か利害や生死がかかった緊迫した場面なら足元をすくわれかねない。
宴が苦手だと義時が抜け出したところで、その義村が早速不気味な賢さを見せてきます。
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義時に、伊東の八重姫のことを話し始めました。
父の伊東祐親が京都に三年間いた留守中に、源頼朝との間に子供をもうけていたのです。
平家方の伊東祐親は激怒し、頼朝を殺そうとしますが、頼朝は直前に逃走していた。
義村の狡猾さが、この時点でわかりますね。
義時が八重に惚れていたことを義村は知っていたし、頼朝がカードとして面白いと踏まえている。その上で義時の反応を興味津々で見守っている。
で、案の定、義時が「八重さんかわいそう」というと「そっちかよ!」と突っ込むんですね。
義時と八重が最後に会ったのはいつか?と義村が確認します。三年前の宴だと義時が答えると、案外その頃からできていたんじゃないかと言ってきます。
坂東武者らしからぬ知恵者・三浦義村
義村は坂東武者の中でも頭ひとつ抜けて賢い。
以下のような状況によく表れています。
・義村がベラベラ喋り出した時、時政はわからないから説明しろと言っていた
自分と同程度の理解力を相手が持っている前提で話を進める人物は説明不足になりがち。
義村自身が思うよりも三倍くらい丁寧にしないと、周りにはなかなか通じない。しかも割と一方的に喋りますからね。
・義村は会話をしながら相手の動きを見ている
会話はキャッチボールと言いますが、義村はそれを露骨にやらかす。
八重のことをチクチク言いながら、義時がどう反応するかによって、相手の器を測っている。
この義村、本人はどう思うかわかりませんが、友達が少ないタイプでしょう。
そういったすべてを含めて山本耕史さんが適役に見えてなりません。
山本さんは、そこにいるだけで賢く見える。三谷さん大河三度目(前回は真田丸の石田三成)で、また一回り賢さに磨きがかかってきました。
三谷さんは鍛錬を怠らない方なので、個性の出し方に磨きをかけているのでしょう。
俺のことが好きかと思っていたのに
源頼朝が、おとなしく読経をする姿が見えます。
平家のライバルで源氏の嫡流。父は清盛との【平治の乱】に敗れて亡くなった源義朝です。
平清盛の戦う姿が回想され、頼朝が流人になった経緯が説明されますが、その厄介な頼朝の監視役を任されたのが伊東祐親でした。
清盛に目をかけられて伊豆で一番の力を持つようになった祐親。
三浦義澄(佐藤B作さん)と北条時政は、その娘を娶っているのです。
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そんなドロドロした政治事情はさておき、義時は失恋中。しかも初恋の相手が子まで作ってる。
鶯の声を背景に、手慰みに小刀で何かを削っております。俺のことが好きかと思っていたのに……悲しい勘違いだなぁ……。
でも、それこそ京都の人からすれば「どんだけ野蛮人なのよ!」という話かもしれません。
扇子で顔を隠すこともなく、若い男女が顔を見せ合って食事だなんて! 京都からすれば野蛮の極み。
ここで坂東武者の素朴な宴が繰り広げられます。亀と鶴がめでたいと能天気に歌い踊る。
『麒麟がくる』を思い出すと、戦国武士は文明を知っていたのだと思えます。彼らには、連歌会で暗殺を狙うくらいの風雅があった。
一方、坂東武者は、そもそも歌を詠む意味がわからないと思う。
素朴な場面ですが、なかなか手間暇かかってますよ。当時の歌や踊りを再現するのも大変。今年はその辺を手抜きしませんね。
そこへ兄の宗時がやってきます。弟を慰めるのかと思ったら、佐殿こと頼朝のことを聞いてきます。なんでそんな傷口に塩を塗り込むようなことを!
「ああ、あの流人……」
かったるそうにそう語る弟に、兄が明るく説明をします。13歳の折に右兵衛権佐に任じられたから「佐殿」と呼ばれているそうです。
格が違う、というけれど、実際どういう役目か理解できていないあたりが素朴ですね。
なんだかこの兄上、めちゃくちゃめんどくさそうなタイプですね。何かが間違った『鬼滅の刃』の炎柱・煉獄杏寿郎系だ。
兄の暑苦しさに対し、耳には入っていると返す弟。すると、弟も手を貸してくれると早合点する、間違った熱血兄貴……。なんでもこの兄上は平家が嫌いで、源氏につきたいそうです。
そんな兄の暴走に弟が「そもそもその佐殿が行方知らずだ」と返すと、この館にいると返す兄。
「ここにですか!」
そりゃ驚くわ。
佐殿の力で平家をぶっ潰す!
頼朝は変わらず読経中です。
信心深いということもあるのですが、名目上は「流人として読経三昧します」となっているのでアリバイ要素もあるかもしれません。
宗時は弟と頼朝を引き合わせると言い出す。
なにも、こんな人が集まる日に匿わんでも……と戸惑う義時。
しかも頼朝のことを父にも言っていなかったらしい兄。
なんだろう……事前に確認してから行動する三浦義村がものすごく賢く思えてきた。確認する重要性を知る義時も賢く思えてくる。
しょっぱなから勢いだけで突っ走りすぎなんだってば! 嗚呼、坂東武者が怖い……。
だいたい兄上のアンチ平家の理由も、いまいちわからないし、もう、これを、どうしろと!
頼朝の従者である安達盛長が取りつぎ、いよいよ頼朝に義時が紹介されます。
「お邪魔しております」
そう頼朝が言うだけで、文明の香りを感じますよね。坂東武者ではこうはいかなそうな。この香りにコロリとまいった宗時は、弟も手足になって源氏再興に努めると言い出します。
「かたじけない」
必ずや八重と若君を連れてくると言い出す宗時。
話がおかしなことになっていると義時がこのあと言うのに、さして気にもとめていない宗時。
話を聞かない兄は、平氏が我が世の春を謳歌していることに苛立ちをみせます。
人の所領から馬や女を奪い!
甘い汁を吸う!
こうなったら佐殿の力で平家をぶっ潰す!
そう言い出す宗時。
いや、そこは話し合いでどうにかしようよ。法律はないのかな? そう突っ込みたくなるけれども、仕方ないのです。当時の坂東武者はこうなのだから。
ここで『真田丸』でも出てきた鉄火起請でも思い出しましょう。
戦国時代にあった地獄の裁判「鉄火起請」は血で血を洗う時代には合理的だった?
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焼けた鉄の棒を握って神にお伺いを立てる――あんな野蛮なことで物事を解決しなくてもいいと思うのは、現代人の発想です。
坂東武者みたいに「ええい、ともかく殺るか殺られるか!」となるより、よほどマシでしょう。
坂東武者の言動から、人類の進歩を感じて欲しい。そう思いたい一年になりそうですね。
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